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三章 「カラスの止まり木」 -2-

 そして、こちらも神谷さんが悲鳴を上げ、気を失った。

 そこに確かに加藤はいた。

 けれどもそれはもう人と呼べる代物ではなかった。

 僕は口元を押さえ、込み上げる嘔吐感をこらえようとした。

 しかし、抑えきれずに人目もはばからず吐瀉物をまき散らす。

 見た目には車に踏みつぶされた猫を大きくしたようなものである。

 けれども胸に渦巻く不快感は、猫の比では無い。

 原因はつい先ほどまで僕らと会話していた加藤であるという紛れも無い事実。

 八田の顔面蒼白であった理由がここに来て初めて分かった。

 八田は知っていたのだ、この惨状を。

 だからあんなにも言葉少なに!

 怒りにも似た感情が僕を支配する。

 けれど、感情は言葉を成さない。

 まるで今にも泣きそうな八田の表情を見て、僕の拳は地面を殴った。

「俊佑」

 皆一様に沈んだ表情をしている。

 しかし、彼だけは眉一つ動かさず、彫刻の美を保っている。

 夕日に照らされた彼の頬は、頬紅をさしたようであるのだが、もしかしたら彼の中には血が通っていないのかもしれない。

「はい」

 叱られた子供の様な八田。

 兄の言葉にびくりと肩を震わす。

「お前は倒れた彼女を背負って山を降りろ」

「はい」

「桐嶋さん。悪いが警察を呼んでくれないか?」

「了解いたしました。冬馬坊ちゃまはどうなされるおつもりですか?」

「私はここでこれ以上カラスに食い荒らされないようにしておこう。警察が来た時に何が何だか分からないといった状況では困るだろう」

「了解いたしました。それではお気をつけて」

「ああ。それでは頼んだよ」

 空に飛び立ったカラスたちはまた丘の上にある木に戻っていく。

 そして、その様子をじっと見つめる八田の兄。

 無口すぎるカラスたちと佇む人形のような八田の兄との間では何か聞こえぬ会話がなされているようにも思えた。

「さあ、歩けますかな?」

 桐嶋老人は猟銃を肩にかけ直し、僕の腕を掴み体を起こしてくれる。

「ええ、大丈夫です。少し気分が悪いだけですから」

「山を下ります。よろしいですか?」

 加藤をその場に置いていくのは忍びなかったが、僕はやらねばならない事があった。

 八田に聞かなければ。

 何故こうなったのかを。

 そして、僕らは八田の兄をその場に残し、山道を下りていった。

 加藤の死がショックすぎて、気にならなかったと言えば嘘になる。

 確かにこの時僕は違和感を覚えた。

 あとで思えば、この時覚えた違和感を口にしていれば何か変わっていたかもしれない。

 そう、いつも僕はあとで思う。

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