第46話:安心安全の唄(feat. No Name)
ヴェリウスとの話を終え、窓の外の夕焼けを眺めながら、俺はこれまでの出会いに思いを馳せていた。
聖騎士になったオルドラン。そして、さっき名前が出た例の三人組の冒険者たち。
正直、三人組については顔をあまり覚えていなかったりもするが、無事で、しかも恩返しまでしに来てくれるなんて……。なんだか、この世界に来て本当に良かったな、なんて柄にもなく感傷に浸ってしまう。
「……みんな、元気でやってるかな」
ふと、どこからか声が聞こえたような気がした。
(どこか懐かしい声だ⋯⋯まるで脳内に広がるような気がした)
『――だから、早く!』
『ちょっと待って!』
……幻聴だろうか。いくらなんでも、感傷に浸りすぎて耳までおかしくなったのかもしれない。
「行くよっ!」
威勢のいい女性の声とともに、ガシャーン! と勢いよくドアが押し開かれた。
俺とヴェリウスが呆然とする中、部屋になだれ込んできたのは四人の男女だった。
女性が三人、男性が一人。
「え……?」
「ダリオスさん! 大丈夫ですか!?」
真っ先に声を上げたのは、肩まで髪を伸ばした茶髪の、どこか華奢な印象の女性だった。
「ダリオスではない! ヴェリウスだ!!」
目の前の魔道士が、血管を引きちぎらんばかりの勢いで即座に反応する。
「え、もしかしてあの三人組……?」
俺が呆然と呟くと、一行の中で最も目を引く、黒髪のショートカットで切れ長の瞳をした、クールな女性がこちらを向いた。
「あ、あなたは……あの時、金貨をくれた……?」 「え、あ、はい。ヴェリウスさんに託していましたが……」
もう隠しても仕方がない。俺が認めると、彼女はふっと表情を和らげた。
「あの時は本当にありがとうございました。あなたのおかげで助かりました。……てっきり、そこのバリオスさんがくれたものだとばかり」
「ヴェリウス!」
確かに響きは似ている。ヴェリウスの睨みもどこ吹く風で、彼らは自己紹介を始めた。
「自己紹介がまだでしたね。改めまして、私は河瀬といいます。よろしくお願いします」
「俺は山田です。よろしくお願いします。……ところで、あとの皆さんは?」
確か、男性二人、女性一人の三人組だったはずだ。女性が二人増えているような気がするが。
「会った時は男性が二人でしたよね? もう一人の男性の方はどちらに……」
俺が首を傾げていると、「僕です僕です!」と、さっき「ダリオス」と呼んだ茶髪の女性が手を挙げた。
「えっ」
頭が混乱する。男性じゃなくて女性だったのか。俺の記憶はそんなにいい加減だったのか。
「すみません、てっきり男性の方だと思い込んでいて……」
「あ、僕、男ですよ?」
「はい?」
さらに混乱する。えーと、つまり……。
「失礼な言い方でしたらすみません。つまり、その、心は男性の方、ということでしょうか?」
慌ててフォローしようとする俺に、彼はケラケラと笑って言った。
「いや、女装なんです。心も身体も男ですよ」
「……え、なんで?」
よく見ると、確かに骨格は小柄な男性のそれだ。
「色々あって、ここに落ち着きました!」
「こら、中村、ちゃんと説明しろ。……あ、こいつはなんというか、コスプレをすることで能力が発揮できる変わったスキル持ちなんですよ。なあ?」
補足してくれたのは、体格の良い大柄な男性だ。
「ありがとうございます。やっぱりクロさんは頼りになるなあ。コスプレは語弊ありますけどね。あ、僕は中村って言います、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「僕、向こうにいた時は舞台俳優をやってたんです。全然売れてなかったんですけどね。役になりきるのが仕事だったので、こっちに来てからも『演じると力が出る』スキルになっちゃって。特に、魔法使いは女の子の姿の方が能力を発揮できるって分かってから女装するようになりました。この髪も特注のウィッグなんです」
「なるほど……そんなスキルが⋯⋯」
元の職業がそのままスキルに反映されたのか。ヴェリウスの説明では、俺のスキルが『ハーモニー』になったのは、会社で争い事が苦手だったことが影響してるんだったか。
「あの、河瀬さんはその、レーザーを武器に使う方ですよね? ヴェリウスさんから少し聞いて……」
「ああ、そうです。私は元々看護師で、仕事でレーザーを扱っていたらこうなっちゃいました」
(え、看護師さんがレーザー使うの⋯⋯?)
