第5話:ルールなき世界で、ふたりきりの初デート?
「世界のルールが消えたって、案外、静かなもんね」
──数日が経った。
空が割れ、システムの声が消え、王子たちのイベントも停止した。
でも学園生活は、何事もなかったかのように続いている。
唯一の違いは。
「クラリーチェ様、今日のランチ……お手製です」
「……はぁい、いただきます」
毎日、ヒロインが完全に恋人ムーブを決めてくるようになったことだった。
「それにしても、あれが“第0ルート”か……」
私はリリィと中庭の木陰で、食後のティーを飲みながら考える。
この世界の“筋書き”はもう存在しない。
ヒロインと悪役令嬢がイチャイチャしようが、誰も止めない。
「クラリーチェ様、今日は一緒にお出かけしませんか?」
「えっ……デート?」
「はい。世界が自由になったなら、貴女の“初めて”も、私がもらいたいです」
「……何その言い方、ずるい。顔赤い……」
──というわけで、私たちは“ふたりきりの自由時間”を過ごすことになった。
向かったのは、王都の外れにある“精霊の泉”。
ゲームでは一度も使われなかった隠しエリア。
でも今は、ルート制限なんてもうない。
「静か……」
「精霊たちも、今は眠っているようですね」
リリィが泉に手を伸ばすと、まるで水面が彼女に応えるように揺れた。
「……やっぱり、あなたってただのヒロインじゃないよね」
「それでも、私はあなたの“恋人”になりたいと思ってます」
「恋人……って、つまり?」
「“この世界で、ふたりだけの物語を創る相手”。違いますか?」
リリィは微笑んだ。
──本当に、綺麗だ。
この世界のバグで、生まれた存在だったとしても。
この世界の崩壊を起こした張本人だとしても。
「私は、あなただから好きになったの。
……他の誰でもダメなのよ、リリィ」
「クラリーチェ様……!」
その瞬間、ふわりと花びらが舞った。
泉の水がきらめき、世界が祝福するように風が吹いた。
──きっと、ここがエンディングでも良かったのかもしれない。
でも、私たちの物語はまだ続いていく。
リリィが、そっと私の手を取る。
「クラリーチェ様。これからは、
貴女と手を繋いで、“自分たちの未来”を選んでいきたいです」
「……ええ。ずっと一緒に」
──そしてふたりで歩き出す。
台本のない物語へ。