LOG_006 ─ Forbidden Syntax
王都までの道のりは、馬車で三日。
街道を越え、丘を越え、平野の果てにそびえる白い塔――それが王都魔導院だった。
かつて王が初めて魔法を制度化し、“知”として管理することを選んだ場所。
それはまるで、魔法の聖域であると同時に、牢獄のようにも見えた。
到着してすぐ、俺は“研究棟”と呼ばれる区画へ案内された。
魔導院内部でも限られた魔術研究員しか立ち入れない機密領域だ。
そこには、書庫があった。
だが、ただの書庫ではない。
「ここは“沈黙の書架”と呼ばれています」
案内役の若い魔導士は、少しだけ声を潜めてそう言った。
「……一定以上の魔導資格者しか入室が許されません。閲覧には全て記録が残ります」
冷たい空気の中、並ぶ書物の背表紙。
そのひとつを手に取った瞬間、俺は息を呑んだ。
そこには、見覚えのある記述があった。
@invoke
glyph {
element = "aether";
sequence = ["bind", "pulse", "expand"];
origin = "core.node.001";
}
ArcScriptに、あまりにも酷似した構文。
否、それ以上に洗練され、機能化されていた。
「これは……」
「“封印魔法文書群”です」
後ろから声がした。
銀髪の監察官だった。
「この記述体系は、約二百年前に“禁術”として封じられた魔導言語。
名は“コア・スクリプト”。あなたのArcScriptは、非常によく似ています」
俺は震える指で、文書を読み進める。
論理展開、引数指定、ブロック構造――
それはまるで、俺が作りたかったArcScriptの“完成形”だった。
「……なぜ、封印されたんですか」
監察官の瞳が一瞬、揺れた。
「この魔法は、“理解できる者”と“理解できない者”の格差を生み出す」
「その格差が、国家と社会を壊す火種になると判断されました」
「だから、封じた」
俺はノートを閉じた。
ArcScriptの存在は、前例がなかったわけじゃない。
むしろ、かつて世界を変える寸前まで行った言語だった。
「同じ過ちを繰り返すかもしれない。
あるいは、今度こそ受け入れられるかもしれない。
それを決めるのは……あなたです」
監察官の言葉に、俺は深くうなずいた。
その夜、宿舎で俺は一人ノートに向かった。
灯りも落とし、ただ羽ペンの音だけが部屋に響く。
『書くこと』が、俺にとって“思考”であり、“実験”であり、“対話”であることを、この場所でようやく自覚した気がする。
知識は、封印されるものではない。
けれど、扱う者に資格がなければ、それはただの兵器になる。
ならば俺は、ArcScriptをただの言語ではなく、“思想”として構築しよう。
誰かが誤って使っても暴走しないように。
誰かが理解を深められるように。
そのために必要なのは、関数。
“手続き”そのものを定義できる仕組み。
関数内関数。
引数の継承。
ラムダ処理。
──ArcScript 1.1。
構文の試作は深夜まで続いた。
/**
LOG_006:
Reference match detected: CoreScript lineage.
ArcScript upgraded to support lambda injection.
A language reborn—or repeated?
*/




