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1話「ゆる配信者、異世界でも配信中〜アーカイブは残りません〜」

初投稿です。全10話予定。よろしくお願いします!

「おはこん~!コノハのゆるゲーちゃんねる、今日もゆったりまったり配信していきまっす~」


毎週金曜、夜10時。

配信歴5年の、ゆるゲー配信者コノハ。

神プレイもミラクルもない、だらだらプレイ専門。

バズりもしなければ炎上もしない。

そんな、どこにでもある“過疎寄り”チャンネル。

でも。


「古舘さん、今日も色スパありがと~!」

「草太郎さん、今日も早々に草原ざっす」

「アンチパンマンさんは……今日も元気だねぇ」


コメント欄には、いつもの面子。

配信初期からの古参リスナー古舘。

テキトー発言で草しか生やさない草太郎。

口は悪いけどなんだかんだ毎回来るアンチパンマン。

その他、両手で数えられる程度のいつメンは、多少の入れ替わりはあるけれど、コノハのゆるいゲーム配信をダラダラ楽しんでくれている。

コメ欄はだいたい過疎だけど、それも嫌じゃない。

この“ゆるさ”が、ちょうどいい。

マイペースにやりたいゲームをゆるっと楽しむためのチャンネル。

それが『コノハのゆるゲーちゃんねる』だった。


「さて。今日ゆるっとプレイしていくのは──こちら!」

馴染みの口上で、正面に設置したウェブ配信カメラに向かってパッケージを掲げる。

新作VRゲーム【ログレス・シフト】

「まさかまさかの企業案件でございます。いやー、こんな過疎配信に依頼くるとは思わんかった。

ログレス・シフトさん、お仕事ありがとうございます!」


手にしたパッケージビジュアルは美麗な風景絵だ。

いかにも“異世界”って感じの風景の中、ドラゴンらしきモンスターや冒険者のアバターも描かれている。

手にしたソフトケースを裏返すと、小さく書き込まれた説明に目を走らせ気になるキーワードだけさっと読み上げる。

「パッケージ的には狩って狩って狩りまくる系ゲームっぽさ漂ってるけど、メインは育成ゲームらしい。

……モンスター捕まえて育てるとか?」

“あなたが、この世界を変えていく──”

タイトルロゴの下に書かれた意味深なメッセージと、小さく並んだ英数字。

【LS-00】

「んん?……なんだこれ」

──やけに、目に残る番号だった。

気になったそれを読み上げて、思わず呟く。

「シリアルナンバーかなんかかな?プレイヤーコード?」


──────────────────

・草太郎:全体的に怪しすぎて草www

・古舘:試作段階の識別コードか?

・アンチパンマン:地雷臭しかしねえ

──────────────────


「……まあまあ、案件だし?いつも通り、細かいことは気にしない方向でいきましょう」

軽く笑って流す。ゆるゲーチャンネルらしい、いつものテンションだ。


隅っこに記されたレーティング表示の並びには、小さく──“フルダイブVR対応”の文字。

「家庭用PCゲームでフルダイブってどのレベルまでいけんのかね?マシン負荷エグそう〜俺のマシンちゃん頑張って〜」

茶化すような軽さでイジりながら、事前に送られていた資料映像の話も振っておく。

企業案件のメインのお仕事、宣伝タイムだ。

「俺のポストで見た人もいるかもしんないけど、これさー、VRゲームだけあってグラフィックがやっばいの!映像だけで大興奮よマジで!!

概要欄に作品オフィシャルページへのリンクと作品説明を載せてるので、みんな絶対見てくれ〜」

しっかりと告知も挟みつつ、俺の部屋を映し出していた配信画面をゲームのプレイ画面に切り替える。

切り替えたゲーム画面に表示されているのは、資料映像と寸分違いないクオリティのオープニングムービー。


──────────────────

・草太郎:待ってましたwww

・古舘:接続安定しているか確認を

──────────────────


配信上ではゲーム画面の右側にコメント欄が表示されるように設定している。

「VRゴーグルつけたままだと配信モニターのコメント欄見れないから、いつもみたいにみんなの指示とか聞けないけどごめんな〜」

他のゲーム配信者には嫌われるらしい指示厨も、うちでは割とウェルカムだったりする。

プレイ映像へのリスナーのコメントと一緒にあーでもないこーでもないとわいわい盛り上がるのも、このチャンネルのコンテンツの一部だから、切っても切り離せないのだ。


──────────────────

・アンチパンマン:縛りプレイなしか、つまんね

・ナナシ:今きたけど今日はVRゲームですか?

