第六章 護身しなきゃ死ぬぞ。
会社を設立して約2週間が経ち、商売をするために必要な書類をまとめて役所に提出できたので、ようやくスタートラインに立つことができたバードたち。この2週間の間にガーベラは「経営学」を、フリットは「営業術」を、ネオンは「財務」について色々学び始めた。フリットは案の定ものの3日でパンクしたが、ネオンは持ち前の経験と知識、ガーベラは自身の本の読解力から、今でも学びを怠らない。当の本人であるバードは何を学んでいるかというと…
「免許ですか?」
「ああ、車のマニュアル免許だ」
「いやいや、バードさん車乗ってるじゃないですか!なんのために必要なんですか?」
「俺、は持ってる。これは自分の為じゃないんだ」
「というと?」
「アシュリーが車乗りたいって言うからだ」
「アシュリーさんがやればいいと思うんですが…」
と苦し紛れにフリットが正論を言う。
話は変わって、面接を通してこの会社にはいろんな人が入った。その中でも主要のメンバーを紹介する。
「ネオン・サイソン」複雑な家庭で生まれた一人娘。色んな知識を持っている。
「シルビア・ファンド」明るく、話術が達者な元サーカスの女ピエロ。
「マルク・アルバニア」物静かだが、無難に仕事をこなす、プログラミングの達人。
「ジェスパー・アストン」ラガルトの息子、決して息子だから選んだ訳ではなく、屈強な体を持ち合わせていたので、体張り役として採用した。
「ニコ・クェイザー」電車の運転手とで副業をしているという異例のケースを持った女性。並大抵の電車なら運転できる。
「ケント・オカハラ」極東の国から漂流してきた旅人。対魔物術を会得している。
他にも面接を通じて多くの人材を確保した。
初日、社員全員が会社に入った時に、ようやく埋まってる感覚が芽生えるぐらい広いオフィスで、皆が初仕事を始めた。
「皆、今日から仕事を始める。この会社はお金を貸して、返す時に利息をつけて儲けを得るいわゆる街金だということを再度確認してほしい。お金が関わることだし、こんな場所だから自分たちの生命にも危機をもたらす可能性が十分にある。そこで今から君たちには護身用の武器を渡す。フリットからこっちに来い」とバードが言うと、フリットはバードから一つのピストルを受け取った。
「バードさん、これは?」
「S&W M60-10という銃だ。大層な銃じゃないが使いやすい」
「ありがとうございます」とフリットがピストルを受け取った。
「次、ガーベラ!」
「はい」と返事をすると、ガーベラはバードから短剣を受け取った
「これはアサシンタガーという短剣だ。相手の急所に当たれば必ず殺せるという剣だ」
「すげー剣ですねこれ、大切に使います!」と威勢よく返事をしたガーベラ。
「次はネオン!」
「はい」とネオンが静かに返事をするとバードから杖をもらった。
「賢者の杖。昔アシュリーが買った一点物だが、結局一回も使ってない新品だ。放出魔力は絶大だろう」
「魔力…扱ったことのない分野なので興味が湧きます。ありがとうございます」と言った。
他にもジェスパーには大楯、ケントには極東の国で作られた神刀を渡した。
「今渡したものは、あくまでも命を守る最低限の装備だ。もっと強くなりたいなら自分に合ったそれ相応の装備を、自分で選んで自分で買え。こんなところで生き延びるには、護身しなきゃ死ぬぞ」とバードは言う。それもそのはず、セルコート民主主義共和国のエリアごとに統括している人が違う。特にジガドタウン周辺は土地争いが激しい。その戦いに台頭しているのが今の「世界四大権力者」たちである。
・「非感情のヘルタイン」こと、バード・ヘルタイン
・「蹴落としのイグニー」こと、クラッピ・イグニー
・「欺きのヴァーナント」こと、レダモーマ・ヴァーナント
・「強欲のオーバン」こと、ダイアン・オーバン
である。バード以外はそれぞれ大きな会社を設立しており、その中でもダイアンの経営する「石黒社」は述べ二千人もの社員を抱えている。しかし、バード自身はその争いには興味はなく、勝手に候補に入れられているだけという。
