朝、起きたら、身体じゅうが緑色になってた。
蝉しぐれが照りつける7月、男は近所の老人から「暑さに負けない体になる」という謎の果実を譲り受ける。
翌朝目覚めると、彼の皮膚は鮮やかな緑色に変色し、体内には異様な痒みが広がっていた。太陽光を浴びた瞬間、足は根となり、肌からは青々とした葉が芽吹き始める。
人間から「木」へと作り変えられていく恐怖と、脳を侵食する光合成の謎めいた悦び。異形へと変貌を遂げる男の末路を描いた、怪異と美しさが交錯するボディホラー短編
セミの鳴き声がやかましく響く7月の朝、目が覚めて自分の手を見た僕は、絶望で息をのんだ。
皮膚の表面が、鮮やかでどろりとした緑色に染まっていたのだ。
最初は悪質な悪戯かと思った。しかし、石鹸でゴシゴシ擦っても、爪を立てて引っ掻いても、緑色の肌は落ちない。それどころか、皮膚のすぐ下に無数の小さな「何か」が蠢いているような、ぞっとするような痒みが芽生え始めていた。
パニックになりながら部屋のカーテンを開けると、夏の強烈な太陽光が部屋いっぱいに差し込んだ。
その瞬間、僕の足元からメリメリと音が鳴り響いた。
「うあ……あぁっ!」
光を浴びた途端、足の指先から茶色く硬い「根」が伸び、フローリングの隙間を突き破って床下へ潜り込んでいく。緑色の肌からは、青々とした小さな葉が次々と芽吹き、血の代わりにドロリとした青臭い樹液が体を巡り始めた。
思考が白く染まっていく中で、昨日の夕方に食べた奇妙な果物のことを思い出す。近所の見知らぬ老人が「夏の暑さに負けない体に変わる」と言って差し出してきた、見たこともない深緑色の果実——。
体内の水分が太陽光に吸い上げられ、光合成の悦びが脳を侵食していく。恐怖はいつしか、ゾッとするほどの心地よさに変わっていた。
言葉を発しようと口を開けたが、喉からは声の代わりに一枚の葉が零れ落ちただけだった。
僕はもう、二度とクーラーの効いた涼しい部屋には戻れない。じりじりと肌を焼く夏の太陽を見上げながら、僕は庭の土の上で、静かに不動の「木」へと姿を変えていった。
本作をお読みいただきありがとうございます。
「夏の暑さから逃れたい」という身近な欲望が、やがて人間の尊厳を奪う狂気へと変わっていく様を描きました。ボディホラーとしての生理的な不快感や異物感と、光合成という自然現象がもたらす圧倒的な多幸感——その真逆の感情が混ざり合う一瞬の「美しさ」を感じていただけたなら幸いです。
青々とした新緑の陰に潜む歪な生命力を、ぜひ夏の日の光と共に思い出してみてください。




