第5話:火と水のハーモニー
俺たちが基地である洞窟に戻る頃には、夜が深まり、入口から冷たい空気が忍び込んできた。
洞窟に帰ってきて早々、ミーとフーの間には、奇妙な距離感が生まれていた。
ミーは洞窟の一番奥の壁際で、プルプルと震えている。ミーにとって、フーの火は異質な存在で、少し警戒しているように見えた。その小さな体が、フーの熱源にどう反応すべきか、戸惑っているかのようだ。
一方、フーはといえば、今まで誰とも接したことがなかったのか、ミーとの距離感をつかみかねていた。フーの炎は、わずかに揺らめいている。
(ミーは水のモンスターだ。極端な高温や低温は、ミーにとって不快に感じるはずだ。この洞窟は、夜になると冷えるが、フーの火は「適度な暖かさ」をもたらしてくれている)
「フー、君のおかげで俺たちは暖まれるよ。ここにいてくれるだけで、本当に助かっている。ありがとう」
「良かった」
フーはそう小さく返した。
その瞬間、暖かな光が洞窟全体にやわらかく広がる。
実は、洞窟に入る前に、俺はミーに重要な依頼を済ませていた。「一酸化炭素中毒」の予防に関してだ。換気の悪い洞窟内での火は、フーの火が小さいとはいえ、一酸化炭素を発生させ、人間に中毒症状を起こす恐れがあったからだ。
「ミーは、水だけでなくて、空気中の成分も吸収して浄化することはできるか?」
「できるよー」
「それなら、頼みがある。フーの火は暖かいが、フーのそばで発生する空気中のものを吸って、元の綺麗な空気にして、浄化することはできるか?」
「できるよー」
「本当か! ミーは本当にすごいな!」
「うん!」
ミーはプルプル震えながら喜んだ。
◆◇◆
数時間後、洞窟の環境は劇的に変化した。冷たく湿っていた空気が消え、代わりに優しい暖かさに満たされた。
俺は保存食を取り出し、フーに温められるか聞いてみた。
「任せて」
と答えると、フーは自らの火で、保存食を加熱してくれた。そのおかげで、俺は、久しぶりに温かくて美味しい食事を取ることができた。
俺は保存食を欲しがるミーにも分け与え、静かに夕食を済ませた。フーは、洞窟の中央でゆらゆらと炎を揺らしていた。その炎は、必要以上に大きくなることもなく、心地よい明るさを保っている。
その時、フーの心の声が俺に届いた気がした。
(誰も怖がって遠くへ逃げないでいてくれる……それに、誰かの役に立てて、嬉しい⋯⋯)
フーにとって大切なことは、「自分の炎を怖がらず、かつ、自分の存在を認めてくれる仲間が、常に一定の距離で傍にいてくれる」という心理的な安心感だったんだと思う。
「ねえ、ヤマダー。フーの火のおかげで、気持ち良いね! それに、ミーがフーから出たものを吸っていると、ミーも強くなった気がするよ」
なんと、ミーは、雑食どころか、空気中の物質も取り込んでエネルギーに変えられるらしい。フーから発生する副産物が、ミーの成長源になっているという、驚くべき相互作用だった。なんと心強い存在だ。フーも心なしか嬉しそうだ。
ミーは水と安全な空気をもたらしてくれ、フーは光と熱をもたらしてくれる。
「フー、ありがとう!」
フーの火は小さく揺れた。その揺らぎは、感謝と満足を表しているように見えた。
(大きな前進だ、残る課題は⋯⋯)
リュックの中の保存食は、すでに残り一日分となっていた。
ノーストレスな共存生活を続けるためにも、食料が必要だ。明日、また探索だ。この安全な拠点を守るためにも。
改めてそう決意したのだった。




