第2話:最強ヒロイン、悪役令嬢に嫁入り準備を始める!?
「クラリーチェ様。今日のティーはお口に合いましたか?」
「ええ、たいへん結構です……って、あの、それ私の役目じゃない?」
乙女ゲーム世界に転生して早二週間──
私は「悪役令嬢クラリーチェ」として、破滅ルートを回避すべく地味に過ごしている……つもりだった。
だがしかし。
「次の舞踏会、ご一緒していただけますか?」
「おかしくない? 私、令嬢だけどメインヒロインじゃないんだけど!?」
──リリィ嬢が毎日私にアプローチしてくる。
そもそも原作では、王子や騎士団長、学者肌の美青年などがヒロインを取り合うはずの構図。
それが今では──
ヒロインが、悪役令嬢にガチ恋してる構図に変わっていた。
(ゲーム内の“恋愛対象”たちもみんな、明らかにリリィを避けてるのよね……)
魔力が規格外すぎて、近寄ると吹き飛ばされる王子。
意見が違っただけで、論破され泣いた学者くん。
そして何より──
「クラリーチェ様以外に興味ないです」
という、リリィの宣言。
「ねえリリィ、そろそろ“恋愛イベント”始まる時期だけど、王子と会話してる?」
「必要ありますか?」
「ゲーム的にはあるよ!? むしろそれが本道だよ!?」
「クラリーチェ様がいるから、王子なんてどうでもいいです」
「プレイヤー涙目だよそのルート変更!!」
──そう、彼女は全属性最強のくせに、選ぶのは私だけという完全一途スタイル。
しかも最近、周囲がざわつき始めていた。
◆貴族のうわさその①
「ホワイトフィールド嬢がアーデルハイト嬢に結納品を贈ったらしいわよ」
◆その②
「次期当主の座を辞退して、クラリーチェ様の家に婿入りする気らしいですわ」
◆その③
「えっ、逆プロポーズしたって本当!?」
「してないよね!? してないよねリリィ!?」
「……してないですよ?(まだ)」
「小声が怖い!!」
そんな中、今日の放課後。
私はついに、リリィに呼び出されてしまった。
場所は温室の薔薇園。
ゲームでは王子がヒロインに口づけをする重要イベントの場所──なのだが。
「クラリーチェ様、少し……お話があります」
「(えっ、まさか……告白!? いや、違う。たぶん誤解。うん)」
リリィはまっすぐ私を見つめて、口を開いた。
「……クラリーチェ様は、私のことをどう思っていますか?」
うわ、来たこれ。王道のやつ。
でも私、今更“推し”とか言い訳して逃げられない。
だって──
「……好きよ。とても、好き。
でもそれは“攻略対象”じゃない、もっとこう、“尊い”っていうか……」
「……ふふ、私もです」
「えっ」
「私は、クラリーチェ様の“すべて”が愛おしいです」
気づいたら、肩を抱かれていた。
目の前には、薔薇と微笑み。
(これ絶対イベントCG差し替わってる……!)
「クラリーチェ様、あなたにふさわしい者になるよう、私……努力しますね」
「いやもう十分強いし美しいし優しいし何目指してんの……!?」
「お嫁さん、です」
「さらっと爆弾発言やめて!? 鼻血出る!!」
──こうして私は、
“ヒロインとライバル関係”になるどころか、
全力で嫁入りされそうになっていた。
しかも、嬉しいことに──それが、まったく嫌じゃなかった。
むしろ、心がふわふわして仕方がない。
(私……もしかして、攻略されるの、悪くないかも)
そんな自覚が芽生え始めたある日のこと。
学院に、新たな転校生がやってきた──