第三章 消したい過去
洗面台でフリットがラガルトに髪を洗われている時、フリットは一つの疑問が浮かび上がったので、聞いてみることにした。
「ラガルトさん、ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「はい、なんでしょう?」
「バードさんって、僕とかラガルトさん以外にも人を助けたりしているんですか?」
そうフリットが話すと、ラガルトはちょっと黙り込んだあと、こんな返事をした。
「うーん…実のところあんまりわかんないんだよね。ほら、バードさんって結構謎な部分多いでしょ?これはあんまり人に話すなって本人から言われているんだけど、実はバードさんって、アシュリーちゃんよりも、ものすごくきつい過去を持っているんだって。アシュリーちゃんがすごい過去を持っているのは知ってる?」
「まぁ、一応聞きました。(※第二章のはじめ、アシュリーがご飯作るのが面倒くさくなったのはそれをフリットに話していたから)」
「話すと長くなるからなぁ...あ、そうだ。このこと身だしなみ整えた後バードさんを除いてカフェで話してもいい?」
「あ、はい。是非」とフリットが返事をしたところで、
「オッケー!じゃあ散髪するからちょっと移動してもらえる?」とラガルトに言われた。
「了解です」と返事をしてフリットはラガルトの後ろをついていった。
〜約1時間後〜
途中でアシュリーも合流し、2人が待っていると、店の奥から彼らが知らない人物が出てきた。その隣にラガルトがいたので、誰かはすぐにわかったが。
「んー綺麗になりましたよ、バードさん!」
「もはや別人だな、フリット」
「はい!久しぶりに綺麗になったので気分がいいです!」
「綺麗ね〜、本当にかっこいいじゃない!」と各々が喋っていた。するとアシュリーが
「あれ?フリくん髪色変わった?」と聞くとすかさず
「あ、アシュリーさん気付きました?そうなんです!私の感性で、あまり目立つ色じゃないんですけど、髪の先っぽにかけてバードさんの髪色を意識したビビットな赤色を黒を基調にグラデーションしたんです!」とラガルトが説明した。
「うん、いい出来だ。ところでラガルト、お前いい仕立て屋知ってるか?」
「はい、もちろん。ここをこう…」とラガルトとバードが話しているときにアシュリーがラガルトに
「バードはうちが時間潰させるから、その間にラガルトさんと話しておくといいよ」とコソコソと話をした。実はラガルト、色を染めている間にアシュリーに連絡して、フリットと話したいことがあるからバードと一緒に出掛けて欲しい、と連絡していたのだ。それを知ったフリットはアシュリーに感謝した。
その後、ラガルトの知り合いの仕立て屋に行き、新しいスーツを新調してもらった。黒の下地に薄くて細い白のストライプが入ったスーツで、
「本当にありがとうございます!このスーツ一生汚しません!」
とフリットが喜んだ。するとアシュリーが
「ねぇバード、このあと2人でどこかご飯でも食べに行かない?久しぶりにどこか2人で食べたいなって思って」と誘うと
「え?フリットは?」とアシュリーが思っていた返事が返された。そこでアシュリーは咄嗟に嘘をついた。
「なんかラガルトくんが、美味しい店をフリットくんにどうしても食べさせたいって言ってきたの。なんか珍しくない?」
「確かにな。あいつ人付き合いそんなに上手じゃないから、自分から行くようなタイプじゃないんだがな…まぁ、成長したのか?」とバードが謎の解釈をしたので、なんとか信じてもらえた。その後、バードとアシュリーは少し郊外のレストランへ、ラガルトとフリットはカフェに入った。
〜〜〜
「ごめんねこんなところまで来させて」
「いやいや良いんです。それよりバードさんの側近としてちゃんとバードさんのことをもっと知っておかないとって」
「うん…」とラガルトは少し苦めのカフェオレを口に運んで、その重い口を開けた。
「あのねフリットくん、僕が言ったって言わないで聞いてくれるなら話すんだけど、そのこと約束してくれる?」
「はい。もちろん」
「わかった。なら少し長くなるけど良い?」
「何時間でも」
「ありがとうね。じゃあ話すよ?んん、」と声を整えてラガルトが喋り始めた。
ーー
ーーー
ーーーー
バードさんは昔、ある国の田舎で生まれて、そこで育ったんだって。でも、両親に生まれた直後「育児が私たちにはできない」って言われて、あるおばさんのところに預けられて育ったんだ。もちろん名前もついてないから、そのおばさんに名前をつけてもらったらしいんだけど、その名前は本人すらも覚えていないらしいの。そうやっておばさんに育てられてとても不自由なく生活できていたらしいんだ。5年が経ったある日のこと、「ヒロ」っていう友達ができて、その子と一緒に毎日遊んで過ごした。今はどこかで飲食業を営んでるらしいんだけどね。その子と遊んでいる時のバードさんはとても幸せそうだったって周りの人は言ってるんだ。そんな幸せな時間が永遠に過ぎれば良いなって本人はもちろん、みんなも思っていた。だけど人生はそう上手く行かないんだよ。まるで神様が悪戯するようにね。
