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三章 「カラスの止まり木」 -1-

「熊じゃなくて?」

 僕の反応はこうだった。

 八田の話では加藤はカラスに襲われたらしい。

 全く、どうせ加藤がいらぬちょっかいを出したのだろう。

 世話の焼ける奴だ。

 どうせならそのまま山の中に一日、二日置いておけばおとなしくなって良いのではないか。

 そんな事を考えていると、八田は兄と桐嶋老人を連れてきた。

「行くぞ」

 憮然とした態度で、八田の兄が言い放つ。

 その整い過ぎた彫刻のような顔立ちと冷たいそのそっけない態度に僕は嫌が応なしにドキリとする。

 だが、彼よりも僕の心臓をドキドキさせたのは桐嶋老人であった。

 いや、正確には桐嶋老人が担いでいた物であるが。

 それは猟銃であった。

 やはり熊も出るようだ。

 僕らが普段生活していて、銃なんて目にすることはまず無い。

 まさにテレビの向こう側の存在である。

 それが今目の前にある。

 僕は良く分からない興奮の中にいた。

「私も一緒に行ったらだめですか?」

 僕らがまさに家を出ようとした時、神谷さんが八田の兄にそう言った。

「足手まといだ。邪魔だから来るな」

 八田の兄はそう答える。

 冷たいが、まさにその通りだった。

 多分負傷した加藤を担いでここまで来なくてはいけなくなるだろう。

 その時、神谷さんは戦力外だ。

「でも、私も加藤君のことが心配で・・・」

 涙声で訴える神谷さんに八田の兄は見向きもしない。

 健気な子だ。

 あんな加藤なんかのために。

「好きにすればいい。私はどうなっても知らないからな。俊佑、お前が面倒みるなら連れていけ」

 そう捨て台詞を残して八田の兄は家を出ていく。

「ねえ、いいかな?八田君。私も行っても」

「あっ・・・うん」

 すっかり意気消沈している八田。

 神谷さんの話をちゃんと聞いているのだろうか。

 帰って来てからずっとぼうっとしている。

 とりあえずそのまま同じようにぼうっとしていては、八田の兄に遅れるので、僕も家を出ようとした。

 そして、見てしまう。

 神谷さんの小さなガッツポーズを。

 それを見て僕は悟った。

 きっと神谷さんはこの機に少しでも八田の兄にお近づきになろうとしているに違いない。

 怪我をした加藤はだしに使われたのだ。

 そう思うと加藤が少し哀れだ。

 そして、少しでも健気だと思ってしまった僕も。

 それから僕達は八田の兄を先導にして山道に入っていった。

 山道は登山道の様な整備されたものではなく、獣道に近い。

 ただでさえ山道になれていない僕と神谷さんはすぐにばてた。

 もはや疲れて会話もろくにできない状態になってしまった。

 きっと神谷さんの心中ではこんなはずじゃなかったと後悔している事だろう。

 それにしても夕暮れの木々の中を歩くのは少々怖い。

 僕が馴れないだけかもしれないが、何処からか何かが出てくるような気がしてしまう。

「もうすぐだ」

 八田がポツリとつぶやく。

 その言葉通り林は終わり、開けた場所に出る。

 小高い丘と言ったところだろう。

 そこは切り株があったり、生えている草の丈が同じだったり、人為的に整備されているようだった。

 そして、丘の中央には大きな木が一本あった。

 その木がここに来る時に神谷さんが見つけた木だと分かるには少し時間がかかる。

 木には大量のカラスがとまっていて、葉っぱが黒く染まっているように見える。

 僕の背筋に寒いものが走る。

 しかもカラスたちは寝ている風でも無いのに全く鳴いていないのである。

「ここだよ」

 加藤の姿は見えない。

 いるのはカラスだけ。

 木々にいるものとそこからあぶれたのだろうか身を寄せ合っているようなカラスの塊。

 僕は訳も分からず、ぼんやりしていると、ターンッと耳をつんざく破裂音がした。

 音の方を向くと桐嶋老人が空に猟銃を向けている。

 僕と同じように驚いたカラスたちが思い出したようにカアカアと悲鳴を上げ空へ。

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