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九章 「山道を走らなければならない理由」 -2-

「それで八田も、あんたの弟もあんたと同じようにカラスを使って加藤を殺したと。そう言う訳か。正直、あんたの血が呪われていようと知った事じゃない。加藤があんたの父親と似ているからっ殺されたって?ふざけるな。そんな事信じられるか!信じないからな。僕は。そんなくだらない理由で八田は殺しをやる奴じゃない!」

 まるで駄々をこねる子供のようだ。

 僕の言葉には何の根拠も無い。

 ただ信じたくなかった。

「例えば、ここに目に見えないナイフがあったとしよう。これがあれば警察に捕まらないで思う存分殺しができる。君がこのナイフを手にした時、一生使わずにいられると思うかい」

「そんなものはこの世にないし、仮にあったとしても僕は絶対に使わない」

「・・・本当に?絶対に?人の良心の裏には狂気が潜んでいると言うのに?」

 使うだろうか、僕は?

 僕がそんな変わったものを、力を持っていたら・・・

「少なくとも八田はそう言う奴じゃない」

「・・・そうだな。私もそう思う」

「は?・・・今なんて?」

「私もそう思うと言ったんだ。私も弟がむやみやたらに力を使うような奴じゃないと思っている」

「ちょっと待ってくれ。あんた、八田が加藤を殺したって言ってただろう」

「いや、私はそんな事を言った覚えはないが。私は弟が自分で加藤君を殺したと言っていたと言っただけだ。私個人の考えはカラス達の独断だったんじゃないかと考えている。五年前の私の命令がまだ有効で、父に似た加藤君が襲われたのか。それとも自分達のテリトリーに見ず知らずの人間が来たから襲ったのかは分からないが。ともかく私は弟がカラスを操れる能力自体持っているかどうかも疑わしいと思っている」

「何だよ。それー」

 僕は脱力する。

 てっきり僕は八田の兄は八田が加藤殺しの犯人なのだと思っていると思っていた。

 きっと今へたり込んだら立ち上がる気力は残ってはいないだろう。 

 八田の兄の言葉を信じてはいけないという警戒心よりも、きっと八田は加藤を殺したんじゃないと言う安堵感が僕を支配していた。

「ただ弟はと言うと本気で自分が加藤君を殺したと思っているようだ。弟自身は加藤君の事を気に病んで、自首しようとしていたのを私が止めたくらいだからね。きっと五年前と同じようになるって。私が自首した時は信じてもらえなくて。カラスをけしかけてみたりしたが逆効果だった」

 ああ、あれかと中年の男の傷を思い出す。

「じゃあ、何で八田をあんな穴蔵の中に?」

「ああ、それは弟の能力を確かめるためだ。先程も言った通り私は弟の能力を疑っている。確かめる必要があったのだ。もし能力がないのなら問題ない。けれど、能力があるのならばその力の制御の方法を教えなければいけなかったし、またその力は公にするようなものでもない。それこそ死んでしまったことにしておいた方が都合が良かった」

 元々八田は実家に戻るつもりだった。

 もし能力がなくとも、僕達がまたここを訪れさえなければ問題無かったと言う訳か。

「だが、今問題なのは弟が本当に加藤君を殺したのか、そうでないのかではない。自分が人殺しだと思っている人間が、事が明るみに出ないように突飛な行動に出ないかだ」

「そんな事・・・」

「もちろん私の杞憂であれば問題ない。私もその方がいい。けれど、それはあり得る話ではあるのだ」

 もし僕が八田ならどうする?

 自分の悪事を暴露しようとする者を消すか?

 かつての友であったとしても。

「時間を食った。事情は呑み込めたと思う」

 正直納得はしてはいない。

「急ぐぞ」

 だが、もし彼の言葉が本当なのだったら、僕達は余計な事をしたのではないか?

 そんな疑問が頭をよぎるが、八田の兄は思考する暇も与えず、先を急ぐのだった。

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