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第一章 過去から再び未来へ 4 学院生活 そして授業の本格化

 冬から早春のころになり、学院の各施設が点在する蘭島・赤井川カルデラ地域でも、少しばかり寒さが緩み始めていると感じられた。学院生たちも、このころになるとそろそろ学院の生活に慣れてきた。


 このころから、学院では比較的難しい科目の授業が開始された。そのうちの一つが、「政治経済」という科目だった。

 その初日の講義では、直哉ばかりでなく魔族クラスの学院生たちにとっても、この授業の目的つまり政治経済という学科を通じて魔族の学生たちに重要な知識を与える目的が説明された。

「この世界は、犠牲(いけにえ)を要することでようやく構成されている......かつて魔族の我々の先祖は、神々だった....彼らは家畜人類の先祖たちから崇められ興奮を与えていた。家畜人類の先祖たちは、犠牲(いけにえ)を捧げ、または自らを犠牲いけにえととして捧げ、興奮と光悦を得ながら雷同に至り、われらの先祖の言いなりとなる信者となっていた......それゆえ我らの先祖たちは家畜人類の先祖たちから犠牲(いけにえ)を選び、大神おおかみルシファー様に捧げることで、政治経済的な支配を確立確認していた......それは今でも続いている.......そして、この政治経済の授業においても、どのように犠牲(いけにえ)を選び、捧げるかを経験し、我らの政治経済における支配の在り方を覚えつつ、未来には再び魔族による正義の支配を再び取り戻す準備とするのだ」


 こう言って、政治経済を専門とする教諭が授業を始めた。

「あんた達の魔族帝国の政治経済についての前ぶりは、これだけで十分かな……それでは、本日の講義内容は家畜人類に対する管理・支配の仕組みだ......これはどう言う内容だか簡単に述べることが出来るかな? そこの学生、答えてみなさい!」

 教諭の問いかけに魔族の学院生が立ち上がり、しばらく考えてから口を開いた。

「えーと、家畜人類に対する管理・支配の仕組みとは、俺たちが家畜人類をしっかり支配管理するための仕掛けですか? 多分、それは、家畜人類たちが俺たちに当然従うのが、俺たちの偉さにあるからだ、と家畜人類におぼえこませ、我々もそれを自覚することですね」

「その答えでは不足だな......家畜人類に対する管理・支配の現在の仕組みは、我々魔族、そして家畜人類たちの先祖である先史人類との共通の祖先が始めた牧畜業を、魔族である我々が高度化させて、下等で野蛮な人類であった先史人類を何とか管理し支配しようと発達させた高度な社会システムの一環だ....…では、家畜人類となった人類が、どんな特徴を有していたのかを、誰か、述べてみなさい……そこの学生! どうかな?」

 教諭のこの質問に、魔族たちは顔を見合わせた……すると、教諭はさらに続けた。

「あんた達は、いつも身近に家畜人類クラスの学院生たちを見ているではないか......この学院で、あんた達と家畜人類たちを一緒に教育しているのは、互いに相手を身近に観察し合うことを狙っているんだよ!」

「はい、わかりました……今の家畜人類も有している特徴ですね……彼らは我々を崇めるとすぐに高揚して雷同しがちです」

「そうだ……この点は、別の学科である歴史でも学んだとおりだ......かつての先史人類の一部は、すぐに雷同して高揚する特徴を有していた......つまり、いわゆる偶像崇拝をする特徴があり、特に陰謀説や根拠のないうわさによって感情を高ぶらせてしまう……それが、彼らの対立を深めるとともに、彼らはすぐに冷めてしまうから、彼らは決して支配され管理されていく本質を発見できなかった......かつても今でも家畜人類は、自らが雷同しがちであることを利用されて支配管理されているとは自覚せずに、我々に従順に従っている......かこの先史人類の一部もこれらを利用することで、我々に先立つ魔族に支配管理されたのだ......こうして、今では、我々は彼らを思うように管理でき、我々は極めて効率的に彼らのさまざまな物を搾り取ることが出来るという仕組みだ」

 授業は積極的な質疑応答になった。その議論は、具体的な支配・管理手法、つまり魔族たちがいかにして家畜人類を扇動し、それによっていかにして家畜人類を管理するかという支配・管理手法に傾いていた。

