第1話:転生したら、ヒロインが強すぎて世界がおかしい
目が覚めたとき、私は思った。
(……ここ、乙女ゲーム『薔薇と契約のメロディ』の世界じゃない!?)
天井の装飾、ふわふわのドレス、絹のベッドカーテン。
そして鏡に映る、くるんと巻いた金髪碧眼の少女──
クラリーチェ・フォン・アーデルハイト嬢。
はい、確定です。
悪役令嬢に転生しました。
──このゲーム、乙女ゲームと見せかけて、実は**“地雷イベント多発ゲー”**で有名だった。
ヒロインと仲良くできなければ婚約破棄、王子に断罪、そして最悪の場合は処刑END。
原作プレイヤーだった私は、全ルートをやり込んだおかげでその“破滅フラグ”がいかに地雷かよく知っている。
(ここは断罪回避一択!私は目立たず穏やかに生きる!)
──そう心に決めて、私は極力ヒロインに関わらないよう過ごしていた。
が。
「クラリーチェ様。おはようございます、今日も麗しいですね」
「……え?」
朝の授業前。
声をかけてきたのは、この物語の主人公──
リリィ=ホワイトフィールド嬢。
白銀の髪に透き通るような青い瞳、儚げな微笑。
まさにヒロインそのもの、でも何かがおかしい。
「今日は剣術の実技授業があるそうですので、
護身用にこの短剣をどうぞ。聖銀製で、魔除けにもなります」
「……い、いや、どうして私に?」
「クラリーチェ様は、護られるべき存在ですから」
「いやいやいや、私が悪役なんですけど!?」
ヒロインから守られる悪役って何!?
しかも剣術の授業で、リリィは片手で木刀を折った。
教師が驚愕し、王子が後ずさるレベル。
「……この子、原作よりステータスバグってない??」
その日、私は知ることになる。
リリィ嬢、魔力A++、剣術S、頭脳EX、礼儀SS、さらに性格良し。
そのうえ──
「クラリーチェ様、今日は放課後、ご一緒してもいいですか?」
毎日誘ってくる。
放っておいたら手作りお弁当とか持ってくる。
おかしい。これは私がゲームで知ってた“ヒロイン”じゃない。
完全に、私を攻略してる側じゃないか!!
もしかして、私、破滅フラグは回避したけど、
新しいフラグ(百合)を立ててしまったのでは!?
そんな私の叫びをよそに、リリィはにっこり微笑んだ。
「クラリーチェ様が私に冷たくしても……私、めげませんよ」
「え、あの、怖いっていうか、距離近いっていうか──」
「好きです」
「まだ何も言ってないのにー!?」
──こうして、私は逃れたはずの“破滅ルート”の代わりに、
“超高火力ヒロインに溺愛されるルート”に突入したのだった──。
(誰か代わって……って思ったけど……リリィが可愛すぎて……無理かも)