そこからまたさらに5年が経ったある日、おばさんが急死するんだ、末期がんで。その事はバードさんはもちろん、周りの他の人も知らなかったらしくて、バードさんはひどく悲しみ、ひどく社会を恨んだ。こんな治せる可能性がある病気を政府はただの「難病」って言ってその病気の存在をもみ消した。そこからバードさんはその政府を打倒するために生まれ故郷を10歳で旅立ち、実の親を探すと共に自分の居場所を作ろうとした。時には警察に「夜中に少年が歩いている」と通報されることもあったけど、ことごとくその手から逃げた。自分の居場所は絶対に少年院ではなかったからって。バードさんが居場所を探していると、廃れている通りを見つけて、そこに定住するようになった。それが今も有名な通り「ウェリンストン通り」なんだ。ならば新しい名前が必要だと思い、自分の記憶のすみにあった自分の本名からとって「バード・ヘルタイン」と名乗った。そこでバードさんは「この社会で生きていくためには、もっと強くならなければならない」と考えるようになって、通りにやってくるチンピラやヤクザ、マフィアを次々に倒してった。その一部に、元々マフィアの使われ役だった僕もいて、僕はそこから助けてもらったの。僕が話せるのはここまで。
その話を聞いたフリットは
「なるほど…あまりバードさんのことを理解していませんでしたけど、バードさんが強い理由ってそんなところにあったんですね」と返した。
「うん。でもバードさんが強さを求めて行くほどに『感情を持つと効率が下がる』って言って、バードさんは感情を殺し、結果的にあまり感情を表に出さなくなっちゃったんだよね」
「そうですか…すいません、貴重なお話聞かせてもらって」
「いやいやとんでもない。重い話をしたから話題を変えようか。ところでフリットくん...一ついいかい?」と目つきを変えてラガルトが言った。
「はい、なんでしょう?」
「君、女の子には興味ある?」
「え?きゅ、急に何言ってるんですか?」
「いや違うんだよ。前僕のところに髪を切りに来た女の人なんだけどさ、彼氏が欲しいって言ってて」
「はあ、でもなんで僕と関係が?」
「その子のタイプが、フリットくんみたいな人だったの!」とラガルトが少々興奮気味にフリットに話した。
「へえ〜、でも自分がタイプじゃなかったらな〜意味ないですしね」
「えーと確かその子はね、見た目はロングの青い髪で」
「…」
「コバルトブルーの目の色をしててね」
「…はっはーん」
「大人な雰囲気の香る女性だったね」
「今のところタイプ度60%ですね」
「性格は見た目にそぐわないぐらい明るくて」
「75%」
「好きなことは射的」
「85%」
「タイプは敬意のある人だって」
「………」とフリットが急に黙り込んだ。
「ど、どうしたのフリットくん?」とラガルトが心配すると、フリットはゆっくりラガルトに視線をむけ
「ラガルトさん、その子と合わせてください」と言った。
「ブフッ、気変わるの早っw」と少々笑ってしまったが、ラガルトはその子とフリットが会うように手配をしてくれた。
〜〜〜
ちょっとした長話が終わり、会計を済ませようとしたその時、入り口の方からドアの荒く開けられる音がした。その音の後に、1人の男が入ってきて急に叫び出した。
「いいかお前等ぁ!今日からここの店は俺のもんだ!厚く出迎えてくれよ!」
他の店員はその場で怖気付いてしまい、その場から動けなくなってしまった。しかしその様子を見ていた正義感が強すぎる男が1人、言わなくてもわかるだろう。
「ちょっと止めに行ってきます」とフリットが言うと
「やめときなって!怪我したらマズイから!」とラガルトが宥めた。しかし、その言葉は今の彼には届かない。ラガルトの言葉を無視して、フリットはその男の前に走って行った。
「ほらほら、こんなしょぼくれた店をパーっと景気よくするだけやぞ〜、何びくびくしてんだ?」と男が煽り散らかすところにフリットが入り込んだ。
「店の迷惑になりますから、お静かにするかお帰りください」
「あ?なんだこいつ、一丁前にスーツ着やがって。店員か?お前。誰に喧嘩売ってると思ってる?」と挑発するが
「喧嘩をしたいならウェリンストン通りで飽きるまで喧嘩をしてきてください」とフリットは冷静に返す。だが、そのせいで相手のボルテージをどんどん上げてしまう。
「おう、お前度胸あんな。お?その綺麗な髪の毛ボロボロになっても知らねえよ?」とフリットの髪の毛を触って煽るが、
「別に髪のことを褒めてもらっても困ります」とスッと手を払って返す。
「チッ、あーー!もういいわかった!表で決着だ!出ろ!」
「お前に命令される筋合いはない。から出ない」
「っっ!この野郎…!その口今すぐに閉じろー!」と男が襲いかかってきた。しかしフリットにとってその攻撃はバードの技よりも断然に遅くて弱いとわかった。
