〝この街はまるで サンタフェあたりのゴースト・タウン〟
「クソッ!! 弾丸が効かねぇぞ!?」
普通の人間がくらっていれは、今頃ミンチになっているほどの銃弾をくらう。しかし、蒼月神奈はこれくらいではやられない。硬すぎる神奈の皮膚は、音速以上で繰り出される鉛玉を全く通さない。こうなるとむしろ、フレンドリー・ファイアを心配してしまう始末だった。
「……うるさいなぁ」
そんな中、神奈は大雨の雫ほど放たれる銃弾のやかましさに、少しずつ苛立ってきていた。彼女は拳を握りしめ、あえてワープせずにホストのような長い金髪の青年に近づいていく。
「こ、コイツ、動きやがる!?」
「そもそも弾をくらってねぇみてぇだぞ!?」
一歩ずつ、少しずつ、服がボロ布に成り果てたのも気にせず、
「うるせぇんだよ!!」
蒼月神奈は怒鳴り、ついに敵は銃を降ろす。ようやく銃弾では始末できないと理解したらしい。
夜のように静まり返る、文字通り時間が止まったふ頭にて、神奈は指をバキッと鳴らした。
「さすがだな……。これは、堕落した人間そのものだ」
ホスト風の青年は驚嘆したように呟く。
そして、
神奈は唸り声を上げながら、その青年の元へと一気に走り出す。
「……!!」
その姿、まさしく獣。見た目がどれほど可愛らしいものであっても、並みの人間では恐怖のあまり足がすくんで動けなくなる。これが蒼月神奈、いや、ヘーラーの考え与えた力の真髄だ。
*
「はぁ、はぁ……」
蒼月神奈はワープでどこへでも姿を出せるが、森音瑠流はそんな能力を持っていない。そのため、彼女は結構な長さの距離を走る羽目になった。オーバーワークだが、今はそれを気にしている暇もない。
「やっぱり、ふ頭そのものが……!!」
ナヘマーというお付きの悪魔が情報を割ってくれた。それによれば、今地元のふ頭で魔力の増幅を発見したとのことだった。〝悪魔対策任務部隊〟という悪魔崇拝者を密かに監視し、時には武力行使を行う組織からの通達なので間違いはない。
「けどナヘマーちゃん。なんでその特殊部隊は、魔術犯罪が行われてることを看破してるのよ? 分かってるのなら対処すべきでしょ」
「こんなサンタフェあたりのゴースト・タウンに人員割り振れるほど、悪魔対策にヒトはいないんだよ。それに、命にすら値札がついてるんだから」
「嫌な時代ね……」
森音は意思のこもっていない電子ロックを解除するため、回路に触れた。なんら躊躇することなく、彼女は不法侵入をこなす。
その最中、
「よう。後輩ちゃん」
どこかで聞いた声が背後より聴こえる。おそらく敵ではないと、森音はすぐに振り向いた。
「光野先輩」
「蒼月神奈の友だちだよな。ちょうど良い。おれもアイツに用があってさ」
「含みのある言い方ですね」
「含みとかおれにぁ似合わないんで、先に説明しておこうか。アイツを悪魔対策に引き入れてぇんだ。おれは」
「悪魔対策……特殊部隊のことですか?」
「そー。よし、行こうか」
神奈がさらなる面倒事に巻き込まれかねない、と内心思いながらも、ロックが解除されたのでふたりはふ頭の中を走っていく。
「……変な匂い」
ヒトの気配を感じたところで、光野は森音を静止する。
「ちょっとここから動かないでくれ。なんか、嫌な予感がするんだ」
「は、はい」
嫌な予感? 妙な匂い……たとえるのなら腐敗したゴミのような匂い。あまり良い気分にはなれない香りから、光野はなにかを導いたのか。
「あっちゃー……」
姿が見えないように天空へ浮いていたナヘマーは、思わず呆然とした声を漏らした。
それはつまり、
「え」
「……ッ」
大量の赤い液体にまみれた幼なじみが、気だるそうにこちらを伺ってきた。