──────────────────


「あっ、ナナシさんいらっしゃ〜い。今からスタートだからギリギリセーフだよん」

常連の1人である常識人枠・ナナシさんも加わったコメ欄は、いつも通り緩やかだ。

俺がプレイ中で見れない間に荒れないことを祈りつつ、ヘッドセットを手に取った。


両手用コントローラーはグローブ式で、両足には歩行用デバイスも装着済み。

両目を覆うようなゴーグル部分の角度を調整して──装着。

異世界の風景を空撮したような滑らかな映像に壮大な音楽が合間って、プレイヤーの期待感を煽っていく。

美しくも雄大な異世界の映像が視界いっぱいに広がったまま、視線の先にウィンドウが表示された。


===================

 ログレス・シフトの世界へようこそ

      《START》

===================


「うお、すげー!テンション上がってきた〜〜!!!」

ヘッドセットを着けたままの頭を左右に動かすと、視界も同じように動くのが面白い。

両手を目線の高さに持ち上げたら、指先の位置がポインターのように光った。

「右手の人差し指がカーソル選択っぽい」

目の前に映し出された映像の中、スタートの文字に手を伸ばす。

指先に僅かな感触の返りがあって、どんな仕組みかかわらないけどなんかすごい。

本当は操作性のひとつひとつを真面目にレビューしながらプレイするべきなんだろうけど、早く本編に進みたい気持ちが先走る。

なんたって、この初見プレイ配信のためにチュートリアルにすら手をつけていないのだ。

いつものゲーム開始の口上と共に、ワクワクと逸る胸が踊るまま、クリックするように指を動かす。

「そんじゃ早速、今夜もゆるプレイ、スタート!」


秒を置かずに流れるように切り替わった映像は、プレイヤー名の入力欄とアバターの選択一覧だった。

「名前は──コ、ノ、ハ、」

俺の声に反応して名前が浮かび上がる。音声入力の感度も良好のようだ。

続いて一覧表をスクロールするように指を滑らせて選んだアバターは──

「やっぱり黒髪女子一択っしょ」

俺のこだわり、ってわけじゃないんだけど、アバターは女子キャラを選びがち。

たぶん、コメ欄では“コノハのいつものやつ”イジリされてるはず。

「俺の癖へのみんなのご意見は次回の雑談配信で聞くとして。

 ──さて、このままチュートリアルか?」

視界の中では、俺が選んだアバターの女の子が、ぱちりぱちりと瞬きを繰り返している。

うわ、かわいー。

ほんのりと笑みを浮かべたその子は、俺に向かって手を伸ばして──


次の瞬間、視界が暗転した。


──ぶつん。ジ、ジジ……ピィィィ──


「えっ、なになになになに!?」

デジタルノイズが鼓膜を揺さぶる、嫌な音だ。

次いで、視界の奥で閃光弾が弾けるような強い光。

あまりの眩しさに、咄嗟に腕でガードして目をつぶる。

「うわーッッッ、……て、あれ?」

数秒置いて恐る恐る目を開いてみると、残像みたいな光はあっという間に消え去っていた。

かわりに視界を埋めるのは、陽光も差さないほど深い森の映像だ。

先ほどまで見ていたオープニング映像とは違った、リアルな質感。

鮮明すぎて、脳がバグる。

「ここまでリアルだと、ゲームってより映画の世界っぽい。開発費エグそう」

今までのVRと、絶対的に違う。

“リアルでそこにある”。

そんな感覚だった。


──────────────────

・草太郎:グラえぐwww

・ナナシ:リアルすぎません?