「......ということは、先生、今や、我ら魔族は魔王一族による支配を強める策を、さらに強める時期に来ているのではないですか?」

 学生の質問に、教諭は難しい顔をしながら答えた。

「そうだね……我々魔族は、家畜人類ではない人類、つまりあの敵対的な共和国人類たちによって、追い込まれる事態となっている......これには『野良人類』と呼ばれる謎の人類がかかわっているらしい……そこで、我々は新たな動きを始めているのだ」

「では、その新たな動き、つまり今やろうとしていること、やりつつあることについても教えてくれませんか」

  別の学生の質問に、教諭は力を込めて答えた。

「そうだな、その質問には、こう答えよう……今の我々は王族を限定的にしておらず、優秀な人材は積極的に取り込むようになった……この王族党に権力を集中させ、厳しい取り締まりと思想教育とによる結束と秩序規律のもとに、帝国の維持のために魔族から家畜人類の末端に至るまでの忠誠を徹底してきた。それが家畜人類からの生贄と魔族たちによる詠唱を伴う、大会堂での儀式にて、確認できる」

「でも、それでは、どうやって家畜人類をそのように導くのですか?」

「そうだね、そのためには、帝国内の魔族から人類の貪欲を刺激して、刹那的でも構わないから、日頃の充実感を味わわせることが、大切なポイントだ……その際、魔族たちとそれによって率いられてきた家畜人類の栄光と幸福の記憶と歴史をプロパガンダとして、各個人の情報メディア端末を通じて繰り返し語りかける事が重要だ」

「では、我々の敵である共和国人類たちにに対しては、どうしようとしているのですか?」

「そうだな、そのためには、分かり切ったことではあるが、国家安全保障の強化、つまり国内外からの脅威から国家を守ることが、指導してきた魔族たちの重要な責務だ」

 学院生たちは、非常に積極的だった。それは、現在、魔王一族や魔族たちが共和国人類たちに追い詰められていることを、よく知っていたからだった。


 それらのやり取りを通じて、直哉は、別の知識も覚醒しつつあった。それは、脳の片隅に残っていた断片的な記憶、つまり若いときの彼の心に刻まれた、トルコのコンヤに設けられた叡智学院に派遣された恩師の言葉だった。

「直哉、そして自由の地に選ばれてきた若者たちよ、よく聞きなさい…教育最終段階にきたあなた達は、今後、地上のトルコ東部の叡智学院本部ととその分校に派遣される…そこで、地上に再建されつつある共和国と共和国人類とを指導して共和国建国の基盤を固めるのてす…共和国建国の基盤である民主主義は、単なる制度ではありません…それは、聖霊の導きの下にあって、共和国人類一人ひとりの公正な判断力と、社会に対する当事者意識の上に成り立つ、生きた有機体です…この嘘とありもしない歴史や陰謀説に踊らされている世界において、共和国を永続させるために最も重要な教訓は、共和国人類の情報リテラシーの育成と、共和国人類一人一人の情報に対する責任感に他なりません」

「そこでまず第一に、国民に『批判的に考える』ことを教え込みなさい…共和国の外の家畜とされている同胞の中にはもちろん共和国人類の中にも、真偽不明の情報、意図的な偽情報、偏向した意見が溢れています。特に共和国人類は情報を鵜呑みにするのではなく、その妥当性や信頼性を自ら見極める能力を持たなければ、世論は容易に操作され、民主主義は脆くも崩れ去るでしょう…あなた自身も、側近からの報告や蔓延する噂や報道を無批判に受け入れるのではなく、常に聖霊に導かれつつ?その背景にある意図や根拠を問い質しなさい」

「健全な民主主義には、多様な意見交換が不可欠です…共和国人類が様々なメディアから情報を得て、聖霊の導きのままに異なる主張や意見の相違に注目し、多角的・多面的に物事を考察できるように導きなさい…特定の価値観を共和国政府が統制・押し付けてはいけない…表現の自由を保護し、共和国人類が自立的な市民として、社会的な対話や議論に積極的に参加できる環境を整えるのです」

「指導者として、あなたや政府が発信する情報には、常に責任と透明性が伴います…偽情報や誤情報に対抗するには、指導者や政府自身が聖霊に導かれ信頼できる情報源でなければなりません…少なくとも共和国人類の信頼を勝ち取るため、また遠い将来に家畜とされている人類を救い出すためには、いつも都合の悪い情報であっても隠蔽せず、誠実に公開し、説明責任を果たして、明確なコミュニケーションを心がけなさい」

