表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/150

【第6話】字に映る心

風に揺れる三枚の半紙が、書道室の壁に貼られていた。


 「一筆入魂」——真理子。

 「無心」——志津香。

 「爆」——あすか。


 誰が見ても、三人の個性がにじみ出ていた。


 「……やっぱ変かな、私の」


 あすかが壁を見上げながら言った。自分の選んだ「爆」の字が、周囲よりもひときわ太く、にじんでいたからだ。


 「変じゃないよ」

 真理子が優しく笑う。


 「らしい、って思った。勢いがあって、ぱっと目を引いて……ちょっとだけ怖いけど」


 「やっぱ怖いんじゃん」


 「ううん、でも、“伝わってくる”字だよ」


 志津香も頷く。


 「……字には、気持ちが映るの。自信のなさも、怒りも、喜びも。あすかの字は、“迷ってない”。それだけで強い」


 あすかは鼻を鳴らして笑った。


 「褒めてんの? それともまた皮肉?」


 「事実を言っただけ」


 そのやりとりに、真理子がくすっと笑う。


 「志津香ちゃんの“無心”って字、逆にすごく緊張してたと思うけどな。筆跡が、いつもより細かく揃ってて」


 志津香は一瞬、目を見開いた。


 「……見てるのね、ちゃんと」


 「うん。見てた」


 真理子の字も、二人にはちゃんと伝わっていた。


 「“一筆入魂”の“魂”のところ、すごく丁寧だった。たぶん、一番好きな字だったんじゃない?」


 そう言ったのはあすかだった。


 真理子は照れくさそうに笑った。


 「うん。……好きっていうか、願い、かな。“これから、こうなれたらいいな”って」


 三人の視線が、再び壁の字に集まる。

 筆で書かれた文字は、ただの“形”ではない。

 そこに込められた気持ちや覚悟、迷いや衝動が、ちゃんと誰かに伝わっている。


 「……書って、すごいね」


 あすかが、ぽつりと呟く。


 「うん。言葉にできないことも、紙の上になら映るかも」


 真理子が言う。


 「だから、こわい。けど、おもしろい」


 志津香が、小さく微笑んだ。


 その日、三人はまだ稚拙な線しか書けなかった。

 でも、自分の“心”が文字に映るのだと気づいたことが、最初の一歩になった。


 書道室の窓から差し込む西陽が、三人の机の上をやさしく照らしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