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七章 「穴蔵の瞳」 -2-

 恐る恐る足を運ぶと、まるで何かの貯蔵庫の様な開けた部屋に出る。

 そして、その隅には体を抱えて震える人物がいた。

「何故、ここにいる?」

 僕に背を向けたまま答えようとはしない。

 そうやって隅っこで、身を小さくして、うじうじとして、震えていればその存在が消えるとでも思っているのか。

「どうしてここにいる!答えろ!八田!!」

 八田だ。

 そこにいたのは八田だった。

 僕は力任せに八田の腕を掴み、その場から引っぺがすように放り投げる。

 そして、半ば馬乗りのような状態で八田を組み伏せる。

「答えろ!」

 八田の体を揺すりながら、僕はもう一度吠える。

 八田は泣きながら嗚咽を漏らすだけで、何も語らない。

 背ける顔を無理やりに掴み、僕の方を向かせるが、八田の眼球は僕と視線を合わせようとはしない。

「は、八田君?!」

 大騒ぎしている僕の声に意を決して穴の中に入ってきたのだろう。

 神谷さんの声が僕の固めた拳が振り下ろされるのを止めた。

 束縛する力が緩まり、今が機だとばかりに僕の元から逃げる八田。

 そして、また隅っこで震えている。

「何で八田君がここにいるの?」

「分からない。けれど、八田は生きていた。これで八田の兄がさらに怪しくなったってのは確実だ」

「でも、良かった」

 神谷さんは緊張の糸が入れたのか、その場にへたり込む。

「八田君、生きてたんだ。私、死んじゃったと思ってたから・・・良かったぁ」

 神谷さんはとめどなくあふれてくる涙を必死で拭っている。

「ごめん」

 そんな神谷さんに八田は小さく呟き、謝罪する。

 喜ぶべきなのだろう。

 死んだと思っていた友人が生きていたのだ。

 しかし、僕の中を駆け巡っていたのは怒りだ。

 僕の握り締めた拳は生き場を失い、さ迷っていた。

「八田。お前が生きていたって事は、もしかして加藤も生きているって事は・・・」

「ごめん」

 自分でもその返答が返ってくるのは分かっていた。

 八田の時とは違い、加藤の死体はよく目に焼き付いている。

 もしあの時、八田の死体だと八田の兄に見せられた時、よく見ていたらこんな状況にならなかったのだろうか?

 きっと一目では分からないように細工してあったろう。

 けれど、絶対に何も気がつかないとも言い切れない。

 まただ。

 また僕は後悔している。

 情けなさに、ようやく拳の行方が定まる。

 僕は自分の額を思いっきり殴り飛ばす。

 手加減などせずに殴ったものだから、頭がくらりと目まいを起こす。

 八田も神谷さんも何をしているんだと、唖然としていた。

「だ、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

 僕は頭を振り、佇まいを直す。

 心配そうな神谷さんに答えて、八田に問いかける。

「八田。お前をここに追いやったのは、お前の兄か?そして、加藤を殺したのも」

「ち、違う。名取さん、それは違う。加藤さんを殺したのは・・・」

「今更自分の兄をかばいだてするのか?」

「・・・違う」

 またぽつりとつぶやく八田。

 煮え切らぬ態度に多少腹が立つが、今度は自制が効いた。

「まあ、いい。神谷さん。これから僕は八田の家に向かおうと思う。警察にも連絡して、あいつを捕まえる。証拠もある事だしな」

「え?証拠?」

「ああ、ここにいる八田が証拠だ。自分の弟を死んだとして、こんなところに監禁している。それだけで犯罪だ。とりあえずその事で一度捕まえてもらう。そこから加藤の死んだことについて詰めていけばいい。その時は八田、お前も覚悟を決めてもらうからな。お前の知っている事全て、警察に話してもらう」

 八田は睨む僕の視線に顔をそらす。

「行ってくる。八田の事を頼む」

「うん。気をつけて」

「ああ、大丈夫。・・・今度こそ」

 そして、僕は神谷さんと八田を置いて、八田の家へと向かった。

 見ているがいい。

 必ずお前を追い詰めてやる。

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