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第八話

 度々親父は由紀子に対しての暴力を良哉に命じた。由紀子を打つあの感覚――おれはもう味わいたくない。拒否した。殴られた。拒否した。より激しく殴られる。屈する。由紀子を殴る。

 また別の日。

 親父の命令。拒否する。殴られる。従う。由紀子を殴る。

 また別の日。

 親父の命令。由紀子を殴る。

 暴力の味を覚えさせられた。それが一カ月続くと、良哉の身体はいかに暴力を回避するかを本能で考えるようになっていた。恐怖に彩られていた。妹がなぶられる、なぶる――よりも自分を守る方に傾いた時、おれは本格的に壊れだした。

 このままだとおれは由紀子を殺してしまう――緊張と痛みに震える腕で良哉は由紀子を抱きかかえ、児童相談所へ駆け込んだ。児童相談所は由紀子を預かった。夕方になると親父が駆け込んできた。児童相談所の職員は良哉と由紀子の身体の傷や痣のことを問い詰めた。

 ――おれの子供だぞ! 部外者が他人の家庭に口を出すな!

 親父は凄んだ。職員達は勢いを失い、何も言わなくなった。その日のうちに、おれと由紀子は自宅に戻された。

 親父の怒りは酷かった。良哉はベルトで殴られた。金具の出っ張りが鋭利に傷をつける。背中には無数の裂傷が走った。腕を曲げるたびに傷がじくじくと痛んだ。

 由紀子はおれの後に殴られた。親父の拳が由紀子を打ちのめした。由紀子の全身に痣ができた。由紀子はもはや泣くこともしなかった。渾身の一撃――振りかぶって勢いをつけた親父の拳が由紀子の顎に当たった。由紀子が大量の血を吐いた。

 ――まずい、血を洗え。

 親父は由紀子を裸にして冷水を浴びせかけた。冷たい風呂場で、由紀子は一人放置された。その日のうちに由紀子は目に見えて衰弱していった。唇を青紫色にして、縮こまり震えていた。

 焦燥感――良哉の身体は傷だらけで動かなかった。おれは由紀子を全身で包むこともしなかった。

 翌日。

 由紀子は縮こまり、冷たくなっていた。死んでいた。ただでさえ小さかった身体がさらに縮んでいるように思えた。

 おれと親父は由紀子の死体を前にただ呆然としていた。

 三日後、おれたちは捕まった。実刑判決。良哉五年。親父十七年。



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