第3話:謎の転校生、その正体は“元プレイヤー”? 悪役令嬢のルートがまたねじ曲がる!
「転校生が来るらしいわよ!」
「学園に? この時期に?」
「しかもね、平民出身で特待生らしいの。天才なんですって!」
そんな噂が駆け巡る朝の講義棟。
そして現れたのは──
黒髪に眼鏡、清楚系の笑みを浮かべた、どこか儚げな少女だった。
「本日より編入いたします、東雲ユウナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
(……おかしい。この世界観に“東雲”とか“ユウナ”とか、和風な名前のキャラなんていたっけ?)
何か胸騒ぎがした。
そしてそれは、確信に変わる。
休憩時間。彼女がひとりで本を読んでいたところに、私が近づこうとしたその瞬間──
「おや、クラリーチェ様。まさか貴女が、この世界で生き残ってるとは」
──その声は、ゲームの登場人物のものじゃなかった。
「……あなた、誰?」
「“前の世界”の知人よ。もっとも、ここでは“転生者仲間”って言った方が早いかしらね」
(転生者……!?)
ユウナ──彼女は、私と同じように元・日本人で、乙女ゲーム『薔薇と契約のメロディ』のプレイヤーだったという。
「でも私、あなたのこと知らないんだけど……」
「うん、だって私、“隠しバッドエンドルート”の攻略者だったから。クラリーチェ様とはあまり縁がなかったの」
(マジで!? そんなやり込み勢いる!?)
彼女は言った。
「この世界のヒロイン、リリィ=ホワイトフィールド。
あれは“全属性最強型”だけど、それと同時に──ルートを歪める存在でもあるのよ」
「……え?」
「あなた、気づいてるでしょう? 本来のルートでは、王子がヒロインに告白して、
あなたは断罪される側のはず。でも今、どうなってる?」
「……私が溺愛されてる」
「そう。この世界は、バグってるの。 それも、リリィという“起動キー”のせいで」
ゾクリ、と背筋が冷えた。
私が愛されてるのは、“バグ”だから?
じゃあこの気持ちは? 私の感情は? 全部、狂った世界の産物なの?
──でも、そこへ割って入ったのは。
「クラリーチェ様、どいてください」
「リ、リリィ!?」
リリィは、目を細めてユウナを見据えていた。
その瞳の奥には、明確な警戒と敵意。
「あなたが、クラリーチェ様に妙なことを吹き込んだと見ていいですか?」
「……さすがね、やっぱり本物の“リリィ”」
「──いいえ、私は“本物”ではありません」
「えっ……?」
リリィは、穏やかな笑みを崩さず言った。
「私は、もともとこの世界にいた存在ではないのです。
けれど、クラリーチェ様に出会ったことで、この世界で“生きたい”と思った。
あなたに恋をしたその瞬間から、私は“ただのヒロイン”でいるつもりはなくなったのです」
まさかの告白。
ユウナも私も、言葉を失った。
──彼女もまた、転生者……?
いや、それ以上に、なにか……世界の“鍵”そのものなのか?
リリィは私に向き直る。
「クラリーチェ様、どうか惑わされないでください。
私は、あなたを本気で愛しています」
「……私も。たとえこの世界が、バグっていようが関係ない。
私はあなたに恋をした。それだけは、誰にも歪められない」
その瞬間、空間がふわりと歪んだ。
光が巻き起こり、どこかから女神のような声が響く──
「記録更新。第0ルートへの進行を確認しました」