絶対零度の先
「えっ!? 神奈!?」
あたりを見渡してみるが、やはり姿は見受けられない。この短期間で一体どこへ行った? 森音はスマホで神奈に電話してみるも、一向に出る気配がない。
「な、なにが……っ」
「落ち着いて、瑠流ちゃん。蒼月神奈には天使と契約してる以上、あのヘーラーって女から逃れることはできない。まずは着いてきてるはずのヘーラーに……」
ナヘマーはそこまで言って、違和感に気がつく。そもそも蒼月神奈が現れたときからの違和感。それは、ヘーラーがいないことだ。本来天使は、契約した人間が力を悪用しないように、監視しなくてはならない。いくらヘーラーがポンコツであろうと、その理は絶対である。
それなのに、ヘーラーはその役目を放棄したのか? 天使が人間の監視を怠るほどの出来事……、ナヘマーはハッと目を見開く。
「分かった……。あの天使〝狩られてる〟んだ」
「狩られてる?」
森音瑠流はナヘマーの不穏な言葉に眉をひそめる。悪魔である彼女が、ここまで真剣な表情を見せるのは初めてだった。
「だ、誰に?」
「一番ありえるのは身内だね。それともなければ、他の悪魔契約者がヘーラーを殺そうとしてるか」軽薄な笑みとは裏腹に、目は笑っていなかった。「あたしは面白がってヘーラーや蒼月神奈を放置してたけど、本物の悪魔や天使だとそうはいかない。悪魔は天使を狩れば、階級が一気に上がるからね。天使だって、もしヘーラーみたいなイレギュラーを認めない堅物だったら……まぁ面倒臭い」
「……もしヘーラーが殺されたらどうなっちゃうの?」
「あれと魂をリンクさせた蒼月神奈も、死んじゃうだろうね」
「……っ!!」
「とりあえず、助けたいのなら探すべきだよ。あたし的には、あの天使と蒼月神奈が住んでる家が怪しいと踏んでるけどね」
森音瑠流は上着を羽織ることもなく、神奈の家へ走り出した。
「まぁ……瑠流ちゃんがいたところで、結果変わんないと思うけど」
森音瑠流は、悪魔の力を使いこなしきれていない。詳細な説明書をわざわざPDF化までしてスマホへ送ったが、結局実戦でないと掴めないものもたくさんある。
しかし、いないよりはマシだ。ナヘマーは黒い翼をなびかせ、鳥のように空を飛んで、蒼月神奈の家へ向かっていくのだった。
*
そもそも、神奈はワープできる。なぜかは自分でも分からない。ただしその気になれば、家まで1秒もかからずに帰ることができてしまうわけだ。
では、そんな神奈が空間移動した先とは?
「おっと」
神奈は自室にテレポートし、先ほど脳内を駆け巡った〝危険信号〟の正体を知るためにヘーラーを詰めようとしたが、彼女はすでに家にはいなかった。
しかし地面に痕跡は残っている。手紙が置いてあった。神奈はそれを読む。
『お付きの天使をさらった。返してほしければふ頭まで来い。オマエの父親が働いている場所だ。制限時間は16時まで。それまでに来なかったら、天使を殺す。天使が死ねばオマエも死ぬ。良いな?』
あえて利き腕でない腕を使って書かれているように見えるので、おそらく筆記からの特定を避けるためだろう。
神奈はグッシャっと手紙を丸め込み、目を瞑り、それなりに離れたふ頭を思い浮かべる。父親が働いているため、場所自体はなんとなく分かる。
「世話が焼ける、なんて次元じゃないよねぇ……!!」
眉間にシワを寄せ、パッと神奈は姿を消す。その瞬間には、最近埋め立てられた港に少女は姿を現した。
「なんだ、これは」
ふ頭内の人々は皆、意識を失っていた。ほぼ確実に、悪魔崇拝者が関わっているだろう。しかし暴走しているようにも思えない。ただ目的を果たすために、辺りにいた港湾関係のヒトたちが邪魔だから眠らせた、ように捉えられる。
「……?」
……いや、違う。辺り一面の時間を止めているのだ。冷凍保存するかのように。
タイトル考えるのにリアル3時間かかりました。作者は生粋の馬鹿だえ