はぁ、ひどい人生だ
「なんでこんな真似を……父さんの職場だっていうのに━━まさかッ!?」
神奈は最悪のシナリオを頭に思い浮かべてしまう。それはすなわち、
「父さんの同僚が妬みかなにかで僕をここへ誘導した、のか?」
ヘーラーを壮大な囮にして、父親の職場へ息子を誘導したというのか? たとえ神奈がヘーラーを見捨てるという方針を立てたとしても、父が絡んでくれば話は別だ。神奈には闘えるだけの力がある以上、決して親を見殺しにはしない、と踏まれた可能性が否めなかった。それほどまでに、舞台が整いすぎているからだ。
そうやって考え込んでいると、
スチャッ、と頭に固く冷たいものが突きつけられた。
「テメェ……蒼月だな? ヒトが入教試験しようってときに」
それは紛れもなく、鬼山英人という悪ガキの声だった。悪い意味で、中1ながら神奈の学校で一番目立つヤツが一体ここへなにをしに来た?
いや、そんなことはどうでも良い。神奈の頭になにを突きつけているのか。それの答えによっては、これから取る行動は全く変わってくる。
「なにって、この状況は君が仕向けたものじゃないの。鬼山」
「ハッ。オマエ〝終末のための選択肢〟も知らねぇの?」
(終末のための選択肢……カルトだ。どこかで聞いたことあるぞ)
親からそれとなく教えられてきたカルト宗教、〝終末のための選択肢〟……。どうもこの街を中心に活動しているらしく、家庭環境に難のある世帯を探しては勧誘して回っている、と聞いたのを覚えている。
ただ、このカルト、胡散臭さが他のそれとは比べ物にならない。
家庭環境をおかしくしている存在を真っ先に勧誘し、その者が立ち直ったところで他の家族へも勧誘という手法だ。しかし、普通順序が逆だろう。では、なぜそんな回りくどい真似をしているかといえば、『問題児やDV野郎が更生した姿を見たら、より心に隙が空きやすい』というものだとされる。
「おれは勧誘されたんだ。宗教なんて眉唾だと思ってたけど、案外終末のために動くのも悪くねぇぞ。今こうして道具持たせてもらえることも噛み締めねぇとな?」
「へぇ……君僕と同い年なのに、撃てるの? それ」
怪訝そうな声色になる。「あァ? 射撃訓練くらいしたわ、ボケ」
「弾いてみなよ。君は教団の関心を買いたいんでしょ? なら僕を撃てば?」
「……ッッッ! 舐めた口叩いてンじゃねぇぞ!! テメェみてぇなザコがよぉ!!」
鬼山は激昂した。小気味良い破裂音と鉄の匂いが脳裏に浮かぶ。
当然神奈もくらう気はない。恐怖で動けなくなっていると思うのなら、少し恐怖を知らなすぎる。彼女は彼の腕をやや引っ張り、噛みついて横へ逃れる。パシュン! という音とともに。そのまま即座にコンテナの一番高いところまでワープした。
「あァ!? どこ行きやがった!?」
高いところから、神奈は本当の敵を探す。中学1年生に道具もたせるような連中だ。きっと、ヘーラーをさらったことに関与しているだろうし、同時に鬼山が逃げないように見張っている可能性も高い。
「るぅちゃんや光野先輩、そして鬼山まで悪魔に乗っ取られてあんな被害を出した。悪魔だってこの目で見た。はぁ、ひどい人生ですな」
見渡せる範囲━━数十メートル高い場所より、神奈は怒って銃声を鳴りまくらせる鬼山の近くに注目した。
すると、ヘーラーを連れた男組を発見した。彼らは鬼山の時空間を止めてしまう。これで発砲事件も御蔵入りか? と思っていたら、
神奈は目を細める。「なんでヘーラーさん、ウキウキしているんだ……?」
タイトル挿入ミスしてた……すみません