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争い嫌いの元社畜ですが、『ハーモニー』スキルで魔物たちとノーストレスな共存生活を始めました。  作者: 遠峰 黎


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第10話:総務部の田所さん

 金貨六十枚が入った革袋はずっしりと重かったが、その重みは俺の心にかつてないほどの安心感を与えてくれた。


 俺は商人の店を出た足で、そのまま大通りの市場へと向かった。これなら、必要なものを躊躇なく買うことができる。

 

 まずは食料だ。

 日持ちのする干し肉や燻製肉を大量に購入した。そして、これまで買えなかった焼きたてのパン、特に日持ちして噛み応えのある堅焼きパンを中心に購入した。


 加えて、乾燥豆や干し葡萄などの長期保存できる食料、そして単調な食事に風味を加えるための岩塩もカゴに入れた。調理の幅を広げる動物性の油脂も忘れない。これだけあれば、しばらくは食の心配はないだろう。


 食料の次は、生活用品だ。

 俺は寝具を扱う店に入り、羊毛をたっぷり詰めた厚手の敷物と、肌触りの良い毛布を購入した。ゴツゴツした岩の上でリュックを枕に寝るのは、さすがに少し辛かった。これで質の良い睡眠が得られるだろう。


 さらに足を運び、鉄製の大きな鍋や木製の食器類。肉やパンを切るための丈夫なナイフも買い足した。


 買い物を終えた俺は、パンパンに膨れ上がったリュックと、大きな荷物を抱えて町を出た。


◆◇◆


 沢山の荷物で重かった。流石に買い過ぎたか。しかし、帰りの足取りは、その重さとは反比例するかのように、驚くほど気持ちが軽かった。生活の安定が見えてきたからだろう。


(早く帰ろう。みんなが待っている)


 洞窟への道を急ぎながら、ふと、俺は先ほどの魔道士ヴェリウスの言葉を思い返していた。


『入手ランクS、伝説の怪鳥オーラムバード』

『一千年以上生きている』

『見た者は命を落とす』

 ヴェリウスは目を輝かせてそう語っていた。


(一千年以上、か……)


 俺は、以前見たヒーのステータスを思い出した。そこに記されていたレベルは、確か「1461」。

 さらに、ミーが以前言っていた言葉も脳裏をよぎる。『星が一周する時間ごとに、その炎の中から生まれ変わる伝説の存在』だ、と。


 つまり、ヴェリウスが言っていた長寿に関する部分は、おそらく真実なのだろう。だが、他の話はどうだ?


 「見た者は命を落とす」だとか。

(あんなに可愛いあいつが? 命を落とす?)


 今の俺はピンピンしているし、こうして買い物までしている。レベルや生存年数は事実だとしても、その凶悪性に関する伝説だけは、どうにも実像とかけ離れている気がしてならない。


 そんなことを考えながら歩いていると、俺はようやく洞窟の入り口に辿り着いた。


 洞窟の中を覗き込むと、そこには穏やかな光景が広がっていた。


 ミーが体をボールのように弾ませ、フーがその周りを小さな光となって追いかけている。そして、ヒーは岩の上で羽を休めながら、二人の遊びを穏やかに眺めていた。


 三人が仲良く、平和に過ごしている。その無邪気な姿を見た瞬間、町での緊張や移動の疲れが、嘘のように吹き飛んだ。


(癒されるなあ。ああ、そういえば……)


 俺の脳裏に、会社員時代のこと、「総務部の田所さん」の顔が浮かんだ。


 彼女は総務部のベテラン女性社員で、普段はキリッとしていたが、昼休みになるとスマホを取り出し、微笑ましく画面を見ていた。


 俺は、新入社員の時に色々とお世話になり、田所さんは俺の顔と名前を覚えていてくれたみたいだった。総務部に用事があったときには、田所さんは俺に何かと声をかけてくれた。会社の空気は基本的にギスギスしていたのだが、心優しい人はいたのだ。


「山田くん、見てよこれ。ウチの猫、可愛いでしょ? 今お昼寝してるの」


 彼女が見せてくれたのは、自宅に設置した「ペット見守りカメラ」の映像だった。

 独身でペットも飼っていなかった俺は、「可愛いですねえ」と愛想笑いを返すことしかできなかった。


「でしょう?」

田所さんはそう言いながら、俺に個包装のお菓子をくれた。


 正直、わざわざカメラを設置してまで見たいものなのかなあと、不思議に思っていたくらいだ。


 だが、今なら痛いほど分かる。


(この洞窟にも見守り用カメラと、それを確認するデバイスが欲しい⋯⋯)


 家に、いや、この洞窟に、自分を待っている愛らしい存在がいる。彼らが仲良く過ごしている姿を見るだけで、全てのストレスが浄化されていくようだ。そして、俺がいない時の様子も見たかった。


「ただいま!」


 俺が声を上げると、洞窟の空気が一気に活気づいた。

「あ、ヤマダー! おかえりー!」

「お帰りなさい! 遅かったですね!」

「あら、やっと帰ってきたの。待ちくたびれたわよ」


 ミーとフーが飛びつき、ヒーも嬉しそうに翼をバタつかせた。


 俺は荷物を下ろし、町での出来事を報告した。

「みんな、土産を買ってきたぞ。今日はご馳走だ」

 俺がリュックから大量のパンや干し肉を取り出すと、三人から歓声が上がった。


 早速、買ってきたばかりの柔らかい白パンをちぎって分け与える。

「わあ、ふわふわ! これ美味しい!」

「ありがとうございます!」

「ん、悪くないわね。人間のものにしては上出来よ」


 みんなで食事をしながら、俺は町での出来事、そしてヴェリウスから聞いた話を語った。卵が1つ金貨六十枚で売れたことを伝えると、みんな驚いていたが、ヒーだけは「当然よ」と胸を張った。


