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四章 「聴き取る朝」 -2-

「俊佑君が言うには、完全に失念していたと。正直、私は当時高校生だった俊佑君が父親が亡くなった場所をそう簡単に忘れるものだろうかとも思ったのだが。しかし、俊佑君のひどい落ち込みようを見て、その言葉に共感したのも事実だね」

「弟が落ち込んでいたのは私が弟を叱ったのも一つ要因としてあるでしょう」

「あとは彼の言葉を現場で検証しないとね。何とも言えないかな。それと具体的に加藤君がどの様にカラスにやられたと言うのは伏せさせてもらうよ。あまり話を聞いても気分の良い話ではないし、出来れば話をする私も遠慮したい類だ」

 八田の言い分だと加藤を危険な場所だと忘れていて、案内し、結果あの惨劇だと言う訳か。

 過失と一言で片づけるには余りにも大きすぎる犠牲だ。

 もし僕が八田の立場だったらと想像するだけで、僕の胸は締め付けられ、息苦しくなる。

 きっとあの時も加藤の死を隠そうとしていた訳ではないのだろう。

 口にするのが恐ろしかった。

 それはあくまで僕の想像する感情であったが、僕の中には確信めいたものがあった。

「さて、そろそろ話を戻しても良いだろうか?では、聞かせてもらうが・・・」

 それから僕は昨日の僕について出来るだけ正確に答える。

 問答は粛々と進み、終わるころには昼前になっていた。

 ひどく疲れた。

 あの広い部屋に戻ると、

「お帰りなさい」

 神谷さんがいた。

 八田の姿は見えない。

 神谷さんは一人でいるのが不安で、僕か八田がいないかとこの部屋へ来たのだろう。

 僕が戻ってくるまでこの広い部屋にずっと一人だったのだろうか。

 もしそうならさぞ心細かったろうと、神谷さんの元気の無い顔を見て思う。

「次は神谷さんの番かな?」

「?・・・ああ、私はもう朝一で済ましたから」

「そう。じゃあ、僕が四人の中で最後って訳だね」

「ううん。まだ加藤君が警察とお話してるよ。きっと」

「そうか」

 一体あの加藤のグチャグチャになった体でどれほどの事が語れるのかとも思うが、少しでも多くの言葉を受け取れたらいいと思う。

 そんな事を思いながら、僕は腰をおろし、ぼんやりと部屋のどこかを眺める。

 気の利いた言葉一つでもかけるべきなのだろうが、何も浮かばない。

 そして、僕らの間から会話は無くなった。

 お互いの距離を探りながら、どうしていいか分からなくなっていた。

 そんな重苦しい空気の中、ふすま戸が開く。

 八田が来たのかと構えたが、現れたのは桐嶋老人だった。

「皆さま、俊佑坊ちゃまを知りませぬか?」

「いえ、僕はまだ今日になって八田の姿を見てませんが。神谷さんは?」

「ううん。私も見てない」

 そして、神谷さんはさっきまでいじっていた携帯で八田にコールしてみる。

 しかし、首を振り、

「電源切ってるかも。繋がらないよ」

「そうですか。もし俊佑坊ちゃまがこちらに来られましたら、ぜひ私にご一報いただけますかな?」

 僕らは頷くと桐嶋老人は出ていった。

「八田君、どうしちゃったのかな?何かあったのかな?」

 か細い声で泣くような神谷さん。

「大分落ち込んでいたみたいだからな。きっと加藤の事で僕達に顔を合わせるのも気まずいと思うし、少し一人になりたいのかもしれない」

「そっか。別に私達責めたりしないのに」

「それでも八田自身は責めずにはいられないんだろ。自分を。僕だってそうだから。あの時、僕も加藤達と出かけていればこんな事にならなかったんじゃないかって後悔している」

 あの時、少しこの旅が楽しくなりかけていた時だ。

 気を利かせて付き合っていれば。

 思い返せばいつも僕は利己的で、怠惰であった。

 自己嫌悪に押し潰されれそうになる。

 そうは思うも過去は変えられず、未来に対してできる事も限られていた。

 ただ僕達は八田を待つしかできなかった。

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