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争い嫌いの元社畜ですが、『ハーモニー』スキルで魔物たちとノーストレスな共存生活を始めました。  作者: 遠峰 黎


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第30話:隅に置けない男

 拠点であるテラスの空気が、最近少しだけ変わった気がする。森の静けさだけでなく、人との交流が増えたからかもしれない。騎士団との交流は、ヒーフーミーたちも交わり、賑やかで楽しい時間だった。


 そんな賑やかな日常の合間を縫って、今日は町へ出向くことにした。


「これから町に行くけど、みんなも一緒に来るかい?」


 俺がリュックを担ぎ直しながら声をかけると、洞窟のそばから小気味よい返事が返ってきた。

 

「今はね、いそがしいー」

 返事をしたのはミーだった。


 地面には、俺が暇つぶしに教えた『棒消しゲーム』が描かれていた。


 ルールは、こうだ。


 まず、地面に縦の棒線を一段目に一本、二段目に二本、三段目に三本……と、ピラミッド状に並べて書く。段数が増えると、縦の棒線は増えていく。 


 先攻後攻を決めたら、交互に線を消していく。棒は必ず横に線を引いて消し、斜めに消すことはできない。一度に同じ段なら何本でも消せるが、すでに消された線を跨ぐことはできない。


 そして、最後に残った一本を相手に消させた者が勝ち、という頭を使うゲームだ。


 だが、その場の熱量は、およそ暇つぶしの域を超えていた。


 ミーは、まるでチェスのグランドマスターのような鋭い眼差しで、地面の棒線を見つめている。フーも、どの棒をどう消せば勝利への確定ラインに乗るのか、必死に演算しているようだ。


(俺が教えた頃は二人とも難しそうと言っていたが、随分と楽しんでるな。段数もいつの間にか七段まで増えているし……)


「僕も今日は待ってる」

「私も留守番してるわ」

 フーとヒーも答えた。


「それじゃ、今日は一人で行ってくるよ」

「またねー」

「いってらっしゃい」

「気をつけて」


 背中で感じる真剣勝負の気配。

「僕の勝ち」


「まけたー、もう一回するー」

「うん、いいよ」


(……楽しそうでなによりだ)

 俺は苦笑しつつ、石畳の続く町へと足を向けた。


◆◇◆


 町の骨董屋に着くと、店主のクレメルは、俺の顔を見るなり、カウンターから身を乗り出さんばかりの勢いで迎えてくれた。


「ヤマダ様! お待ちしておりましたよ!」

「こんにちは、クレメルさん。例の卵の件、どうなりました?」

「ええ! あの卵、無事売れましたぞ!」

 クレメルはホクホク顔だ。


 さらに、彼は商売人らしい耳の早さで、ある話を教えてくれた。


「そういえば、先日、妙に景気のいい新人冒険者三人組が来ましてね。思い切って高価な武具や道具を仕入れたところだったんですが、彼らが即座に金貨で買い取っていったのですよ」


 クレメルは感心したように首を振る。

「おかげで店は大繁盛ですよ。ヤマダ様が来てから運気が上がってきたのかもしれません。ぜひ、ヤマダ様も何かご所望の品があれば、なんなりとおっしゃってください。私の人脈と経験を使って、必ずや調達します!」


(……ああ、きっとあいつらかな。ちゃんと装備を整えたんだな)


 俺は内心で、彼らが受け取った金貨の行方を想像した。あの冒険者たちがクレメルの店で支払ったのは、間違いなく俺が渡したのと「同じ金貨」だろう。


(俺がこの店で得た金貨を、さらに彼らがこの店で使い、それがクレメルの利益になる。まさに経済が循環しているな。極めて狭い範囲でだが)


 クレメルも商売が順調そうで良かった。図らずも、商品販売後の「アフターケア」をしている気分になったが、一安心だ。


 クレメルは思い出したように言った。

「そういえば⋯⋯冒険者の方々は、『宝石』も買って行かれましたな」

「宝石?」

「ええ、こちらは全くありがたい限りですがね」


(宝石か、何に使うんだろう、まさかお洒落で買うとは思えないが⋯⋯)


