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十章 「鴉は紅く、黄昏を待つ」 -1-

 山道は走るものではないと思う。

 八田の兄が急いでいる理由は分かった。

 けれど、どう僕が頑張っても引き離されないようにするのが精一杯だった。

『いない・・・か』

 穴蔵に到着し、八田を探す八田の兄が呟くが、それに答える余裕など僕には無かった。

『行くぞ』

 荒い息を整える僕に八田の兄は無慈悲にもそう言い放つ。

 もう走れない。

 けれど、

『一体何処に?』

『あの場所だ』

 その言葉に嫌な予感が全身を走り、総毛立つ。

 息をのむ。

 もしかしたら事は悪い方に転がっているのかもしれない。

 きっと神谷さん達はお腹が減って、山を一旦下りて何処か食べ物がないかと、方向音痴僕のようにさ迷っているかもしれない。

 気が付けばもう日も暮れようとしている。

 お腹が減っても仕方がないだろう。

 そんな風に自分をなだめるのだが、僕の鼓動は小動物のように早く全身に血を巡らすのであった。

 そして、結局ここに来てしまう。

 元はと言えば初めの目的地はここだったのだから、ようやくこれたと言うべきなのだろうか。

 すたすたと先をいく八田の兄を追い、全身をきしませながら僕はここにいる。

 けれど、その痛みさえ忘れるほどの衝撃がそこにはあった。

 人影があり、そこには八田、そして神谷さん。

 それから肩を落とす桐嶋老人の姿があった。

 その手には猟銃が握られ、八田の頭から流れる血で作られた血だまりは恐らくその猟銃で作られたものだろう。

 同じように側に倒れる神谷さんは無事なのだろうか?

 桐嶋老人は近づく僕達に気がついたのか、顔をあげる。

 その目からはポロポロと涙がこぼれ落ちていた。

「冬馬坊ちゃま・・・私は、私は・・・俊佑坊ちゃまを・・・」

「大丈夫だ。何も言わないでいい。悪いのは私だ。私の無理な頼みを聞いてくれて、本当にすまない」

 崩れ落ちる桐嶋老人を八田の兄がなだめていた。

「説得するんじゃなかったのか。八田を説得するってあんたはそう言ったはずだ」

「そうするつもりだった」

「だったら何で殺した!」

 八田の兄は憤慨する僕をまるでうるさいハエのように見ている。

「仕方がなかった事だ」

「仕方がない?そんな言葉で人の命を容易く奪うのか!あんたは!」

 八田の兄はゆっくりとした呼吸を一つ置く。

「少し前に言った通り私は弟の能力の有無についての確信がない。もし桐嶋さんが弟を説得に出て、カラスに襲われたらどうするのだ?その時彼女の命も、桐嶋さんの命も、無かったかもしれないのだぞ。最悪三人とも死ぬ事だって考えられる」

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