・古舘:没入型の新技術か

──────────────────


瞬きした視界の端に、見慣れたものが入り込む。

──コメント欄だ。

それは本来、俺の配信画面にだけ表示されているはずのもの。

「うわ、コメ欄!?え、なんで?」

表示されるはずのないそれが、透明なウィンドウみたいに宙に浮いている。

「コメ欄同期する機能とかあんのか、このゲーム?」

半透明のウィンドウの中を、いつもの面子のコメントがいつもより少し騒がしい早さで流れていく。

「おわ、沸いてんな〜。うちのチャンネルでやるクオリティのゲームじゃないもんなwそれはそうw」

指先でちょんちょんと突ついても消えないっぽい。

想定してなかったけど、これならいつものノリでプレイできるし、ま、いっか。


グローブ型のコントローラーをつけた手をグーパーと動かして感度を確認してみるが、遅延はなさそうだ。

スムーズな操作性、大事だよな。

「──ん?てか、これ、ちょっと……」

話しながら、視界を左右に動かして感じた違和感の正体を探る。

両手を上げたり足を動かしたり、頭を振ってみたり瞬きしたり。

そうしてひとしきり試してみてわかった。


──遅延が、なさすぎる。


それどころか、空気の感触や、生い茂った草の匂い。

頬を撫でる風に、鳥の声までがリアルに伝わってくる。

「風……?」

配信用に防音対策を施した俺の部屋で、エアコンも扇風機もつけていないはずなのに、風が吹くなんておかしい。

VRゲームの世界で、ニオイや風まで再現するのはさすがにヤバすぎる。

こんなの、ただの家庭用ゲームじゃ無理だろ。


──────────────────

・草太郎:演出すげえwww

・ナナシ:え、本当に大丈夫ですか?

・古舘:一度ゴーグルを外すべきだ

──────────────────


「ちょっと待って、一回──」

ヘッドセットを外そうと右手で掴むように頭に触れた、筈だった。

……なにも触れない。

「は?」

いや、手は頭に触れてるのに、あるはずのもの(ヘッドセット)に、触れることができない。

“最初から()()()()()()()”みたいな感覚。

「え、なにこれ」

ヘッドセットどころか、両手のコントローラーも足に着けたはずの歩行デバイスも、着けた感触がない。

視界の中に映り込む手足も生身の俺の体ではなくて、選択したアバターの少女のもののように華奢だ。

「これはさすがに、没入しすぎじゃん……?」

呟く声が震える。

心臓がドクンと音を立てて、少しだけ速くなった。


──────────────────

・草太郎:え?

・ナナシ:どういうことですか?

──────────────────


目を擦ってもゴーグルがズレることもなく、コメント欄も消えない。

ただただ視界を埋めるのは、ゲーム世界の風景だ。

──そう、まるで木々が鬱蒼と茂った森の中のダンジョンに居るような。

「……てゆうかここ、どこ?」

動揺したまま、左右に視線を走らせる。

どう見たって完全に屋外。

それどころか見たこともない場所。

遠くに聞こえるのは、聞き慣れない獣の遠吠え。

どう考えても、日本じゃない。

というか──現実でもない。

「……は?」


──────────────────

・草太郎:ロケ配信!?w

・ナナシ:合成、じゃないですよね……?

・古舘:状況説明を求む

──────────────────


「いや無理無理無理無理無理」

足元を見る。

見慣れない靴を履いた小さな足だが、実感を伴って俺の足だとわかる。

視界に映り込む、土。草。影。コメント欄は風景を背景にして宙に浮いたまま。

踏みしめれば、ざく、という音と一緒に、足裏に僅かな感触まで伝わった。

「これ……」

ゲームにしろ、夢にしろ、リアルすぎるんだ。


──────────────────

・草太郎:神回の予感www

・ナナシ:笑えないですこれ

・アンチパンマン:仕込み乙

──────────────────


「仕込みでこんなことできたら配信者は苦労してねえよ!」

コメント欄に向かって吠えるように言葉を返した、そのとき。

ガサッ。

背後の茂みが揺れた。

「……え?」

現れたのは、小型の獣。

丸い体に、鋭い牙。見慣れない角まである。

「……イノシシ?」

言っておいてなんだけど、たぶん、つーか絶対違う。

血走ったような赤い目が、ギラリと光る。

やばい、モンスターだ。


──────────────────

・草太郎:こわw

・ナナシ:危なくないですか!?

・古舘:距離を取れ

・アンチパンマン:いきなりモンスターとエンカウントか

──────────────────


じり、と距離が詰まる。

敵意を含んだ、低い唸り声。

「ちょ、どうすれば──」

後ずさった足元で、パキと枝が踏み折れる音がした。


──────────────────

・草太郎:いけwww殴れwww

・ナナシ:逃げて!

・古舘:その個体、おそらく直線突進型だ。木を盾にしろ

・アンチパンマン:説明なしのバトルモード、詰みじゃん

──────────────────


視界の端では、常になく沸いたコメ欄の中で、それぞれ勝手に騒ぎながら意見を垂れ流していく。

「あ〜〜!もうっ、どっちだよ!」

次の瞬間。

唸り声を上げたまま、モンスターが飛びかかるように突進してきた。

「うわっ──!」

間一髪、横に飛んだままの勢いを殺せず、無様にも地面を転がる。

モンスターはドシドシと足音を立てながら走り去ると、砂埃を上げて視界から姿を消した。

「いってぇ……!?」

倒れ込んだ先が柔らかく湿った土だったからコンクリよりはマシだけど、痛いもんは痛い。

──痛い?

