この弱味は、どうしようもありません
手慰み、第数弾でございます。
お楽しみいただければ、ありがたいです。
側近の公爵令息の、婚約事情が怪しい。
最近、幼馴染で側近候補の公爵令息が、婚約した。
相手は、最近伯爵位となった、元子爵家の令嬢だ。
最近、領地の特産物で作成される品が国を代表する名産になりつつあることを称えられ、王命により爵位が上がったのだ。
そして、それと前後してなった縁組は、公爵令息を狙っていた令嬢たちからの不満を煽る形となった。
王太子である第一王子も、幼馴染である令息の心境を気にしていた。
漸くギリギリ、公爵家の縁談相手として見れるほどになっただけの伯爵家の令嬢が、何かよからぬ事をしてその座にねじ込んできたのではないかと、疑っていたのだ。
それは、他の令嬢たちも同じだったようだ。
第一王子の婚約者の公爵令嬢は、例の令息の双子の姉に当たる。
令嬢は王子の疑いに、困ったように答えたのだ。
「弟はあのご令嬢に、弱味を握られてしまったのですわ。でもこれは、弟本人の問題ですから、殿下が気を煩わせる話では、ございません」
弱味?
それは、聞き流せる話ではなかった。
公爵令息を狙っていた令嬢たちの詰問に、伯爵令嬢は困ったように答えている様を時々見かけていたが、それが白々しく見えるようになってしまった。
内内に、伯爵家の内情を調べてみたが、裏でよからぬことをしている気配はないし、貴族を脅している様子もない。
という事は、公爵令息本人だけを、姑息な脅しで縛っている、という話に他ならない。
姉の公爵令嬢でさえ、どうしようもない弱味を握られてしまった令息は、伯爵家の縁談を断れなかったのだ。
王子は、父である国王陛下に、下手に彼の縁談に物申してみたが、国王は何とも言えない顔になって、
「王命で、婚約させたのだから、そう簡単には覆せない」
と言われただけだった。
他の側近たちと、伯爵令嬢に直接文句を言ってみたこともあるが、令嬢も困ったように首を振った。
「これは王命で、わたくしの気持ち次第で解消など、出来ぬ話でございます」
これが、そちらの手かと、王子は腹が立った。
そちらがその気ならば、こちらも本気で解決してやる。
そう決めた王子と他の側近は、公爵令息本人を説得して、王命の撤回を頼むよう進言することにしたのだった。
父上である公爵に、婚約を白紙に戻すよう頼むよう、王子に言われた令息は、眉を寄せて言った。
「嫌ですよ」
「はあ? お前、あの令嬢に弱味を握られて、婚約を強いられたるんだろ?」
「はあ?」
気心知れた令息は、王子への礼儀を捨て去って、不機嫌に返した。
「弱味があるから、何ですか? あなたに、その弱味をどうにかする術が、あるんですか?」
「お前ひとりの問題なら、いくらでもあるだろう? お前個人の話で、あんな低位の令嬢を公爵家に入れることになった、お父上の心境も考えろ」
心に響くであろう言葉を口にしたら、公爵令息の顔色が変わった。
いい傾向だと笑みを浮かべた王子に、冷たい声が投げかけられる。
「ご存じじゃないんですか? 今回伯爵位を授かった家は、わが公爵家とは旧知の仲だと?」
声音と同じ冷たい目を向けられ、王子は思わずたじろいだ。
そんな仕えるべき人を見据えながら、令息は言う。
「ようやく、公爵家との縁談を進められるほどの爵位になってくれたことを喜んでいるのに、破談を申し込めなどと……あなたを、見損ないました」
「な、何? ま、待て。お前、弱味を握られてるんだろっ? だから、伯爵家の令嬢なんかを……」
「弱味? あるから、何ですか? あなたには、どうすることもできないくせに」
やけくそ気味に吐き捨てる令息に、王子は真剣に言いつのった。
「聞いて見なきゃ、分からないだろうがっ。私で解決できる弱味なら……」
「じゃあ、やって見せてくださいよ。惚れた弱味を、どう解決するんですかっ?」