「情報リテラシーは、単なる知識ではありません。それは『共和国の基盤である民主主義に参加する力』を育むためのツールです…幼い子供達の教育や各地域の共和国人類と連携し、彼らが若いうちから主権者として社会の課題解決に主体的に関わる参加・体験型の学習を推進しなさい…共和国人類が聖霊の導の下で自らを社会の構成員であると認識し、政治的信念と責任感を持って行動できるように促すことが、共和国を民主国家として根付かせ、待たれている千年王国への礎となるのです」

「世界に嘘や陰謀説を蔓延させる手段は常に変化しています…新たなテクノロジーや情報流通の仕組みが次々と登場するでしょう…情報リテラシー教育は一度きりで終わるものではなく、生涯学習として継続的に取り組ませなければなりません…あなた方自身も、そして共和国人類も、常に聖霊の導きによってろか新しい情報環境に適応し、学び続ける姿勢を決して忘れてはなりません」

「この教えは決して容易な道ではありません…しかし、共和国人類全てがいずれ聖霊の導きによる賢明な判断力を持ち、積極的に社会に参画する自立した市民となるでしょう……それは、共和国内の倒れそうな人々をそっと受け止め支えるという神の義を実現し、この共和国はいずれ千年王国へそして神の国へと発展していくでしょう」

 

 この日の授業を終えた時、直哉は、先ほどの恩師の別の言葉も、心に覚えたのだった。

「人類は、確か、情報リテラシーを大切にしていたはずなのだが……そうか、この認識を持たず不安定な精神状態となった家畜人類は、簡単に支配され管理され家畜になり下がった......そして、ここの住人達の魔族や家畜人類たちは、確認した事実に基づいて政治を動かす共和国人類に、さらに黙示録の証人の一人、『高橋直哉』という謎の人物によって、滅亡寸前まで追い詰められた......そう言えば、あんたも『高橋直哉』という名前だったな......偶然か? まあ、ありふれた名前だから、そういうこともあるだろうよ……ただ、この事態は、ふたたび紛争・戦争を引き起こすにちがいない……そして、魔族たちの中には、黙示録の証人に対して復讐に燃える者たちもいる」

「そのひとりが……かつての魔族帝国軍先鋒隊長であった亡きフラッド皇子の、孫という少年だ……その孫という少年は、この時代、配下一味を引き連れて、証人に復讐するために世界をめぐりあるいているというぞ」

___________________


 別の難しい科目の授業も始まった。それは、「家族の成立と繁殖管理」という学科だった。これは主に魔族クラスを対象としたもので、これもまた魔族が家畜人類を支配管理するため、そして家畜人類の生産管理を図るための、家族構成論と繁殖管理論の学科だった。


「さて、学院生諸君、これから学んでもらう『家族の成立と繁殖管理』は、我々魔族が支配している家畜人類において、最大限の繁殖を実現するための様々な考察をする学問だ......まずは、この学問が必要とされた背景を考えてみよう……さて、そこの学生、背景についての考察を述べよ」

「はい、僕の考えですが、今の我々魔族は、再びの拡大を目標にして、我々魔族が管理している家畜人類の再生産つまり繁殖を促進するための手法を必要としている、と考えられます」

「ウム、一部は言い当てている......もう少し、繁殖促進管理手法の管理的側面を掘り下げて言うと、家畜人類を管理するには、彼等の従順さを時に応じて確認することが必要だということだ......よし、それでは、乙女を生贄として儀式を行うのは何のためなのか、述べてみろ」

「はい、この儀式は、乙女が犠牲いけにえとなることを受け入れているかどうかで、乙女を差し出した家畜人類のグループの従順さを確認できます」

「そうだ……我々は、このために、我々の大神(おおかみである超越神ルシファー様により頼んでいる......即ち、ルシファー様への遥拝式の機会を利用して、その式の中で行われる生贄いけにえの儀において、家畜人類たちが差し出した乙女によって彼らの従順さを確認しているのだ......この儀において、家畜人類たちは、自らが従順になっている状態を、男を知らぬ幼い時から従順教育を施した乙女の姿を見せることによって明らかにしている…....なお、この生贄の儀については、遥拝式・生贄儀式論という別の学問に任せるとして……次に、生産の側面、繁殖制度について…..家畜人類の繁殖管理をするために家畜人類の社会を構成する基礎単位をどのように考えるべきか、という点だが……次の学生、これについて述べよ」

