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争い嫌いの元社畜ですが、『ハーモニー』スキルで魔物たちとノーストレスな共存生活を始めました。  作者: 遠峰 黎


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第8話:卵で錬金術?

 食事後、俺は満たされたお腹を抱えながら、洞窟の隅で座り込んでいた。


 伝説の存在が産んでくれたうずらの卵サイズの黄金色の目玉焼きは、俺のレベルを一気に10まで引き上げるという、驚くべき効果をもたらした。それに、サイズは小さいのに、不思議なことに十分な満腹感が得られた。


「ヒー、卵ありがとう。本当に最高のごちそうだったよ」


 俺が心から礼を言うと、ヒーは黄色い羽毛を誇らしげに膨らませた。


「ミー、フーも料理ありがとう」

ミーとフーも弾んで喜びを表している。


「ふふん、感謝なさい! 私がご機嫌であれば、この程度のもの、いくらでも生み出せるわ!」


 ヒーはそう言うと、満足げに何度か鳴き、コロン、コロンと、先ほど食べたのと同じうずらの卵サイズで黄金色の卵を、さらに三つ、地面に産み落とした。


「すごいな! もう三つも!」

「なあ、ヒー。この卵も、もらっていいのか?」

 ヒーは羽繕いをしながら、面倒くさそうに答えた。

「好きにしなさいよ。どうせ、私にとってはまた産めば済むだけのものだもの。感謝しなさい」

「ありがとう!」


 俺はすぐにそれらを拾い上げ、布に包んでリュックにしまった。リュックの中には、今産まれたばかりの伝説の卵が三つ。


 俺は改めて感謝した。食料が安定しただけでも嬉しいのに、こんなすごい卵が複数手に入った。


(ちょっと待てよ⋯⋯)

 

 俺はふと、昨日の会話を思い出した。


「さっき森の中で、ヒーはこの卵を有難がる連中もいるって言ってたよな?」

「ええ」

「その連中っていうのは、人間か?」

「そうよ」

「確かに美味しいもんな。食べた瞬間、レベル10まで上がるしな。すごい経験値だ」


 そう言うと、ヒーは心底呆れたように目を細めた。

「ちょっと待ちなさい。『有難がる』とは言ったけど、食べるとは言っていないわ。人が、卵を崇めるってこと。普通は食べないわ」

「え?」

 俺は思わずヒーを見た。


「伝説の存在の卵を食べるなんて、罰当たりでしょ。食べるなんて、この世であなたくらいのものよ」


(そうだったのか……)


 俺は、今しがた食べたばかりの、黄金の目玉焼きを思い出した。


「そ、そうか。罰当たり……。でも、俺、食べちゃったけど……」

「まあ、いいわ。食べようが崇めようが、あなたの自由よ。私にとってはどっちでもいいことだもの」

 

 ヒーの言葉に、俺は少し安堵した。お腹も空いていたし、食べてしまったが、取り返しのつかないことでなくて良かった。そして、俺は一つの結論を出した。


「そうすると、この卵は……人間にとって『商品』としても極めて価値が高い、ということだよな」

「そうかもね」


 この生活を維持していくためには、衣食住の資金が必要だ。一度町に戻ってもいいかもしれない。

「よし、決めた」


 俺はミーとフーに向き直った。

「ミー、フー、ヒー、俺は少し町に戻ってみる。この卵を売って、生活に必要なものを買ってくるつもりだ。留守番を頼めるかな」


「うん、ヤマダー、気をつけてね!」

「はい、基地は僕たちが守ります」

「せいぜい気をつけることね」


 俺はヒーフーミー(俺としてはこれが一番言いやすい)に別れを告げ、黄金の卵3個をリュックに忍ばせると、最初にいた町へ引き返す道を辿り始めた。


◆◇◆


 数時間かけて町に到着した俺は、まず商人がいる店を探した。


 大通りから一本入った裏通りに、それらしい建物を見つけた。店頭のガラス窓には、古い武具や雑貨なんかも陳列されている。しっかりと店を構えている由緒ありげな骨董品屋のように見えた。


 俺は深呼吸をして、店のドアを叩いた。

「すみません。買い取りはやっていますか?」


 そう尋ねると、店の中から、人の良さそうな、丸顔の小太りな中年男性が現れた。彼は笑みを浮かべた。


「やっているよ。珍しいものなら、価値に応じて引き取るよ。ただし、価値がないものは買い取れないからね」

「分かりました。それでは、これなんですが」


 俺は、布に包んでいたヒーの卵を一つ、そっとカウンターに差し出した。布を解くと、うずらの卵サイズの黄金色の卵が、カウンターの上で控えめに輝いた。店内の薄暗い照明の中でも、その光沢は際立っている。


 その瞬間、商人の目が、カッと見開かれた。その目は、長年、金や財宝を見てきた者の、獲物を見つけた時の輝きだった。


「これは……!」


 商人は声を潜め、周囲を見渡した。そして、引き出しから丁寧に白い手袋を取り出し、装着した。

「いいですかな?」と言って、卵を丁寧に手に取り、光に透かし、観察し始めた。


「も、もしや伝説の『オーラムバード』の卵ではないですかな? 一体どこでこれを……」


 その言葉に、俺は背筋が冷たくなった。やはり、想像以上の価値があるらしい。


(目の前で産んでもらったとは、さすがに言えないな⋯⋯)


「実は冒険者の知り合いから、ごく少数を譲り受けまして。事情がありまして、良かったら引き取ってもらえないかと」

 咄嗟についた嘘だったが、大丈夫だろうか。


 すると、商人は興奮を抑えきれない様子で頷いた。


「もちろん、もちろんですとも! これは素晴らしい。入手困難と言われる伝説の卵。これを拝むことで、病気の回復をはじめ、あらゆる奇跡を起こすとも言われているんですよ!」


 商人は少し早口でまくし立てると、興奮を抑えて低い声で言った。


「値段ですがね、『金貨三十枚』でどうですかな。これほどの輝きがあれば、まず間違いなく本物です!」


 金貨三十枚!


 最初にもらった銅貨数枚で、ここまでなんとかやってきた俺には、信じられない提案だった。この金額があれば、おそらく生活に必要な物を全て用意できる。金貨三十枚は、あまりにも素晴らしい提案だ。


「分かりま――」

と、快諾しようとしたとき、後ろの扉から、声がした。


「適正な金額ではないんじゃないかな、親父さん」


 店先の重いドアが開き、俺は振り返った。

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