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ユニークスキル【不運】の俺、魔素を消せるせいで最弱認定されたけど、親友の勇者を救うために最強を目指します  作者: 霧原なぎ


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第1話 俺のスキルは【不運】らしい

 今日は覚醒の儀だ。

 十二歳になった子どもたちが広場に集まって、ユニークスキルを授かる。年に一度のこの村の一大イベントである。

 俺はカイト・フォルトナ。フォルトナ村で生まれ育った、どこにでもいる普通の農家の息子だ。

 隣を歩いているのが幼なじみのレオ。こいつとは物心ついた頃からずっと一緒にいる。


「なぁレオ、どんなスキルがいい?」

「んー、何でもいいかな。カイトと一緒に冒険できるやつなら」


 ……こいつはさらっとこういうことを言う。

 俺だって同じことを思っていたが、口にはしない。男の友情ってのはそういうもんだ。


「お前さ、そういうの恥ずかしげもなく──うわっ」


 足元の溝に見事にハマった。

 朝露で湿った地面に片足を取られて、膝まで泥だらけ。覚醒の儀用に母さんが用意してくれた白いシャツが台無しである。


「……カイト、前見て歩けよ」

「道が悪い」

「道のせいにするな」


 レオが呆れた顔で手を差し出してくる。こいつの手はいつも温かい。

 朝から幸先が悪い。まぁ俺の場合、これくらいは日常茶飯事なんだけど。

 物心ついた頃から、俺はとにかくツイてない。転ぶ、落ちる、ぶつかる、踏む。ありとあらゆる不運が俺のところに集まってくる。村の大人たちには「厄落としのカイト」なんて呼ばれている。ありがたくないあだ名だ。


 広場に着くと、もう人だかりができていた。

 今年の覚醒対象は十五人。みんな緊張した顔をしている。そりゃそうだ、ここで授かるスキルで人生が決まると言っても過言じゃない。

 広場の中央に置かれた覚醒の石──大人の腰くらいある水晶の塊に手を触れると、体内の魔素が反応してスキルが覚醒する。判定官が石の色と反応でスキルの名前と格を読み取る仕組みらしい。


「最初の方、どうぞ」


 判定官のおじさんが呼ぶと、村の子どもたちが順番に石に触れていく。


「C級【火魔法】」

「D級【微風】」

「C級【身体強化】」


 触れるたびに石がぼんやり光って、判定官が結果を読み上げる。C級が出れば歓声、D級だとため息。残酷だが、これが現実だ。


「次、レオ・フォルトナ」


 レオが前に出た。

 石に手を触れた瞬間──。

 空気が変わった。

 比喩じゃない。広場全体に風が吹き荒れるような、腹の底に響くような圧が走った。石が今までとはまるで違う、目を開けていられないほどの光を放つ。

 判定官のおじさんが目を見開いた。手が震えている。


「S級……【勇者】」


 広場が静まり返った。

 一拍遅れて、爆発するような歓声。


「勇者だと!?」

「フォルトナ村から勇者が出た!」

「すごい、すごいぞレオ!」


 村人たちが押し寄せる。レオは人混みの中で少し困ったように笑って、一言。


「そっか」


 ……お前、勇者だぞ? 反応薄すぎないか?