 俺は少し疑問を抱いたが、次の用事のため、クレメルに挨拶をして、魔導師ヴェリウスの屋敷へと向かった。


◆◇◆


「……待っていたぞ」


 ヴェリウスの屋敷へ入るなり、待ち構えていたヴェリウスは、いきなりそう切り出した。

 心なしか、以前よりもその眼光は鋭く、探るような色を帯びている。


「お久しぶりです、お元気でしたか?」

「ああ。それより、お前……。あの王国騎士団長、オルドランと交流しているそうだな」

「ええ、まあ。たまたま近くを通られたので、少しばかり会話をしまして」


 ヴェリウスは鼻を鳴らした。

「『少しばかり』だと? あの無骨を絵に描いたような男が、最近は柄にもなく浮き足立って森へ通い詰め、あろうことか『魂が救われた』などと恍惚とした表情で語っているのだぞ。剣術にのみ打ち込み、王国一の剣術士と謳われた男が、何かに深く心酔しているのは明白だ。……ふん、端から見れば、まるでどこかの姫君にでも恋に落ちたかのような狂いようだ」


「恋、ですか。それは……また極端な」


 俺は思わず苦笑した。あの暑苦しい団長が恋をしている姿など想像もつかないが、ヴェリウスの目にはそれほどまでに「人が変わった」ように見えているらしい。


 だが、ヴェリウスは笑わなかった。むしろ、その表情をさらに険しくする。


「それだけではない。私が真に危惧しているのは、単なる個人の心変わりではない。……騎士団全体が、以前とは根本から『おかしくなっている』のだ」

「おかしくなっている?」


 ああ、とうとうあの『奇行』が周囲にバレてしまったか⋯⋯。


 俺はそっと目を閉じ、騎士団長オルドランの顔を思い浮かべた。


 雨の中、ずぶ濡れになりながらカップを掲げ、「これぞ魂の(ソウル・)救済(リデンプション)……!」と悦に入っていたあの姿。

 あるいは、光る屋根の下で野太い声を揃え、「サンクチュアリ!」と絶叫していたあの夜。


 あれを端から見て「正常」だと言い張れる自信は、今の俺には一ミリもなかった。


 俺は肩を落とし、思わずため息をついた。

(これ、俺のせいかな⋯⋯?)


 ヴェリウスは続ける。

「以前の騎士団は、確かに屈強ではあったが、どこか泥臭い『武骨な集団』だった。だが今はどうだ? 全員がまるで鏡のような静寂を纏っている。……そう、一言で言えば――」


 ヴェリウスはここで言葉を切り、鋭い眼光を俺に向けた。


「『強くなりすぎている』のだ」

「……はい?」


 思わず聞き返した。おかしい、話のベクトルが想像していた「奇行」の方向ではない。


「お前、彼らに何を教えた? 騎士団全体が、戦闘の直前に奇妙な『瞑想』を取り入れ始めたという。そして精神統一を終え、『魂がどうたら』と不可解な言葉を放ち、敵に斬りかかるようになった。その瞬間、団員たちの精神は鉄壁の如く研ぎ澄まされ、強大な相手を倒すのだ。今ではその強さに、周辺では『魂の騎士団(ソウル・オーダー)』と呼ばれて恐れられているほどだ」


(……『魂の騎士団(ソウル・オーダー)』。なんか、無駄にカッコいい名前だな。もはや俺には『魂の(ソウル・)注文(オーダー)』にしか思えない⋯⋯!)


 俺の脳裏に、シュールな光景が浮かぶ。


 巨大なドラゴンと対峙する王国騎士団。絶体絶命の緊張感の中、団長オルドランが厳かに右手を挙げる。

『皆のもの……『虚空の(ホロウ・)静寂(クワイエット)』だ』

 かけ声に応じて、一斉に目を閉じる屈強な男たち。ドラゴンの咆哮すらも無視して精神を研ぎ澄ませる。


 そして次の瞬間、カッと目を見開き――。

『今だ! 『魂の(ソウル・)救済(リデンプション)』!』

 そう叫んで、剣を振りかざす。


(……カッコいいな。いや、妄想が過ぎた。いくらなんでも、あんな恥ずかしい呪文を王国騎士団が公式に採用するはずがない。たぶん)


 だが、ヴェリウスの表情はどこまでも真剣だった。

「実際に、彼らは先日、北の渓谷に居座っていた凶暴なオークどもを瞬く間に狩り上げた。オルドランたち騎士団は戦いの後、勝利の余韻に浸る間もなく、何処かへ足早に向かったそうだ」


(……げっ。あながち妄想も外してないかもしれん。そして向かった先の答えも、おそらくは⋯⋯)


