遠隔授業の開始
第2章 『悟るくらいなら 死んじまえ』レッツラゴー!!
大災害級の出来事が起きた街は、さすがに機能不全気味だった。
学校の近くの高級住宅街は壊滅状態だし、当然蒼月神奈たちも学校へ通うことはできない。生徒全員を受け入れてくれる近くの中学が見つかるまで、神奈たちは遠隔授業で時間を凌いでいた。
「━━それでは、またあした~」
しかしこの遠隔授業、教員側も不慣れなのも相まって、あまり勉強になっている感じがしない。それに、みんながみんなスマホやパソコンを持っているわけでもないし、家が例の堕落者と神奈たちとの闘いで崩壊した子も多いので、参加するかどうかも自由意志という始末。
神奈は暇なのでスマホから授業を受けていたが、先生側や自分の家の回線がしばしば悪化して聞き取れなかった箇所がたくさんある。こうなると、受ける意味はあまりないかもしれない。
そして、一番大変なのが部活動に励む子たちだ。大会や練習試合等の調整をしなくてはならないのに、肝心の学校が消滅しているのと同意義なのは、帰宅部の神奈でも辛さが分かる。
いや、それより辛いのは卒業式もまともに開けない3年生たちか? 2月最終盤になっても、どこで卒業式を行うかも決まっていない。それどころか、そもそも開かれないのではないか? という噂が神奈の耳にも届いていた。
ちなみに、先輩という単語で思い出した人物がひとりだけいた。光野陽大だ。彼は、どうしているのだろうか。制服のワッペンを見る限り中3だったはずだ。命を賭して街を守った英雄が、まともな卒業式にも出られないなんて切なすぎないか。
『神奈、タイム計ってくれない?』
とはいえ、神奈にまともな友だちなんて1学年上の幼なじみ森音瑠流しかいない。森音は美人で頭も良く、運動神経抜群かつ社長令嬢という隙のない幼なじみ。だが、その属性故にまともな友だちが寄ってこないらしい。だから神奈に連絡してきた、というわけであろう。
『良いよ』
端的に返し、神奈は椅子をクルッと回す。
そこには、『私はおしっこも我慢できない犬・猫以下です』という看板をぶら下げたピンク髪の超絶美人がいた。
「はぁ。自分で作ったのは良いけど、こうして見ると僕のほうが虚しくなってきますよ」
「なら正座解いて良いですか!?」
「ダメです。父さんのお酒勝手に飲んで、ヒトのシングル・ベッドに潜り込んできて、挙げ句漏らしたんだから反省してください」
彼女はヘーラー。天使だ。いや、比喩ではない。本物の天使である。
顔立ち・スタイルともに完璧。彼女と並べば、どんな美人も霞んで見えるのだから不思議だ。
性格・行いともに最悪。彼女と並べば、どんなクソ野郎もまともに見えてくるから不思議だ。
そんな天使に反省を促すため、正座させて馬鹿みたいなプラカードを首に吊るさせる辺り、もうヘーラーに天使としての威厳は残っていない。残っているはずがない。
「さてと」
椅子から立ち上がり、神奈は寝巻きを脱ぎ捨て、諸々服を着始める。
「……もう姿見捨てようかな」
蒼月神奈。女子のような名前だが、しっかり男子……だったときが恋しくなってきた。いまや乳房が膨らみ始め、少しトイレが近くなり、髪の毛がすぐ伸びるようになって、闇落ちしたかのごとく地毛の茶髪が白くなり、生理用品を買っても全く訝られない存在になってしまった。
「はぁ。胸隠すのに布キツく巻くのは、もう嫌だなぁ」
一方、神奈がこの姿になったのは最近のことであり、それを家族にすら隠している。バレたら色々面倒臭いからだ。
ただ最近は、布で無理やりBカップくらいある胸周りを隠すことのほうが嫌になってきた。いつどうやってカミング・アウトすれば良いのだろうか。腕には龍のようなウロコだって生えているのに。
夜更新できなくてすんません。深夜まで遊んでいたので……