◆◇◆


 一通り食事が落ち着いたところで、俺は帰りの道中で考えていたことを切り出した。


「なあ、ヒー。そのヴェリウスって魔道士が言ってたんだけどさ」

 俺はパンくずを払いながら尋ねた。


「オーラムバードは、一千年以上生きてるって言ってたんだ。ミーも前に『星が一周するごとに生まれ変わる』って言ってたし、お前のレベルが1461なのも見てるから、そこは本当なんだよな?」

 ヒーはパンを飲み込み、何でもないことのように答えた。


「ええ、本当よ。正確な年齢なんて忘れたけど、それくらいは経ってるわね。この姿になったり、大きくなったりを繰り返してるわ」


 あっさりと肯定された。やはり、この可愛いヒヨコの中身は、伝説級の存在で間違いないようだ。


「じゃあ、人間が見つけられないような断崖絶壁に巣を作って、幻惑魔法をかけてるっていうのは?」


「人間たちの妄想よ。私は静かに暮らしたいだけだから、人の目に付きにくい場所を選ぶことはあるわ。その時に、たしかに私の姿を見た人間がいて、たまたまその場所が険しい場所だったこともあるわ。でも、断崖絶壁をあえて選んだり、『幻惑魔法』をかけたりなんてことないわ。そもそも『幻惑魔法』なんてもんは使えない。どうせ、人間が勝手に道に迷って遭難したり、元の家に帰れなくなったりしてるだけじゃないかしら」


 ヒーは呆れたように言い放った。

「人間って、自分たちに都合よく物語を作るのが好きでしょう? 見つけられない理由を作りたがるのよ。中には、貴族なんかから命令とか、報奨金もらって探索しに来る人間もいたから、困難な作業だとアピールして報酬を釣り上げてたんじゃないかしら」


「なるほどな……。じゃあ、『見た者は命を落とす』っていう恐ろしい伝説は? ヴェリウスの話だと、ヒーはかなり凶暴な扱いだったぞ」


 俺が一番聞きたかったことを尋ねると、ヒーはぱちくりと瞬きをした。


「失礼しちゃうわね。誰がそんな物騒なことするもんですか」

 彼女は心外だと言わんばかりに、翼をバサッと広げた。


「私はむしろ、森で迷って死にかけて瀕死の人間を、私の回復魔法で治してあげたことだってあるのに」

「えっ、治してあげたのか?」

 俺は思わず、驚きの声を上げていた。


「そうよ。それに、念のため、その弱ってる人間に魔力を込めた卵も持たせてあげたわ。邪悪なモンスターが近寄らないためによ」

「そんなこともできるのか」

「その気になればね」


 ヒーは続ける。

「そしたらその人間、記憶が錯乱していたのか、村に戻って『凶暴な鳥に襲われた』だとか、『その卵の奇跡だ』とかなんて騒ぎ出したみたい。話を聞きつけた人間たちが大勢押し寄せてきて、面倒なことになったの。だから、それ以来、人前にはできるだけ姿を現さないようにしたのよ。こっちとしては、『恐ろしい怪物』って噂されてる方が、誰も近づいてこなくて好都合だしね」


 俺は深く納得した。もしかすると、その卵は、今でもその村では、人間が崇め奉る貴重な存在になっているのではないだろうか。


 どうやら、魔道士ヴェリウスが語っていた「命がけの死闘」や「高度な知能戦」といった類の話は、すべて人間の想像力が作り上げた虚像だったのだ。


 その真実は、静かな暮らしを愛し、たまに人助けまでする、優しい存在だったのだ。


「なんだか、安心したよ。お前が世界を滅ぼす魔獣とかじゃなくて」

「ふふん、世界なんて滅ぼして何の得があるのよ。静かな寝床があれば、私はそれで満足よ」

 そう言って、ヒーは満足げに目を細めた。


 その言葉を聞いて、俺の中で一つの方向性が固まった。

「そうだな。それが一番だな」


 俺は改めて、買ってきたばかりのふかふかの敷物を広げた。

「今回、結構な資金が手に入った。これからは、この洞窟をもっと住みやすくしていこうと思うんだ。町にも時々立ち寄るから完全な自給自足ってわけじゃないけど、どうせ暮らすなら、みんなが少しでも快適に過ごせる『最高の我が家』にしたい」


 俺の提案に、三人が顔を見合わせた。

「快適? もっと楽しくなるの?」

「僕からもぜひお願いします」

「そうね、賛成だわ」


 その後は、それぞれの要望も聞いて(好き放題言ってもらって、というのが正しい)、俺はそれらを頭の中で記憶した。


「よし、分かった。少しずつ叶えていこう」

 俺は新しい毛布の手触りを確かめながら、心地よい眠気に身を委ねた。

 

 明日からの生活が、今まで以上に楽しみになってきた。

お読みいただきありがとうございます。

節目の10話までなんとか更新できて良かったです。


アクセス解析という機能があるのですが、連載を見てくださっている、ユニークユーザーの方が累計100人以上いて下さって本当に感謝です。


エピソードごとのPVも出ていて2日遅れで表示されますが、最新話でも数十人のPVが表示されていて感謝です。大変励みになっています。


もし良かったら感想や評価など寄せてもらえると大変嬉しいです(勿論、見て下さってるだけでも嬉しいです)


それでは引き続きよろしくお願いします。

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