 でも、それがレオだ。こいつは昔からこうだった。かけっこで一番になっても「そっか」、魚を一番多く釣っても「そっか」。嫌味じゃない。本当にそこに興味がないのだ。

 天才ってのはこういうやつのことを言うんだろう。


 人だかりが少し落ち着いた頃、判定官が思い出したように言った。


「次、カイト・フォルトナ」


 正直、レオの後は気が重い。

 でも、覚醒の儀は一生に一回だ。どんなスキルでもいい。俺はレオと一緒に冒険に出るって決めてるんだ。

 石に手を触れる。

 冷たい。水晶特有のひんやりした感触が手のひらに伝わる。

 ──何も起きない。

 光らない。風も吹かない。さっきまでの派手な演出が嘘みたいに、何も。


「…………」


 判定官が眉をひそめて石を覗き込む。

 長い。さっきの子たちは触れた瞬間に反応があったのに、もう十秒は経っている。二十秒。三十秒。

 広場がざわつき始めた。


「おい、石が壊れたんじゃないか?」

「さっきまで普通だったろ」

「じゃあ……スキルが出ないってこと?」


 判定官が額の汗を拭いて、絞り出すように言った。


「……規格外。【不運】」


 静寂。

 今度は歓声が来ない。代わりにヒソヒソ声が広がっていく。


「規格外って……」

「ハズレ以下ってことか?」

「不運って、スキルなのかそれ」

「かわいそうに……」


 視線が痛い。同情、好奇心、そしてほんの少しの安堵──「自分じゃなくてよかった」。人間ってのは正直だ。

 不運。

 【不運】。

 マジか。

 いや、なんとなく予想はしていた。俺の人生は昔からこんな調子だ。転ぶし落ちるしぶつかるし踏む。スキルに名前をつけるならそれしかないだろう。

 でもな。

 さすがにちょっと堪えるぞ、これは。


「……まぁ、死ぬわけじゃないし」


 自分に言い聞かせるように呟いて、石から手を離した。


 儀式が終わって、みんなが帰り始める。

 レオの周りにはまだ人だかりができている。勇者様だ。そりゃみんな話したいだろう。

 俺は一人で帰ろうとした。別に拗ねてるわけじゃない。ただ、今はちょっと一人になりたかっただけだ。


「カイト」


 振り返ると、レオが人混みをすり抜けてこっちに歩いてきていた。

 群がる村人を振り切って、勇者様が規格外のハズレの隣に並ぶ。


「……お前、いいのか。みんなお前と話したがってたぞ」

「別にいいよ。明日も会えるし」


 レオは俺の隣に並んで、いつも通りの歩幅で歩き始めた。

 しばらく無言で歩く。夕焼けが畑を橙色に染めている。


「規格外ってさ」


 レオが言った。


「誰にも測れないってことだろ。ハズレとは限らないんじゃないか」


 ……こいつは。

 慰めてるのかもしれないし、本気で言ってるのかもしれない。レオの場合、たぶん本気だ。


「お前ってさ、たまに──うわっ」


 また溝にハマった。

 同じ溝。朝と同じ場所。学習能力ゼロかよ、俺。


「……カイト」

「道が悪い」

「朝も同じこと言ってたぞ」


 レオがまた手を差し出す。

 その手を掴みながら、俺は笑った。泥だらけのまま。


「……まぁ、なんとかなるだろ」

「なるよ、たぶん」


 たぶんって何だよ。

 でも、なんかちょっとだけ気が楽になった。


 家に帰ると、母さんが泥だらけの俺を見て「あら」と言った。怒ってない。慣れてるのだ。

 飯を食いながら、今日の結果を報告した。


「スキルは【不運】だって」

「あらまぁ」

「ユニークスキルなのに、ハズレだってさ」

「ふうん。でも死ぬわけじゃないでしょう?」

「……まぁ、うん」

「じゃあいいじゃない」


 うちの母さんは強い。


 その夜、なかなか寝つけなかった。

 天井を見上げて考える。【不運】。俺のユニークスキル。規格外だけど、たぶんハズレだ。たぶん。

 レオは【勇者】。S級。国宝級のスキル。

 差がとんでもないことになった。でも、俺はレオと一緒に冒険するって決めたんだ。スキルがハズレだろうが何だろうが、それは変わらない。

 変わらないったら変わらない。


 ……ただ、どうやって追いつくかは全然わからないけど。


 翌朝、村がざわついていた。

 なにやら立派な馬車が来ているらしい。王都からの使者だという噂がすでに駆け巡っていた。


「──レオ・フォルトナの覚醒を確認。王立クロノス学園への入学をお伝えに参りました」


 勇者の人生は、もう動き始めていた。

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