「遅い。そしてうるさい」と一言フリットがそういうと、男の目の前からフリットが消えた。すると男の視線はあっという間にひっくり返った。
「ぶぇあ!」と鈍い声を男が出した。そのひっくり返った男をフリットは欠かさず押さえつける。
「だから喧嘩したいならウェリンストン通りでしろって言っただろ?」
すると男がこう言った
「お、お前……この俺を攻撃したらどうなってるかわかってるのか?」
フリットは
「なんだ、どうなるんだ?」と返す。
「俺のトップが黙っちゃいないぞ?なんせ俺のトップはあのウェリンストン通りで最強と呼ばれている、バー…」
「ド・ヘルタインのことか?」と新たに扉から入ってきた人物が言う。バードだ。
「フリット、お前強いじゃないか。なかなか身長差があるやつだぞ?よう沈めれたな」
「バードさん!なんでここにいるとわかったんですか?」
「なんか自分の第六感が働いてな。ここってわかった」
「凄すぎますよ…」と会話をしていたら、男がわなわなと震え始めた。
「ほ、本物のバード…「生きる伝説」と言われてる男…そして、それと対等に話せているコイツ…何者だ…?」
「おいフリット、その手を離してやってくれ」と言い、バードが一歩踏み出して
「随分と派手に暴れてくれたね。しかも俺の名前使って相手をすごませようとする、君、なかなかの自己中だな」と言った。
「…殺すなら殺してくれ!何を求める!」
「うーん…そうだな…なあお前、新しい事業に興味はないか?」
「は?新しい事業?」
「そうだ。今ちょうどね、その事業を手伝ってくれる人を探していて。君みたいな人を探していたんだよ。クズで自己中で、ただの戦闘狂」
「な…俺を馬鹿にしたいのか!?」
「でもそんな奴にも、微かな善の心ってもんがある。お前にはその心が見えた」
「...!」
「だからお前を誘った。別に乗るも乗らないも自由だ、選択は…」とバードが言いかけた途端
「その事業、ついて行かせてください!」とバードの前で男は跪き叫んだ。
「ふむ…『負けた相手にはとことん忠誠を誓うタイプ』か…良い奴だな。」と言った。しかしフリットは内心、
(いや良いやつではないでしょ…だってさっき訳もなくコイツ俺のこと襲ってきたんだぞ?非常識にも程がありすぎる…)と思ったが"敢えて"そのことは言わなかった。
「名前は?」とバードが聞くと
「ガーベラです。『ガーベラ・ソロモン』という名前です。ただのしがないチンピラですが」
「ガーベラ…聞いたことあるな。確か、ウェリンストン通りで30人以上のメンバーを束ねている総団長だとか」とバードが言うと、ガーベラの表情は一変。
「あっ…スゥーーえぇ〜っと…」と、茶を濁し始めた。
「なんだ?団員がストライキでもしたのか?」とバードが言うと、ガーベラは渋々と白状した。
「あのぅ…団員がいるってのは嘘で…本当は…一匹狼なんです…」
「はぁ。そうなのか。」
「はい…自分、1人になることが怖くて、建前で多くの仲間やバックがいるって言ってきたんですけど、本音は言えずじまいでして…期待に応えられるような結果を出せるかどうかわかりませんが、それでも自分のことを拾ってくれますか?」
とガーベラが言うが、バードにはそんなことどうだって良いのだ。
「別にいいぞ。だか、もうちょっと人員を確保したいから、次の人員確保のために一緒に働いてくれるか?報酬として…そうだ、今度新しいオフィスを買おうと思っていたから、そこの一部の一室丸々お前にやる。その部屋はお前の好きなようにしてもいい。これでどうだ?」とバードが言った。
「そ、そんな好条件でいいんですか?」
「え?これってそんな好条件なのか?自分、物の等価交換の裁量がよくわかんないからさ。まあでも…」
「?」
「お前みたいなすげぇ団員確保することも簡単じゃねえんだよこのバーカ」とガーベラの顔を指で上げて言った。ガーベラは「⁉︎///」と驚き、男ながら惚れてしまった。
「じゃあそうとなったら行くぞ。遅れんなよ」
「「はい!」」とフリットとガーベラが力強い返事を返した。
超絶お久しぶりです。作者の牡蠣原です。と言うことで第3話:消したい過去 なんですが、ここでね、軽くバードの過去が見せれたんじゃないかと思います。話は打って変わって、昨今は値上がりが酷いですね。何事においても円安やら不景気やらで値段が跳ね上がっている。自分の好きなフィギュアたちもだんだん値段が高騰して、欲しいフィギュアもなかなか手が出せません。財布もすっからかんですしね、はい。でも食費は抜いたらダメだと自分の中で定義付けているんですが、その変なプライドが結局邪魔して、結局財布からチリしか出なくなりました。こっからどうなるのか、民主主義を保とうとしている日本の踏ん張りはいつまで耐えれるのか、俺はいつまで生きられるのか、見ものですね。あんまり長く書いてもしっかりと読まれそうにないのでここら辺にしときます。それではお疲れ様でした。