生きることとは
「戦況は最悪、状況は最高!! さぁ、行くぜぇ!!」
光野はそう笑い散らす。彼は刀を両手で持ち、それを人間の腕力ではあり得ない速度で振った。
「テニスアンド野球シリーズ! 〝グランド・スラム〟!!」
神々しい金のオーラが、はっきり見えた。それは一直線に黒い影へ向かっていき、黒い影に強烈なインパクトを与える。
威力のあまり影の大部分が天空高く舞い上がった頃、蒼月神奈は自身をワープさせた。天高く舞って影の背後に忍び寄ったのだ。
「ようやく本体が見えたか……!! 行くぞッ!!」
神奈は影の中にいる者に、映画のゾンビのようにグロテスクな敵性に、わずか鬼山英人の面影を見る。
やはり正体は鬼山だった。なにかの理由で、悪魔にすべてを乗っ取られてしまったのであろう。
だが、今はその理由を考えるときではない。神奈は到底人間の腕力では出せない速度と重さを、拳に乗せる。そのまま拳を振り切り、風圧で敵を消し炭にしようという算段だ。
そして、拳が振り抜かれた。爆弾でも落ちたかのような風圧が、学校を中心に広がっていく。残存していた窓ガラスはすべて割れた。学校もいよいよ倒壊し始めた。これだけの風の圧に耐えられる者はいないだろう。しかし、すでに警察や消防隊が近隣住民を避難させているはずだ。そう信じ、神奈はありったけの力で左拳を握り直す。
「うぉおおおおおお!!」
神奈は喉が潰れるほど絶叫し、左拳を先ほどと同じ要領で使う。影が消えるまで、そして本体が粉々になるまで、やり通せ!!
「おいおい、こりゃあすげぇな……」
光野陽大は、陽気に笑う。近くで見ていると分かるが、蒼月神奈は拳で風圧を矢継ぎ早に作り続け、そもそも地上へ落下してくる気配もない。
また、先ほどまでは気が付かなかったが、蒼月神奈の魔力を示す頭上の数字は、空想文字のように読めない。天使と契約した、というのは事実なのだろう。
やがて、爆撃級の爆風が終わった。神奈は口角だけ上げ、地上へ落下していく。
「神奈っ!!」
そこに、先ほど窮地を聞きつけた森音瑠流が現れる。彼女は意思のないものを操れる。そのため、近くに咲いている雑草に一箇所に集め、神奈をそれでゆるく縛り上げた。
「はぁ、はぁ……」
ゆるく縛られながら、神奈は地上へ降りていく。
影はすっかり見えなくなっていた。つまり、鬼山は死んでしまったのか? いや、良く見ると彼は無傷で階段近くに転がっている。呼吸も普段通り。いわば寝ているような状況だ。なので、殺人罪は適用されない。
「やぁ、瑠流」
「良かった……。本当に良かった」
「わっぷっ!? ちょ、身体痛いから抱きつかないで!」
泣きじゃくる森音は、ただ神奈の生還を喜んで幼なじみに抱きつく。それで良い。この時間は、ふたりだけのものなのだから。
「全く、メロドラマっぽいねぇ。まぁ良いや。蒼月神奈……名前は覚えたぜ。聞きてぇことは、学校が復興してからでも良いか」
そんなふたりに横槍を入れることなく、光野は去っていった。
「神奈さん! やはり貴方は〝毒をもって毒を制す〟作戦を理解しているようですね!! さすがツンデレさん━━うわッ!? 天使にモノを投げてはいけませんよ!?」
とりあえずヘーラーに瓦礫をぶん投げ、神奈はそれとなく森音から離れる。
「この後どうなるか分かんないけど、みんな生きていて良かった。そうだな、締まらないかもだけど……」
神奈の言葉をみんな待っている。ヘーラーですら、それなりに察して待っていた。
「ひとりで生まれて、ひとりで死ぬことには変わんない。でも、ひとりで生きていくわけじゃない。生きるって、そういうことなのかもね」
ひとつの問題が片付き、神奈は柔和な彼……彼女らしい笑みを浮かべるのだった。
なんか切り良いので第一章おしまいです。
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