「はい、私の考えですが……我々自身のレベルで、まず繁殖効果を最大にする構成とするために、多数の男と多数の女とを固定化した組み合わせして結婚させることが従来から為されています……それは、我々魔族が事故の勢力拡大のためでした...…それを、家畜人類にも強制しているわけです……ただし、多数対多数の性的な組み合わせを固定化して維持するために、我々魔族のレベルでは複数の相手を絶えず満足させるために、多くの感情のもつれを調整する苦労を必要としています……家畜人類のレベルでは、従順さを絶えず確認することで彼らの感情の軋轢・もつれを抑えています。......これによって、われらの社会が維持されていることが重要なポイントです」

「よし、いい分析だ」


 授業では、この後も支配手法の様々な検討と考察が為された。

「それでは、我々に敵対してきた共和国人類を探る意味で、彼らの繁殖制度について、考察してみろ……次の学生!」

「はい、彼らの前身、反抗人類の時代、彼らは男女の権利の平等のためと称して、一対一から多対多にいたる固定的関係を約束させる制度ではなく、その時その時の全員の合意に基づいて、多数対多数の間で性的関係をその時に応じて臨機応変に自由に結ばせていました……これはあまりにただれたものであると言えます……これらの放縦は、我々にとっては、我々が家畜人類の支配管理の基盤としている固定的な性的関係を危うくするものでした」


 この指摘に、直哉はなぜか思わず、小さくつぶやいた。

「多数対多数の間の臨機応変な性的関係....反抗人類たちは、そんなにただれていたのか…」

 このとき、直哉の頭の中に、トルコのコンヤに設けられた叡智学院に派遣された恩師の言葉が、ふたたび蘇った。

「我々人類には、全てのことが許されていた......反抗人類にも自由は許されていた......だが彼らは一人一人の自由を拡大解釈し、放縦に過ぎた……彼らの存在自身が無秩序の極みだったのかもしれない……それゆえに、反抗人類は滅びる寸前まで行ったのだ......その後、彼らは『自由の地』の野良人類の援助を得て共和国人類となり、一対一の固定的関係である『婚姻』を基に共和国を建設するに至った......祝福されるべきは、男女の固定的関係たる婚姻だ」

 直哉は恩師の言葉を頭の中で反芻しながら、ふたたび授業の進行に意識を戻した。先ほどの学生が、まだしゃべっていた。

「……現在の共和国は、今ではわざわざ一対一の固定的関係である婚姻という制度で家庭を築かせているようです。これは、明らかに何かの特別な指示・指導若しくは教育に従ったのだと考えられます……指示若しくは指導・教育を行った『何か』もしくは『誰か』について、この学院の先生たちは謎の『野良人類』の存在を仮説として想定していますが、詳細は謎のままです」


 直哉は、学院の教師たちが、人類に対して指導的な立場の存在があることを想定したことに、ある種の感慨を覚えた。直哉は、彼ら魔族が帰依する超越神ルシファーのような存在を、敵である共和国人類の上にも当てはめて考察したことによる、必然的な結論だった。彼ら魔族は超越神ルシファーへの帰依を表わす遥拝式そのものが、魔族にとって彼ら自身のレゾンデートルを確認する場であるということにも合点がいった。

「とすると、魔族たちが、家畜人類の乙女を生贄にするのは、やはり人類にとってあってはならないことになる」


 直哉がこの言葉を口走った時、振り返った三人の魔族がいた。それは、かつてのフラッド皇子の取り巻き貴族三人の子孫、魔族男子学生酒呑童子族ゲラ・ゲーニッツ、人喰い族のドルベラフ・ニコフ、羅刹族のラルフ・ナーザフの3人だった。

「おい、直哉、お前、家畜人類みたいな姿をしているくせに、言ってはならないことを口にしたな!」

 ゲラ・ゲーニッツは、そういうと、直哉めがけてナイフを投げて来た。直哉は反射的にそれを掴み取った。

「おい、直哉! おまえ、魔族に歯向かうのか?」

「僕は、反射的に自らを守っただけで……」

 直哉は、ブツブツとそう言い返すのがやっとだった。この時、やっと教諭が割って入った。

「授業中だぞ……互いに暴力行為はやめろ」

「せ、先生、僕はただ投げられたナイフを受け取めただけです……自らを守っただけです」

 直哉は不満そうにブツブツつぶやいた。彼は、聞こえるか聞こえないかの声量に抑えたつもりだったが、ゲラ、ドルベラフ、ラルフたちには明確に聞こえていた。今度は、ドルベラフとラルフが、明らかに直哉を脅していた。


「おい、直哉! お前、明日以降が楽しみだな」

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