ブタの貯金箱お姉さんの頭をかち割る
押し入れの整理整頓をしていたら、ブタの貯金箱が見つかった。
「懐かしいな、これ」
じいちゃんから貰った、昔ながらのブタの貯金箱。
小銭を入れたが最後。壊すまで中身を取り出すことは叶わない。
若かりし頃のじいちゃんは壊すのが勿体なくてブタの貯金箱を使わずに取っておいたらしく、孫の俺が譲り受け小銭を入れては貯金に励んでいた。
「すっかり忘れて十年以上は経ってんのか……」
振れば中々に小銭が鳴った。
「金の使い道を知らない子供の頃だから、貰ったお年玉も全部小銭に替えて入れてたっけ」
そっと新聞紙を敷き、ブタの貯金箱をその上に置いた。
「ハンマー様は工具箱〜♪」
ブタの貯金箱を破壊するのは忍びないが、小銭が取り出そる程度に破損させて貰おう。
「──!?」
戻ると、敷いていた新聞紙の上に、知らないお姉さんが正座してにっこりと笑っていた。
「こんにちは」
「あ、ども……」
沈黙が訪れた。
「……あの」
「はい?」
「どちら様で?」
「ブタの貯金箱です」
「は?」
お姉さんは立ち上がると髪を持ち上げうなじの辺りを指さした。見れば小銭を入れる穴があった。
「あなたのお爺さんの頃からとても大切にされ、ついに私も人間の姿になる事が出来たのです。そう、所謂付喪神的なサムシングなのです」
「えー…………」
持っていたハンマーが手から滑り落ちた。
──コトン。
「なんですかそれは?」
「あ、いや……貯金箱を壊そうと……まあ」
「ひっ!」
たまらず頭を押さえるお姉さん。
「人殺しぃぃ!」
「違います違いますっ!!」
「わ、私を鈍器で撲殺しようと──」
「貯金箱をです!!」
お姉さんが後ろへたじろぐ度に、小銭の音が鳴った。
「こ、殺さないで……!!」
「殺しません殺しません!!」
慌ててハンマーを拾い上げ庭へと投げる。
「どうか落ち着いて下さい」
「わ、分かりました……」
背中を擦りお姉さんを落ち着かせる。
「……すみません。折角貯金して頂いたお金は、必ず返しますので」
「……」
冷静に考えてみれば、貯金箱よりも知らないお姉さんが居る方がはるかにお得だ。いくらでも居て欲しい。
「気の済むまで居てくださっていいですよ」
「えっ? やっ、やった〜!」
お姉さんに笑顔が咲き、嬉しくて飛び跳ね始める。
──グキッ!!
「ふぎゃっ!!」
着地を誤り足をくじいたお姉さん。とんでもない音がした。
「あ、足が……っ!」
「え?」
見ればお姉さんの足の先が転がっていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫! 血とかは出ないから」
足の先を拾いくっつけようとするが、くっつく訳もなく、欠けた足の先から小銭がポロポロとこぼれ始めた。
「ああ……貯金箱としての役目が……」
「まずはくっつけましょう」
瞬間接着剤で足を先をくっつける。
「ふーふー」
息を吹きかけ、くっついた足を指をにぎにぎするお姉さん。俺はこぼれた小銭をお姉さんのうなじの穴へ。
「……思い出した。俺、沢山貯金して、爺ちゃんにマッサージチェアを買おうとしてたんだった……」
「ふふ、優しいお孫さんですね」
「じいちゃん……」
成人した姿を見せる前に死んだじいちゃん。
最後は病気でよぼよぼで、とても見てられないくらいに痩せてしまって……。
「じいちゃん……」
墓参りも全然してなくて……。
「じいちゃん……っ!!」
仏壇の写真には、まだ病気になる前のじいちゃんと、ランドセルを背負った子供の俺。くわえタバコのじいちゃんが、黄色の帽子をかぶった俺の頭を撫でている。
──貯金箱。大事に使ってくれるかい?
じいちゃんの言葉を思い出し、涙が止まらなくなった。
「あ、あの……」
涙を拭き、お姉さんを見る。
お姉さんは首が取れていた。
辺りには小銭が思い切り散らばっている。
「転んで思い切りぶつけてしまいまして……またくっつけてもらえませんか?」
五百円玉を四枚だけポケットへしまい、瞬間接着剤でお姉さんの首をくっつけ始めた。