と思わず驚いたが、口に出さず話を聞く。
「こちらの黒田さんは整体師さんなんですよ」
「……どうも、黒田です」
大柄な黒田さんが会釈する。
看護師、舞台俳優、整体師。
……なんだか一癖も二癖もあるメンツだ。
「あの、そうすると……あちらの女性は?」
河瀬さんにぴったりとくっついて離れない、シスターのような格好をした女性に目を向ける。
「私は、聖女『マリア様』の信仰者です!」
「はあ……マリア様ですか?」
この世界にも『マリア様』はいるのか。だとしたら、なぜ彼女はこのメンバーと一緒に?
「あ、マリア様というのは、河瀬さんのことですよ。下の名前がマリアなんですよね」
「……はい?」
中村さんが補足してくれたが、俺は理由がわからず絶句していると、シスター姿の女性がうっとりとした表情で呟いた。
「マリア様の強き気高いお姿に惹かれました。一生ついていきます……」
「あの、ええと、こっちで会った子なんですけど、勝手についてきちゃって……。ここに置いて帰ろうかと思ってるんですけど」
「酷い! マリア様ァ!」
……カオスだ。
なんとか頭の中で情報を整理する。オルドランから聞いていた、あの「ダリオスの翼」とかいう新進気鋭の冒険者パーティーは、俺と一緒に転移してきた人たちだったわけだ。
「あ、ずっと聞きたかったんですけど、皆さん、パーティー名はなぜ『ダリオスの翼』に?」
「え? なぜその名を?」
中村さんが不思議そうに聞き返してくる。
「あ、色々と風の噂を聞いてまして。もしかして、ただの覚え間違い……とかですか?」
「あはは! そうなんですよ! 姐さんが人助けした時に『名乗る名前なんてない』って言うもんだから、僕がお世話になったこの魔道士さんの名前を借りようとしたんですよね」
「なんか恩を売るみたいで嫌だったから⋯⋯」
河瀬さんが恥ずかしそうに口を挟む。
「だけど、僕が魔道士さんのお名前を少しど忘れしちゃって。それに、名前に翼をつけるとなんか響き良いかなと思って。それで、『ダリオスの翼』になりました。すみません、ダリオスさん」
「ヴェリウスだ」
食い気味に入るヴェリウスのツッコミ。
もはや様式美すら感じる。
「余計なことを……。まあいい、私の名前が変に拡散されずに済んだのだからな」
ヴェリウスは諦めたように溜息をついた。
ひとしきり騒いだ後、河瀬さんが真面目な顔でこちらを見た。
「ところで、今日はヴェリウスさんに用があったんですけど、近くに凄まじい魔力を感じて……思わず来ちゃったんです。でも、山田さんしかいないみたいですし、間違いだったのかな。でもまだ感じるんです」
……まずい。ヒーの気配を察知されたか。
どうしたものかと冷や汗をかいていると、俺のリュックから、モゾモゾとヒーが顔を出した。
「ワタシハ、ヤマダによって制御サレタ、鳥のオーラムバードデス。安心、安全デス」
(棒読みか!)
「喋った!?」
一同が驚いて声をそろえて口にする。
(……しかも、『安心安全』って。鶏肉のパッケージかよ)
内心でツッコミを入れつつ、俺は観念してヒーを紹介した。
「あの、この子が原因かもしれません。ちょっと色々ありまして、魔力を操るモンスターが仲間になりまして……。でも、危害を加えたりすることは絶対にないですので安心してください」
ヒーが出てくると、続いてミーとフーも顔を出した。
「ボクたちも、『あんしんーあんぜんー♪』」
(話がややこしくなる⋯⋯! しかも何そのメロディ⋯⋯!)