「最近、やけにイグニーの動きが怪しい。ここの一帯を仕切っていると自称しているからか、よくこっちに使者を送っているという情報も自分の耳に入ってきている。うちの会社の業務としては『金の貸し出し』、『貸出金の徴収』、そして『ウェリンストン通りの改正』だ。これらの業務をできるだけ安全を確保しながら進めていくためにも、こいつの討伐は視野に入れていかなければならない」とバードが言った。するとバードはマルクがパソコンで何かしているのを見つけた。
「マルク、何をしているんだ?」
「すみませんバードさん、ですが一ついいですか?」
「なんだ?」
「そのイグニーなんですが、私が相手側のPCセキュリティに潜り込んで情報を引き抜いてみました」
「もう仕事したのか、早くて助かる。それで?」
「彼女の経営する会社は、彼女の思い通りにならなければ会社一掃という形で、いらない社員を追い出していくらしいです。気に入られている人はどんどん昇格するらしいですが、階級の低いものは彼女への忠誠心が低いものたちと考えれます。さらに、彼らは特殊な訓練を受けて入社しているので、かなりの強者です」
「なるほど…」
「つまり、その階級が低い社員を自分たちサイドに引き連れれば、かなりの戦力を持てるということか」とガーベラが言う
「ええ、そういう考えです」とマルクが言った。
「わかった。その人たちも今後考えよう」とバードが言った。その後も会話は続く…
〜ジガドタウン外れのビル屋敷〜
ここは「斡旋舎」の管理するビル。この奥に一般のものが踏み入れると死ぬことから、通称「デッド・ライン」とも呼ばれている。斡旋舎は、表向きには大学卒業者の就活をサポートしたり、派遣社員を必要としている会社に派遣社員を送る仲介業者として大企業に君臨している。しかし、あくまでそれは表の顔の話であって、実際は裏社会一有名な奴隷商「アンダーピック」の大元である。それら全体を取り仕切っているのが、斡旋舎・総合指揮官である「クラッピ・イグニー」だ。彼女は20歳で斡旋舎を設立、持ち前の頭脳と知識で業績をぐんぐん伸ばし、2年前「全世界情報公開誌(以後AWIP)」にて「今後世界に最も大きな影響を与える人」として「世界四大権力者」に選考された。そんな彼女は今、不吉な笑みを浮かべて窓の外で荒れる雨を眺めていた。「この世は私のために作られたんじゃ…私の創造する世界で皆は生きているの。私にだけスポットが当たればよいのよ!」と叫んだ。このようにクラッピは少しイタいところがある。そのクラッピの部屋にノックが響いた。
「名は?」とクラッピが聞く。
「チェンです」と帰ってくる。
「お前か、入れ」と1人の男を部屋に入れる。
「要件はなんだ?サラマンド」とクラッピが聞く。
「先程、我々のビルに不審な影が見えました。この会社のものではないと伺えます。一応何人か社員を派遣させていますが、報告もしておこうと思った次第です」とサラマンドという名の男が説明した。
「なるほどな。それでお前の予測では今どこにいる?」
「それなんですが…」
「?」
「もうこの部屋の前まで来ています」
「!?」とクラッピが驚いた瞬間、ドアが激しく音を立てて壊れた。
「なんだ!?サラマンド!戦闘体制!」
「了解です!」とサラマンドが結界を張り、クラッピが双剣を構えた。扉の奥には1人の人影が見える。
「誰だ!」とクラッピが聞く。
「すみませんね、驚かして。ちょっとお話がしたくてですね。大丈夫ですよ、部下には傷一つも与えてませんから」と話す。
「お、お前…!要件はなんだ!」
「神は言っているのです…歳の差において、自分の上に君みたいなメスガキがいるのは良くないと。」
「なんだと…!そんなことはどうでもいい!目的はなんだ!」とクラッピが力強く言う。するとその影は次第に明確になっていき、部屋の真ん中で止まって、
「そうですね…目的…強いて言うのであるならば」
「…」
「クラッピ・イグニー、あなたと手を組み、旧最強伝説の名を持つバードを殺しに行きましょう。レダモーマ・ヴァーナントと共に」とその男は答えた。