第6話:未来を描く手紙──“ゲーム外”からのメッセージ
「クラリーチェ様宛てのお手紙が届いています」
朝の食堂。ティーカップを手にする私に、メイドがそう告げた。
「……私宛? でも、誰から……?」
見慣れない灰色の封筒には、どの貴族家の紋章も押されていなかった。
唯一あったのは──“現代風のアルファベット”。
To Clarice, From: Me(かつての私より)
(……嘘、これって……!)
私は思わず、その場で立ち上がった。
リリィとふたり、人気のない図書塔の隅へ移動し、封筒を開ける。
中から出てきたのは、一枚の手紙と──ゲームパッケージの切れ端。
それは紛れもなく、現代日本の“私”がかつてプレイしていたゲームの箱の一部だった。
──手紙の内容は、こうだった。
親愛なるクラリーチェ様へ
もしこれを読んでいるなら、私はきっとこの物語の中で、あなたとして生きているのですね。
この手紙は、ゲームの“デバッグ用フラグ”を通して送っています。
私は、最後までこのルートに入れなかったプレイヤーでした。
けれど、あなたとリリィのルートが始まったことで、ゲームの記録データそのものが書き換わった。
そして私は思ったのです。
「彼女たちが選んだ未来こそ、ほんとうに欲しかったエンディングなのではないか」と。
だから、どうか最後まで幸せでいてください。
あなたが、悪役令嬢としてでも、ヒロインとしてでもない、“ただの自分”として選んだ恋なのだから。
未来は、もう“決められて”いない。
どうか、物語を生きてください。
From “Me”より
「……これ、まさか……元の私が、“この世界の内側にいる私”に送った……?」
「クラリーチェ様。あなたは、過去も、未来も、愛していい人です」
リリィはそっと私の肩に触れ、囁く。
「その想いは、嘘じゃない。
……どんな形であっても、あなたが歩いた道が、本物の人生です」
私は、そっと手紙を胸に抱いた。
(ありがとう。過去の私。
でも私は今、ここにいる私として、この恋を最後まで生きるよ)
その日の放課後。
リリィが、私を丘の上の花畑へ連れていった。
そして、ふたりきりのその場所で──
「クラリーチェ様。……いえ、“クラリーチェ”。」
「私と、永遠の契約を結んでくれませんか?」
手には、純白の指輪。
これはもはや、乙女ゲームでもなんでもない。
誰かの作った物語じゃない。
私と彼女が作る、真のルートの始まりだ。
私は、微笑んで言った。
「……はい、リリィ。私はあなたの花嫁になります」
ふたりの指が触れ合い、指輪が嵌ったその瞬間。
空に、誰かの声が響いた。
「Congratulations──New Ending Unlocked」
「True Route:The One Not Written in Code」
そうして、物語は完結し、そして始まった。
誰にも記録されていない、ふたりだけのエンディング。