 俺は背中に冷や汗が流れるのを感じた。

 オルドランさん……あんた、すごい人だったんだな。


「お前……。やはり、何か裏で絡んでいるんじゃないだろうな?」

「いえいえ! たまたま近くを通りかかったので、本当に、世間話をしたくらいですよ!」


 俺は必死に首を横に振った。

 雨の中のコーヒーや、ギガントリーフの件を思い出す。


(説明するのは話がややこしくなりそうだから、やめておこう。というか、説明できる自信がない。

『特製ラテを飲んでレベルアップして強くなりました。そして、光る屋根を見て瞑想したら覚醒しました』なんて言って、誰が信じてくれるんだよ)


 説明すればするほど「騎士団を裏から操る怪しい者」としてマークされるのが目に見えている。俺はここで口を閉ざすのが最善だと判断した。


「……そうか、あくまでしらを切るつもりか。だが、先日のお前のリュックの中にいたモンスターのことはどうだ? 気配を消していたつもりだろうが、私の目は誤魔化せんぞ」


 ヴェリウスが、先日のリュックのなかにいたヒーの話を持ち出す。


「あれは、レベル1000を優に超える伝説の怪鳥――『オーラムバード』だ。お前、卵を入手しただけでなく、あんなバケモノを仲間にしたのか?」


(そうだった、ヒーが本来のレベルではなく、偽りの表記としてレベルを1にして擬態(フェイク)していたが、見抜かれていたんだったな)


 俺は内心で動揺した。


 ヒーは確かに「擬態(フェイク)」のスキルを持っているが、ヴェリウスほどの魔導師になると、その奥に潜む本質を見抜いてしまうらしい。


「いえ、仲間にしたわけでは……」と言い淀む。


「しかもだ、底に秘める圧倒的な強さにもかかわらず、レベルはわずか『1』に抑えつけられていた。お前、どうやってあのレベル1000を超える強大な力を強制的に封じ込めた? 魔導師と呼ばれる私ですら、これほど完璧なレベルの抑制は困難だぞ」


(なるほど、ヒーが『擬態(フェイク)』していたことはバレずに、本来の強さだけを見抜いていたということか⋯⋯)


「あ、いえ。それは勝手に⋯⋯」

「『勝手に』だと? 傲慢なまでの謙虚さだな、己では制御不能な力だとでも?」


 そう言うと、ヴェリウスは満足げに高笑いした。


「剣の道を極めんとする騎士団長と交わり、同時にレベル1000を超える怪鳥の力を封じ込めて手駒にする。お前は、武力のみならず、魔力の高みをも支配しようとしているのか。一体どこまで高みを目指せば気が済むのだ!」


(うーん。ところどころに、事実が混ざってるだけに、完全に否定しがたい……! )


 オルドランは勝手にラテを飲んで強くなっただけだし、ヒーとは自然と仲良くなって擬態してただけ。


 俺はただ、みんなと仲良く快適なスローライフを整えようとしただけなのだが、結果として最強の騎士団と伝説の怪鳥を抱え込んでいるように見えるらしい。


「これからもお前のことは興味深く観察させてもらうよ。全く、隅に置けない男だ」

「はは……そうですか。それは光栄です」

 俺は乾いた笑いを漏らすしかなかった。


 話をこれ以上深掘りされると厄介だなと思い、俺は話題を変えることにした。


「⋯⋯そ、そういえば、あの、ヴェリウスさんのところに来ていた冒険者たちは、今どうしていますか?」


「ああ、あの冒険者たちか⋯⋯」

 ヴェリウスは、少し伏し目がちに窓の外を見ながら言った。


「あいつらは――」


遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!


おかげさまで、第30話という節目まで辿り着くことができました!


当初は「最低でも週一更新」を目標にしていたのですが(保険でしたが⋯⋯)、管理画面でエピソード別のアクセスを確認していたところ、多くの方々が更新日や翌日に最新話を追いかけてくださっていることに気づきました。


そんな皆さんに支えられながら、気づけば今日まで毎日更新を続けることができました。日々訪れてくださる皆様には、改めて心より感謝申し上げます。


本作は、笑いあり涙ありのハートフル(?)なスローライフを目指して書き始めました。


ヤマダと愉快な仲間たちや人々の絆を、これからも温かく描いていければと思っています!

あと、これはお詫びですが、投稿後に表現誤りに気づいて、ちょこちょこ直しています。すみません。

後で分かりましたが、改稿履歴で分かっちゃいますね。


もし「この先の展開も気になる!」「応援してやろう」と少しでも思ってくださる方がいらっしゃいましたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで背中を押していただけると、明日の更新への大きな活力になります!良かったらお願いします!


それではこれからも、ヤマダたちの物語をどうぞよろしくお願いいたします!

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