第4話:第0(ゼロ)ルート突入。全フラグ崩壊で、ヒロインが覚醒しました
──この世界には存在しないはずの「第0(ゼロ)ルート」。
それは、プレイヤー誰一人として到達できなかった、裏ルート中の裏ルート。
しかもそれに突入するには、“通常攻略対象キャラ”ではなく、“異物”同士が出会い、結ばれることが条件──。
つまり、私とリリィ。
悪役令嬢とヒロイン、ゲームの筋書きから最も逸れた2人が、互いに恋をすること。
それが、起動条件だった。
「記録更新。第0ルート、正式起動。
フラグ管理の上書きを開始します──」
それは、空から降るような声だった。
空間がぐらりと揺れ、学園の建物が一瞬だけノイズを帯びる。
私たちは中庭にいて、周囲の空気が不自然に“固まった”ことを肌で感じていた。
「……まさか、ほんとうに起動しちゃうなんて」
ユウナは焦りの色を浮かべていた。
あの完璧に見えた転生者でさえ、動揺している。
「クラリーチェ様、大丈夫ですか?」
「リリィ……あんた、本当に何者なの?」
そう問いかけると、彼女はふわりと微笑んだ。
「“私”が誰なのか──今までは、自分でも曖昧でした。
でもあなたと過ごすうちに、ようやく思い出したんです」
そして、彼女の背後に広がる魔力が、空を割った。
純白の翼のように展開する光の帯。
その中に浮かぶ、無数の魔法式と文字列。
「私は、“この世界を維持するための概念”だったんです。
でも、あなたと出会ったせいで──ただのヒロインとして生きたくなってしまった」
「それってつまり……」
「ええ。私はこの“ゲーム世界”そのもの──
正確に言えば、この世界のバグ修復と収束のために生まれた擬似人格」
──なんてこと。
つまりリリィは、ただの転生者でも、ただのヒロインでもなかった。
この世界が“ゲーム”である限り、彼女はそれを保ち、守る側。
でも私と出会ったことで、運命を壊す側へと転じた。
「……ふふ、皮肉ですよね。
貴女のことを“愛してしまった”せいで、私は世界の敵になったんですから」
そう言って笑う彼女に、私は──
「バカ……そんなの、敵になってくれてありがとう、って言うしかないじゃない」
その瞬間、空に“選択肢”が浮かぶ。
【彼女を拒む】
【彼女とともに世界に抗う】
迷わず、私は後者を選んだ。
「クラリーチェ様、ありがとう」
「礼なんかいい。私があなたを愛してるから、それだけで十分よ」
次の瞬間。
私の手とリリィの手が触れ合い、光が爆発する。
「全フラグ、破壊確認。
クラリーチェ=アーデルハイト、リリィ=ホワイトフィールド、
第0ルート《相互選択による自由進行型》へ移行──」
そうして私たちは、乙女ゲームのすべてのルールから解き放たれた。
もう王子も、イベントも、エンディングさえも関係ない。
私たちが創る物語が、“この世界”そのものになる。
──これは、恋から始まり、世界を変える革命の物語。
そしてその中心にいるのは、悪役令嬢とヒロインだけだった。