神奈VS終末のための選択肢
遠目で見ても、ヘーラーはなにやら楽しそうだった。神奈は怪訝な面持ちになりながらも、どうせあのピンク髪は都合と耳辺りの良い話を彼らから聞いたのであろう、と考える。
こりゃ助ける価値もない、と神奈は手を広げるが、しかし重要なのは敵がふ頭の時間すらも留めてしまっていることだった。このままだと父も父の仕事仲間も救えない。その気になれば、鬼山にへばりついた悪魔に向けた攻撃━━大爆撃のようにエネルギーを放つこともできる。しかし、あれでは被害・損耗が激しすぎるのも事実だった。
「うーむ。悩ましいな」
そうボヤキ、神奈は腕を組む。敵とて馬鹿ではない。わざわざヘーラーをさらったことには、必ず意味がある。たとえば━━、
刹那、バズーカのような音鳴りが響く。そして、神奈に向かって飛んでくる弾丸がひとつ光る。狙撃されている? ただ、こんな目立つ真似をしたら索敵できてしまう。そのためここで仕留めたかったのだろうが、神奈はいとも簡単に攻撃を見切った、
「そこか」
神奈はワープして、巨大なスナイパー・ライフルを担ぐ男の前に現れた。
「……ッ!?」
「こっちはひとりで来たっていうのに、それはずるくない? それにしても、良くもまぁローカル宗教がこんなものを持てるね」神奈はニヤッと笑う。「まぁ、僕も銃撃戦には全くの素人だけどさ。ここまで近寄られちゃ狙撃はできないってことくらいは分かる。さて、アンタらの目的は?」
男は一瞬怯んだものの、すぐに表情を歪めてライフルを投げ捨て、懐からサバイバルナイフを取り出した。
「調子に乗るなよ、小娘が。テメェが天使と契約した化け物だってことは分かってる。だがな、俺たちは〝終末〟を望む者……死など恐れていない!」
退屈気に息を吐く。「死を恐れないのと、無駄死にするのは別だと思うけど」
神奈は冷めた目で男を見据える。男がナイフを振りかぶった瞬間、神奈は男の背後にワープし、首筋に手刀を叩き込んだ。
「ぐっ……!?」
これが鬼と龍の腕力である。慣れていないので殺さないために、力感をコントロールしなくてはならないほどだ。
「いたぞ!! 堕落者だ!!」
こちらが殺さないように努力したのにも関わらず、カルトは続々と現れて銃を構えてくる始末だった。神奈は呆れたように首を落とす。
「僕が堕落者、ねぇ。ならアンタらはなに? 昆虫とか?」
ここまで騒ぎを起こせば、連中も確実に反応するはずだ。神奈は弾丸が向かってくるだろう場所の空間を切り取り、そこと連中の背後の海を無理やりつなげてしまう。
「さてと」
銃声音と弾が虚しく海へ飛び込み自殺していく中、神奈はさっぱり時間の止まったふ頭内に立ち止まり、こちらへ向かってくる連中を待ち伏せする。
「さて、ヘーラー様。我々が堕落した人類を正しい終末へ導く様、見ていただけますか?
「は、はいぃ……。貴方たちといると、背中がゾクゾクするんですぅ……。いけないことをしているかのように。あぁ、なんだかムラムラします」
昔の家電は叩けば直ったらしいが、ヘーラーにもそれは適用されるだろうか。いや、あれだけ叩いて絞めてもこのピンク髪は響かなかったから多分通じない。
「あ! そこに神奈さんがいます! どうやら私たちの仲間になりたいそうですよ!!」
というわけで、神奈はせっかく隠れていたのにコンテナの隙間から出てくる羽目になった。
スチャッ、と銃が構えられる。明らかに友好的でないが、果たして仲間になれるのか。
「射殺しろ」
ホストのような青年が、ヘーラーを口説くかのごとく彼女の隣にいた主犯格らしき人物が、そう言った瞬間、銃弾の雨あられが神奈に降り注ぐ。
(……なんでこんな馬鹿の尻拭いしているんだろう。僕)
怒りを通り越し、諦めの境地に到達したのは否めない。