と思ったが、後の祭りだ。なんとか説明するしかない。
一瞬、なぜか河瀬さんが顔を伏せた気がしたが、すぐに元のクールな表情に戻った。
「オーラムバードって、詳しくはないけれど……確か伝説の存在よね?」
「ああ、そうだ。お前には後でゆっくり聞かせてもらうからな、ヤマダ。卵の件もまだまだ話し足りないしな」
ヴェリウスの目が怖い。俺は話を逸らすために提案した。
「そうだ、せっかく集まったんです。皆さんでお食事でもどうですか? 町にいい酒場がありますし」
「いいですね! 行きましょう!」
(あれ、これ、話逸らせるかな⋯⋯)
と、提案したあとに思ったが、もうどうにでもなれと思った。
◆◇◆
数時間後。俺たちは酒場で完全に出来上がっていた。
「漆黒の竜の倒し方、教えますよ……」
元舞台俳優の中村さんが、呂律が回らなくなり始めていた。
「姐さんがぁ、遠くからレーザーでバキューン! って撃って、俺たちが目眩ましして逃げる。で、また撃って逃げる。逃げろーって言って。ヒットアンドアウェイ⋯⋯」
そう言うとゆっくり目を閉じた。
「……死ぬかと思った。黒いからレーザーの吸収率が良いと思ったのに。もう嫌だ⋯⋯」
河瀬さんがジョッキを煽りながら愚痴る。
「まあ河瀬さんのおかげで金貨たくさん稼げましたし、結果オーライですよ」
黒田さんがフォローを入れる。
「マリア様の加護で、この世界は救われたのです……。私には分かるのです……」
シスターさんは目を閉じて祈っている。
「いや、レーザーの威力だから。『熱破壊式』と『蓄熱式』のコンビネーションだから。……あ、白い竜にはレーザー効かないかも。たぶん」
俺は酔っぱらっている河瀬さんのツッコミを聞いていたが、よく意味が分からなかった。
ヒー、フー、ミーはリュックから顔を出し、俺たちの食事を少しずつ分けていた。
ミーはすっかり上機嫌だ。
『あんしんー♪ あんぜんー♪』
どこかの業者のCMみたいなメロディーで歌い続けるミーに、俺は苦笑しながら、おそらく安心安全なチキンを差し出す。
「ヤマダー、今日はたのしいねー」
「安心、安全⋯⋯」
フーも真似をし始める。
そんな俺たちの様子を、河瀬さんがじーっと見ていた。やっぱり、モンスターに抵抗があるんだろうか。俺はヒーフーミーたちが入るリュックを席に置いて、彼女の席に近寄った。
「すみません、やっぱり抵抗とか、ありますかね、みんな優しいんですけどね……」
「……あの、お願いがあります」
河瀬さんが、消え入りそうな声で言った。
「はい、俺にできることなら」
「……あのスライムの子と、お話したいです」
「え?」
彼女は顔を真っ赤にして、震える手でミーを指差した。
「私、最近、周りの人たちから色んなあだ名つけられてて、『レーザーの死神』とか『殺戮の女王』とか呼ばれてショックだったんです。他にもよく分からないあだ名つけられてて。でも本当は元看護師で救助活動だってしてるのにって。だけど、あの、プヨプヨの子を見たら、もう全部吹っ飛ぶくらい、心が、洗われるようで……っ!」
「ああ、そうだったんですか。じゃあ、こっそり……」
俺は周囲の様子を見ながら、リュックの中からミーを彼女の前に置いてあげた。
『あんしんー♪ あんぜんー♪』
壊れたおもちゃのように歌い続けるミーを、河瀬さんは至近距離で見つめた。
「……尊い」
そう呟いて、そのまま机に突っ伏して寝てしまった。まるで時間が止まったかのような一瞬の出来事。
殺戮の女王、突然の死だった。
カオスすぎる再会に頭を抱えつつ、俺の耳にはミーが歌う謎のメロディーが、いつまでもこびりついて離れなかった。
お読みいただきありがとうございました。
もし、少しでも楽しんでもらえたら、良ければ下の【☆☆☆☆☆】で評価いただけたら嬉しいです。
また、読んでくださる皆さんへお知らせです。
ヤマダと愉快な仲間たちのお話は、50話で完結にする予定です。
初めて連載形式に挑戦しましたが、読んでくださる皆さんのおかげで、なんとかここまで更新できました。
最新話まで読んでくださった皆さん。そして、感想や評価、ブックマークしてくださった皆さんには心から感謝です。
あと少しのお付き合いですが、最後まで楽しんでもらえるように頑張ります!
余談ですが、河瀬さんのお話は、また別の機会に独立して連載するかもしれません(需要あるか不明ですが!)
引き続きお付き合いよろしくお願いします!