ゲームなのに?

「……こんなの、“ゲームの痛さ”じゃないだろ……?」


──────────────────

・草太郎:転けたwww

・ナナシ:大丈夫ですか!?

・古舘:痛覚フィードバックありなのか

──────────────────


痛む腕を押さえると、薄いシャツの布地にじわりと血が滲む。

グラフィックがすごいとかそんなレベルの話じゃない、生々しいまでの視覚情報。

木々の合間を、唸り声を上げたモンスターの気配が、じりじりと近付いてくる。

呆然と座り込んだままの視界の中で、コメント欄という現実世界と、モンスターという異世界が交錯する。

「──やばいってこれ!」

さっきは思ったよりも鈍いスピードだったから避けられたけど、あれは当たったら絶対に死ぬ。

装備も何も持っていない初期設定キャラで、こんな殺傷力高そうなモンスターとどうやって戦えというのか。

──どう考えても、終わってる。

「ど、どうすればいい!?」


──────────────────

・古舘:木の陰に入れ。この手のモンスターの突進は曲がれない

──────────────────


「……っ!」

冷静なコメントを信じて、巨木の裏へ滑り込む。

命の危機に瀕すると、五感が研ぎ澄まされるって聞くけど、ほんとそれ。

風の流れとか葉音とか、普段気にしたことがないものまで聞こえるみたいだ。

緊張で荒くなる息をどうにか我慢して、身を縮めて気配を消した。

そうしてる間に、すぐ近くまでやってきたらしいモンスターの呼気を感じて、肌がぞわりと粟立つ。

(これやっぱ無理じゃね、え、これ痛覚あるならデッドエンドで終わったら死ぬほど痛いとかある?)

いつもの配信なら無意識に口にするボヤきも、息を顰めている今はとてもじゃないけど声にできない。

生唾を飲み込む音すら立てられないほど、緊迫した空気。

モンスターが土を踏み締めるドシドシという音に、悲鳴を上げそうなほどの恐怖感。

──直後、すぐ横を何かが通過して、モンスターの気配が再び遠ざかっていった。

「はぁっ、はぁっ……」

バクンバクンと心臓がうるさいくらい音を立てているのが、耳の奥で響く。

これ、完全に。


「……ゲームじゃないだろ」


「──何をしているの」

凛とした声。

顔を上げる。

そこにいたのは、長い髪の少女。

冷たい目が、こちらを見下ろしている。

「そんな装備じゃ、すぐ死ぬわよ」

「……え?」

理解が追いつかない。

でも──

助かった。


──────────────────

・草太郎:ヒロインきたwww

・ナナシ:よかった……!

・古舘:一旦安全か

──────────────────


「……いやちょっと待って」

この世界で初めて出会った第1村人は、見るからに“冒険者”らしい装備を身につけた少女だった。

「つかぬことをお聞きしますが、ここは、どこでしょう……?」

RPGの作法に則って、出会った人に話しかけてみる。

もちろん、選択コマンドなんて表示されていないけど。

「どこって……知らないで迷い込んだの?」

暫定・冒険者の少女が、呆れたようなため息を零す。

「ここは、魔の森の中よ」

「──いや、森なのは見れば分かるけど!そうじゃなくって!!」

違う。

そうじゃなくて。

視界の端で、コメントが流れる。


──────────────────

・草太郎:名前聞けwww

・古舘:このキャラはNPCか?他のプレイヤー?

──────────────────


コメント欄は通常進行。

先ほどまでのモンスターとの遭遇も、何事もなかったみたいに。

「……」

深く息を吸って、吐き出して、深呼吸。

そして。

「とりあえず」

思考に蓋をするように、へらりと笑って。

「このまま配信、続けるか」


──────────────────

・草太郎:草

・ナナシ:その判断なんですか!?

・古舘:油断はするなよ。どうやらこれはゲームじゃなくて──現実だ

──────────────────


これは、この時の俺が考えてもいなかった、配信者人生最大のバズり配信の始まりで。


俺の、意味の分からない──

“ログアウトできない”異世界配信生活の始まりでもあった。


しかもこの配信は、まだ続いている──


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