しん、と場が静まった。
公爵令息の、興奮した息遣いだけが、その場を占める中、周囲には可笑しな沈黙が流れた。
「……伯爵家とは領地が近くて、よく家族ぐるみで行き来していました。私たち姉弟とは一つ違いの伯爵令嬢とは、その付き合いの中で会って、私は彼女に一目惚れしました」
公爵令息の熱量だけが場を温める中で、吐き出すように告白が続く。
「年頃になってからは、接触を必死に避けて、それでも嫌われたくなくて、本当に苦しかったんです。それを父上も察してくれて、当時子爵だった伯爵も、令嬢が公爵家に嫁げるよう、腕を振るってくれたのですっ。その努力をっ。あなたは踏みにじろうとしたんですっっ」
「……ああ。すまん」
若干引き気味の王子は、視線の端に写る自分の婚約者に気付いた。
その傍に立つ伯爵令嬢にも。
取り繕えるのは、ここしかない。
王子は咳払いし、令息に声をかけた。
「それ、令嬢本人は、知っているのか?」
「知ってるはず、ないでしょうっ? 私は、冷たい婚約者として、接しているんですっ。王命があったからこそ、まだ縁が繋がっているに過ぎないですっっ」
「なら、逃げられる前に、ちゃんと告白してはどうだ?」
当然の意見に、令息はぶんぶんと首を振った。
「婚姻の後、初夜に告白するんですっ」
「それじゃあ、遅いわあっっ」
周囲に集まっていた野次馬の声が、見事に揃ったのだった。
あれ、これ、やりなおす意味、あったか?
第一王子の側近の一人、伯爵令息はつい、首を傾げた。
王子の見当違いの判断で、公爵令息が腑抜けになった前の人生で、伯爵令息と他の側近たちが、将来ブラックな環境を強いられる羽目になるのを防ぐため、のつもりだったのだが。
公爵令息は、腑抜けになる前も、ヘタレだったことが判明した。
元々はこの公爵令息が担うはずだった仕事を、前の人生では伯爵令息である自分がこなす羽目になり、学園を卒業して数年で体調を崩し、そのまま死を迎えた。
と思ったら、学園入学の年に戻っていた。
本当は、王太子に目をかけられないように、目立たず過ごすつもりが、いつの間にか前と同じように侍る立場になってしまい、焦った令息は、他人の人生を変えることに決めた。
身分差のある伯爵の令嬢と婚約していたのを、王子の横やりで破談したのち、腑抜けになってしまった公爵令息を、ブラックな職場に巻き込もう。
そんな暗い理由で、公爵令息の婚約解消を未然に防ぐ計画を立てた。
前の人生では、王子は内内に動き、その婚約を無理やり解消に導いた。
その結果、伯爵令嬢は別の伯爵家に嫁ぎ、公爵令息は腑抜け状態になって、領地に引っ込んでしまった。
そして、後継ぎを失った公爵家は、王子と令嬢との婚約をも白紙に戻すしかなくなり、王子は別な令嬢と婚姻する羽目になった。
伯爵令息が生存時はまだ王太子のままで、自分亡き後どうなったのかは分からないが、公爵令嬢の代わりに王太子妃になった令嬢と、残った側近たちでは捌けない仕事量であったため、全員遅からず自分と同じ運命を辿ったのではと思っている。
ならば、全員を救うためにも、優秀な二人を巻き込もうじゃないかと、前の人生で伯爵令嬢と添った相手やその子、公爵令嬢の入り婿になった相手とその子という犠牲を承知で、伯爵令息は闇落ちする覚悟で、人生の改変に挑んだ。
何とか裏で手をまわして、王子が令息本人に本音を聞くように仕向け、阿保のような本音を吐き出させた。
いやあ人って、恋をすると変わるんだねえ。
自分の婚約者たちに頼んで、当の令嬢もその場に居合わせるように仕組んだのだから、この場の勢いですべてが解決すればいいなあ。
そんなことを思いながら伯爵令息は、遅ればせながら当の婚約者の存在に気付き固まった公爵令息を、陰ながら応援するのだった。
テンプレを、思いつかない問題が、発生いたしました。
色々と、なろうさんの作品を、探って見つけてみようと思います。




