頭の上に疑問符?
「ヘヘッ、しっかり決まったぜぃッ!!」
やや高い男子の声を、楽しそうにあげている。この状況が楽しくてたまらないように。彼は、スポーツや格闘技を楽しむかのごとく、笑みを浮かべていた。
時計台が倒壊を起こしたが、神奈とその声の主は全くもってダメージをくらっていなかった。それもそのはず。その男子はまさしく〝カッター〟で切ったように美しく台の一部を斬り裂き、そのまま手に持った日本刀で破片をどこかへ飛ばしてしまったのだ。
「よー、後輩ちゃん。なんでここへ来たか知らねぇけど、逃がす余裕ならあるぜ?」
大昔から引っ張り出してきたかのような日本刀を一本持つ、黒髪オールバック七三分けの少年。ブレザーの色を見れば、この学校の中3であることを示す青色の紋章が入っている。
「どうした? 足がすくむのか? しゃーねぇな」
その少年、基先輩は、豪快に笑いながら、神奈に刀を向ける。ただ悪意や殺意等は感じない。むしろ、こちらを助けるために向けているように思える。でも、仮に神奈が逃げることを選択したとして、どうやって白髪の少女を安全な場所まで運ぶのだろうか。
「行くぜぇ!! 打撃シリーズ〝ツーベースヒット〟!!」
いわゆる峰の部分を神奈に向け、野球でもするかのごとく白髪少女をかっ飛ばした。
あぁ、やっぱり脳筋だったか……と神奈はボヤキながら、まさしくツーベースヒット相当の距離━━坂の上まで飛ばされかけた。
仕方ないので、神奈は念じることでワープを図る。どこへ着地するか……そんなの、敵のいる場所に決まっているだろう。坂部分の入口から教員用の駐車場につながる階段に敵を見つけ、神奈は人差し指と中指を立てて忍者っぽく振る舞ってみる。
そして、
神奈は最短で敵の目の前に立つことに成功した。これは思わぬ収穫だ。あとは……、
と次の策を練る暇もなく、黒い影に包まれた敵性は火の玉を飛ばしてきた。
しかし、それくらい読めている。神奈は慌てることなく、炎の塊をテレポートさせた。どこへさせたか? それこそ分かりやすい。ただシンプルに敵の方向へ、反射させたかのごとくワープさせただけだ。
「ちょっとは効いたかな……!?」
が、これしきで倒れるのなら、先ほどの日本刀をバットみたいに扱う先輩が倒しているはずだ。そのため、ここから先は蒼月神奈に隠されているだろう力を知る必要がある。
(ヘーラーさんは僕を〝鬼龍〟娘だと言っていた。鬼と龍の力を持つってわけだ。まるでラスボスだね。この世界に鬼や龍の力がどれくらい及ぶかは分からない。けど……!!)
地面を思い切り蹴り、地面が割れたのを確認する。よし、この馬鹿力は鬼の力だろう。うまく解き放たれているし、あとはこの威力のこもった拳をぶつけられれば……、
そう矢先、黒い影が一層巨大になった。その姿は、さながら一本の槍みたいだった。これはまずい、と神奈は地面を蹴り飛ばして敵性に接近を図るが、
「オマエ、死にてぇンか!? あんな負のエネルギーに触れたら、オマエまで堕落しちまうぞ!?」
最前の先輩に首根っこを捕まれ、半ば強制的に動きを止められる。
「大丈夫ですよ、先輩。僕は天使と契約したんで」
「天使? なんだ、そりゃ」
「説明すると長くなるというか、多分先輩は知識あると思うんで、余計にややこしいというか……」
「良く分かんねぇけど、ここはおれに任せておけよ。まだ試したい技がたくさんあるんだ━━」
再び飛んでくる火の弾。それは弾丸なんてサイズではない。ミサイル並みのサイズだった。
しかし、ふたりはそれを気にする素振りも見せない。
神奈はそのエネルギーを空高くワープさせ、先輩は技名すら言わず刀で火の弾を斬り裂いたからだ。
((……?))