第27話:輝き
俺はヒーと◯☓ゲームに興じながら、気になっていた質問をしてみることにした。
「そのギガントリーフってのを木から採集する感じかな? その、ヒーの『美学』に反しないか心配になってさ」
「ああ、私の美学ってのは、余裕があればのことよ。もちろん敵から襲われそうな緊急事態なら、絡まった草でも切ることもあるわ」
ヒーが少し誇らしげに、かつ真剣な眼差しで語った。
「でも今回は緊急事態ではないから、森を荒らすつもりはないわよ。落ちてるのを拾う予定よ。以前見かけたとき、かなりの枚数が落ちていたから」
「そうだったか。じゃあ、今日はみんなで森を探検がてら、拾いに行こう」
俺はフーとミーにも、テラスの屋根にする材料を集めに行くことを説明した。
「わーい! おさんぽー!」
「みんなとお出かけ……」
二人の賛成も得て、俺たちは出発した。
◆◇◆
みんな、移動するときは、この間新調したリュックの中に入るのが定位置になっている。
特にフーは、魔力の火を自在に調整できるようになってから、こうして一緒に移動することが増えた。
三体だと少し狭いはずだが、それがかえって心地よいのか、リュックの中からは楽しげな気配が伝わってくる。
「どこ行くのー?」
ミーが、リュックの中から声を出す。
「森の奥さ。ヒーと初めて会った場所だ。そこでギガントリーフを集めるんだ」
「ギガントリーフって?」
フーの問いに、ヒーが解説を加える。
「文字通り、巨大な樹から得られる巨大な葉っぱのことよ」
「その葉っぱをつなぎ合わせて、スコールを防ぐってことでいいのかな」
俺が確認すると、ヒーは少し自慢げに羽を揺らした。
「ええ。でもギガントリーフの特徴は、その大きさだけではないわ。あの葉は、衝撃を上手く受け流してくれる構造になっているの。それに、枝を離れた後も、葉にぶつかる音を吸収してくれるわ。枚数を集めれば、あのスコールにも耐えられるはずよ」
「なるほど、それなら屋根には最適だな」
目的地に着くと、そこには懐かしい風景が広がっていた。
「あそこよ」
ヒーが指し示した先には、巨大な葉が大量に重なっていた。
「とすると、これがギガントツリーか……」
傍らに立つ大木を見上げる。
改めて見ると、意識していなかったがとんでもなく大きい。樹齢は一体何年なのだろうか。
落ちている葉は、優に1メートルは超えていると思う。
「これだけ大きいと運ぶのが大変だな。何回か往復しないと──」
そう言いかけた時だった。
ミーがリュックから飛び出し、プルプルと体を震わせた。温泉のときに水を運んでくれた時のように、ミーの体がみるみる巨大化していく。
「はこぶよー!」
ミーは巨大化した透明な体で、次々と葉を体内に取り込んでいく。 まるで巨大なゼリーの中に、緑色の葉が浮いているような不思議な光景だ。
「相変わらず、すごいな。よし、この調子で集めよう。ミー、重くないか?」
「大丈夫ー! ミー、おおきい!」
頼もしい返事をもらい、俺たちは手分けして葉を集め、ミーに渡していった。
やがてミーの体内がギガントリーフでいっぱいになった頃、俺たちは戻ることにした。
行きのときと違い、帰りは俺たちの後を、巨大化したミーが付いてくる。
「ミー、大変じゃないか?」
「大丈夫ー! 大きいとたのしー!」
「そうか!」
俺は振り返り、ミーを見上げながら笑った。
なんだか、仕事というよりはハイキングのようだ。多少の凸凹道だが、森林浴は心がリフレッシュされる。
「みんなとお出かけ、楽しい……」
リュックの隙間から森の様子を眺めているフーも、実に楽しそうだ。
そして、じっと、何かを見つめているようだった。
(アレは、花かな……?)
視線の先には綺麗な黄色い花が咲いていた。フーは、その花に心を奪われているようだった。周りを見ると、ところどころに花が咲いている。
俺はフーに声をかけてみた。
「あの花、綺麗だね」
「うん、綺麗……」
森の中は、花だけじゃなく、色んな植物が生えている。見慣れない変な色のキノコなんかもある。また今度ゆっくり散策するのも悪くない。それに、フーの好きなものも、もっと聞いてみたいところだ。
また機会を見つけてみんなで来てもいいかもな。そう思いながら、俺たちの拠点を目指した。
◆◇◆
テラスに戻ると、ミーは集めたリーフをまとめて下ろした。……吐き出した、という方が正確かもしれない。
「これを岩肌にくっつける感じかな」
俺がヒーに相談すると、彼女は事も無げに言った。
「そうね、あとは私がやってみるわ」
ヒーが葉を宙に浮かべると、それらが淡い青い光を放ち、テラスを覆うように葉が吸い付いた。
「これは……」
「魔力で繋ぎ止めたわ。これで決して落ちることはないわよ」
見上げれば、まるで異国の高級リゾート地のヴィラのような、自然と調和した美しい屋根が出来上がっていた。ヒーの万能さには、もはやかける言葉もない。
「最高だ。陽射しもちょうどよく遮ってくれてる」
森の奥まで行ってみた甲斐があったかなと、しみじみ思った。
翌日、さっそく「試験」の時がやってきた。まだ日が差している日中のことだ。
急に空が暗くなり、激しいスコールが降り注ぐ。
だが、屋根が加わったテラスは驚くほど静かだった。ギガントリーフの特性が発揮されたのだ。この葉、ただ衝撃に耐えられるだけではない。
激しく雨粒が当たった瞬間、その音さえも吸収し、大雨が降っていることさえ忘れさせる心地よい静寂を作り出していた。
屋根の下には、心地よい気流が流れ込み、俺たちは濡れることなく、雨に煙る森の景色を眺めることができた。雨宿りとしての機能だけでなく、スコールによる騒音さえもかき消してくれたようだ。
「これなら、あの騎士団たちが来ても、雨の中で絶叫しなくて済みそうだな」
大男たちが叫びながら雨水を飲む景色は、新手の宗教施設と思われても仕方ないしな。これなら、お洒落なカフェテラスになりそうだ。
やがて雨雲が去り、雲の切れ間から夕陽が差し込んできた。
濡れた森がオレンジ色に照らされ、出来上がったばかりの屋根もまた、その光を反射している。
「……なんだか、輝いて見えるな」
自分たちの手で作り上げた拠点の一部が誇らしくて、つい独り言のように呟いた。
「そうね、輝いてるわ」
俺たちは、雨上がりの空を見上げ、屋根の完成を噛み締めた。




