六章 「決意の朝」 -2-
僕はうなずく。
「僕はそう思う。けれど、仮にあの刑事らしき人物が本当に警察の人間だったとしても八田の兄にはまだ怪しいところが残ってる。昨日、僕が八田の兄を殴った時、瞬間カラスたちが騒ぎだした。そして、あいつが手をかざすと途端鳴き止んだんだ。僕にはまるであいつがカラスたちを操っているように見えた。もしそんな事が出来るのならば、あるいは警察の人間を襲わせ、恐怖心を植えこんだり、襲わせる人間を選ぶことだってできるんじゃないか?」
「鷹匠みたいなもの?」
「そうかもしれない。実際に襲わせてる現場を見た訳じゃないから、確実な事ではない。僕が見たことも、もしかしたらただの偶然かも知れない。偶然にしては出来過ぎているとは思うけど。だから僕は確かめたいんだ。これは本当に僕の妄想で、真実はただの不幸な事故なのか。それとも・・・もっと恐ろしい事なのかもしれないのか」
神谷さんは手持ち無沙汰で胸の前で、絡めていた指を強く組み上げる。
祈るように、固く目を閉じる。
「だって私その現場見ていないし、何言ったって信じられないよ。加藤君の事も八田君の事もただでさえ辛いのに、それが殺人事件みたいだなんて、そんなの私信じられない」
僕の言葉は神谷さんには届かないようだ。
けれどそれは仕方のない事。
八田の兄が怪しいと言うならば、神谷さんにとって僕だって怪しく映るはず。
八田の兄と違って僕の方が二人との関わり合いが強い。
それは同時に動機という点で僕の方が強いのである。
もしかしたら神谷さんの中では、僕に殺されるかもしれないという恐怖とも戦っているのかもしれない。
僕は神谷さんの組んだ手の上に自分の掌を重ねる。
「信じて欲しい。僕の言葉を。あの時こうしていればとか、僕はずっと逃げ続けてきたんだ。けれど、もうそんなのは嫌なんだ。後悔したくない。だから、お願いだ」
自然と僕の手は神谷さんの手を強く握っていた。
そして、それに答える様に神谷さんも僕の手を強く握り返してくれる。
「・・・うん。信じるよ」
その言葉に自然と涙と感謝の言葉が流れる。
「けど、私達にできる事なんて限られてる。一体どうするの?」
「加藤の死んだあの現場に行ってみようと思う。何か見つかるかもしれない。何も見つからないかもしれない。けれど、僕らが一歩を踏み出すのはきっとあそこからなんだと思う」
そう、これは僕にとって逃げずに戦おうとする初めの一歩だ。
そして、彼にとって詰めの一手。




