バッカじゃなかろか、ルンバ
なんだ、コイツ? と互いの目をジロっと見つめる始末だった。
「……おれぁ、光野陽大だ。オマエは?」
「僕は蒼月神奈です」
光野陽大はニヤッと笑う。「色々聞きてぇことあっけど、まずはコイツを倒してからだな。やってやろうぜ、蒼月」
「はい、光野先輩……!!」
*
蒼月神奈と光野陽大が突如学校に発生した、悪魔に心を乗っ取られた存在と闘っている最中、ヘーラーと森音瑠流は公園の奥深くまで逃げ切った。
森音は首を傾げる。「ここ、どこ?」
「ちょっと前、神奈さんが秘密基地的な扱いしていた場所ですよ。ここで私は神奈さんに天使の力を与えたのです」
「すべての元凶がここで生じたってわけね……。神奈、大丈夫かしら」
「だから、先ほどから言っているではありませんか。よもや神奈さんが負けることがあれば、貴方の力で私を殺しても良いって」
ふたりは道中でも口喧嘩していた。あくまでも神奈の心配をする森音に、素体はいくらでもいると人間の道理を理解していない反論をするヘーラー、と言った具合に。
結局、ふたりは『もし神奈の身になにかあったら、森音瑠流が自身の悪魔の力を用いてヘーラーを殺す』という結論に至ったのだった。
ヘーラーは涼しい顔して了承したので、おそらく森音ではこのピンク髪を殺せないかもしれない。しかし、人間の意地も見せずにヘーラーの御託を受け入れるつもりなんて、端から森音の選択肢にはなかった。
「確かに、ここなら先生や神奈のご両親にも見つからないわね」
昔、米軍が接収していた場所を公園として整備され作られた都市公園は、基本的に丘の上にある上にただ広い。そのため、こういった奥深くの森林だらけで整備もろくにされていない場所もある。ベンチくらいしかモノが設置されていないのも、余計に隠れ家的な場所だと感じてしまう。
「だいたい、なんでアンタは神奈に力を与えたの? ランダムに選んだわけじゃないんでしょ?」
「神奈さんが破廉恥だからですぅ~」ヘーラーは口を尖らせる。
「は?」
「あ、いや。ランダムではないにしろ、運命を感じたのですよ。たまたまこの街を飛行していて、負のオーラを感じたから悪魔崇拝者か悪魔そのものだと思って落っこちた、じゃなくて着地したら、そこに神奈さんがいたのです」
「まぁ、ちょっと前の神奈はホントに死にそうな顔してたから、負のオーラはあながち間違っちゃなさそうね」
「そこまで知っていたのなら、なんで神奈さんを無視していたのですか? 貴方は神奈さんの味方のふりをして、実際のところは幼稚な感情で動いているようにしか思えません」
「……アンタに言われたくないわよ。メッセージ送っても既読にすらなんないし、インターホン鳴らしても出てくれないし。私だって、あの子のためになりたかったのに」
「そういうのを言い訳って言うのではないですか~?」
「……、」森音は押し黙り、近くにあった小石を拾う。「私の力は意思のないものにエネルギーを入れられる。アンタ、レーザービームって言葉くらい知ってるわよね? この程度の威力なんだけども」
ヘーラーの頬に、まさしくレーザービームのような閃光と速度を持つ小石が擦れた。ほんの少し出血し、顔を強張らせるピンク髪。森音は「バッカみたい……」と侮蔑をあらわにする。
「い、いいや? 私は全然ビビっていませんよ? 決して粗相はしていませんし━━」
森音はそもそもヘーラーを眼中に捉えてすらいなかった。彼女は、ヘーラーの後ろに立っている金髪碧眼の褐色肌少女に、侮蔑的な感情を出したわけだ。
「バッカじゃなかろか、ルンバってこと? ピンチだから駆けつけてあげたのに。あたしともあろう者が☆」