LOG_000 ー The World Beyond the Code
静かだった。
コードも、エラーも、納期の警告メールもない世界。
不思議と、苛立ちはなかった。
ただ、眠るように、フェードアウトするように――俺は死んだ。
田嶋廉。35歳。
都内の中堅SIer勤務。
自慢できるスキルはないけれど、コードとスケジュールとトラブルには妙に強い、いわゆる“現場屋”。
無難に働いて、無難に疲れて、無難に壊れた。
終電が終わった時間にようやく退社し、
眠気と疲労でぼんやりした頭で横断歩道を渡って――
記憶は、そこまでだ。
<!--// =============================== -->
再起動されたような感覚だった。
光が差し込む。
でもそれは蛍光灯の白ではなく、
柔らかくて、少し暖かい太陽光だった。
目を開けると、巨大な顔が目の前にあった。
泣いていた。誰かが泣いていた。
「ありがとう……ありがとう、神よ……この子を……この子を守ってください……」
俺の頭を撫でながら、誰かが言っていた。
聞き慣れない言葉だったが、不思議と意味はわかった。
まるで最初から“理解する”ように組み込まれていたかのように。
そのとき、ようやく自分が“赤ん坊”であることを自覚した。
身体が重く、指は動かず、視界はぼやけ、声も出ない。
でも、思考は明瞭だった。
前世の記憶は残っていた。言語も、知識も、感覚も。
俺は転生した。
死んだはずの俺は、今――もう一度、生きている。
<!--// =============================== -->
名前を与えられた。
レオン・アルバード。
ここは“アルバード侯爵家”という貴族の家らしく、
俺はその三男として生まれたらしい。
魔法が存在する世界。
生まれてすぐ、俺の額に触れた医師のような男が「魔力量は平均以上」とつぶやいた。
つまり、魔力が数値化されている時点で、
この世界の“魔法”には何らかの“仕組み”がある。
それが、最初に感じた違和感だった。
この世界では、魔法が“才能”ではなく“資質”や“数値”で測られている。
となれば、そこに“構造”があるはずだ。
“法則”がある。
ならば、理解できる。
俺は、そういう世界で戦ってきたのだから。
<!--// =============================== -->
見知らぬ世界。
見知らぬ身体。
けれど、俺は一度生きて、一度死んだ。
二度目の人生で、もう迷う理由なんてなかった。
この世界の魔法を、“理解”してやる。