【第13話】はじめての喧嘩
「ちょっと待ってよ、それって一人で決めることじゃないでしょ?」
あすかの声が、書道室に響いた。
「決めたというより、提案しただけ。そんなに怒ること?」
志津香が眉ひとつ動かさず、静かに答える。
「“提案”って言いながら、もう先生に言ってたって、それは実質“決定”だろ!」
きっかけは、次の学校展示に出す作品の話だった。
志津香は、三人の合同作品ではなく、自分の個人作を出すと顧問に伝えていた。
理由は、「構成的にまとまっているから」と。
「真理子も、あたしも、まだまだってわかってるけど……でも、一緒に作っていくんじゃないの? 書道部って」
あすかの語気が強くなる。
「……別に、あなたたちの作品が劣ってるとか言ってない。今回は“完成度”を求められてた。それだけよ」
「だったら、私たちはただの“足手まとい”かよ!」
真理子は、言葉を挟めずにただ黙っていた。
志津香が息をつく。
「……自分の限界を分かってるつもりだったの。部としての評価も大事だから」
「でも、気持ちを置き去りにして、“評価”だけ見て書いたら、それはもう、私たちの書じゃないよ!」
あすかの声に、書道室の空気がびりついた。
「私、うまく言えないけどさ……悔しいんだよ。仲間だって思ってたのに、勝手に“選ばれない側”にされたのが」
沈黙が降りた。
それでも、志津香はゆっくりと視線を下げた。
「……ごめんなさい。正直に言うと、どこかで、“私だけはちゃんとしなきゃ”って思ってた」
「……プレッシャー、だったんだね」
ようやく、真理子が言葉を挟んだ。
「志津香ちゃん、誰よりも冷静で、強そうに見えるけど……一番、張り詰めてるよね」
志津香の肩が、ふっと緩んだ。
「私、どうすればよかったんだろう」
「一緒に悩めばよかったんだよ」
あすかが言った。
「私ら、別に答えなんて出せないけどさ。一緒に考えたら、少しはマシになるだろ」
「……そう、ね」
志津香が、小さく、けれど確かに笑った。
「ちゃんと話せて、よかった」
「ケンカも書道のうち、ってことで」
「それはどうかと思うけど……まあ、うん」
三人は、並んで畳に座り直した。
夜の書道室には、静かな風が吹いていた。
言葉を交わし、ぶつかり、また笑う。
それは、三人が“仲間”になるために、必要な通過儀礼だった。




