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婚約破棄されるはずの悪役令嬢は王子の溺愛から逃げられない  作者: 辻田煙
第2章「未来はなにも分からない」

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第32話「モテ期、到来?」

 迷宮のモンスタービーストは無事止まった。というより、止まらせた。ほとんどニアのごり押しでどうにかなった形だ。


 モンスターがうじゃうじゃしている迷宮内を足で踏み付けながら階層を下りていき、穴が開いている場所に到着。


 すぐ側には疲労した様子のサディア達がおり、救出したが――みな誰がこの事態を引き起こしたのか察した様子だった。だが、誰も咎めなかった。


 それどころではないのはあったが。モンスターで溢れている中で、救出者を抱えながら、穴を埋める作業。


 作業中、モンスター達が邪魔してくるので、それを討伐しながら、だ。しかも、サディア達は長時間の疲労で使い物にならず――


 結果的にニアが近くの木をなぎ倒し、ラルフ先輩が継ぎ接ぎし、全員で細部を埋めた。不思議なもので、作業完了――穴が完全に埋まると、モンスターは通常通りになっていった。


 それまでは、なにかに当てられているように凶暴的だったのに。


 迷宮内にそういう風にさせる仕掛けがあるのかもしれない。だが、それを確かめている余力はなかった。ほうぼうの体で迷宮を駆け上がり、やっとの思いで脱出できたのだ。


 サディアは終始気まずそうだった。何を思ってこんなことをしたのか分からないが――やっぱり、もう一度話す機会が欲しいな、とミラは思った。



「ミラお姉様。私達とお茶会しませんか? 迷宮試験のことを是非ともお聞きしたのですが……」


 学園内の廊下。気温はやや暑くなり始めている。


 話しかけてきたのは、後輩三人組だ。あまり話したことはない――はず。多分。ここのところ、こういうのが多いせいで、いまいちあやふやなところがある。


「いいよ、いつに――」


「ミラ、なんの話をしてるのかな」


 返答しようとしたミラに、横合いから遮られる。いつの間にいたのか、ニアだ。


 迷宮試験とそのゴタゴタが終わって、一週間。ミラの周りでは妙な変化が起きていた。


 一言で言えば、人気が出ていた。


 どうやら、迷宮試験でモンスタービーストをジャン王子含め五人で止めたのが噂になっているらしい。


 教師には勝手に何をしているのだと、叱られたのだが。まあ、それでも結果は大事だと、きっちり試験はいい成績をくれたのが、この学園らしい。


 ともかく、この噂が要因で男女問わず――どちらかと言うと女子が多い――やたらと迷宮試験の話を訊かれるのだ。正確には、話を聞くお茶会に誘われる。年代に関わらずだが、特に下級生が多い。


 なんだか、ニアの気持ちが分かった気がした。


 下級生からお姉様と慕われるのは気恥ずかしいが、悪い気はしないし、話すのは楽しいので、ミラとしては特に気にしていなかった。


 ただ、その変化をよく思わないのが二人いた。


「ニア。お茶会に誘われていただけだよ」


「ふーん、そう。ねえ、あなた達、私が参加しても問題ないわよね」


「は、はい。ぜひ一緒にお願いします。ニアお姉様のお話しも聞けると嬉しいです」


「そうよね。じゃあ、あとで手紙でもなんでもいいから日時を私に教えてくれる? ミラと一緒に行くから」


「はい」


 後輩三人組が押されている。さすがに可哀想なので、ミラは間に入った。


「ニア、怯えてるって。ごめんね、お茶会にはちゃんと行くから。あとで日時と場所お願い」


「ありがとうございます。楽しみにしてますわ、ミラお姉様」


 三人組の一人がお礼を言うと、授業があるらしく彼女達は去って行った。


「はぁー。ニア、あれじゃ怖がっちゃうよ。手慣れているくせに変な事しちゃ駄目だって」


「いいんですー。ミラは隙だらけなんだから、気を付けないと」


「隙だらけって……。相手は女の子だよ」


「関係ないもん」


 ぷいっと顔を背けるニア。これのどこが「男装の麗人」なのだろう。自分の前でも見せて欲しい。まあ、気を許しているということなのだろうけど――最近は、いささか暴走気味だ。


「そのお茶会、俺も行っていいか」


「ジャンまで……。いつから居たの?」


「ミラが話しかけられているのを見かけてからだな。あの娘達が委縮しちゃうだろ?」


「最初からじゃない。ジェイ、ちゃんと首輪つけてよ」


「つけているから、話しに割り入らなかったんだよ。そのうちにニアが入っちゃったんだけどな」


「だって、悪い虫がつかないか心配じゃない」


「ニアに同意だ。ミラは優しすぎるからな」


「こういう時ばっかり息を合わせて……」


 普段、喧嘩ばかりしているのに、ここの意見は合うらしい。まったく、調子がいい。


「じゃあ、お茶会には全員で行くってことでいいの?」


「おい、俺は行くとは言っていないぞ」


「お茶会には女子だけとは限らないよ、ジェイ」


「……どういう意味だよ」


「さぁねー」


「行けばいいんだろ、行けば」


「うんっ、……ところで、ジャン?」


 ジェイとやり取りしていると、ニアだけが不思議な顔をしていた。それを見て、ジャン王子は呆れた顔をしている。そろそろ、この曖昧な感じに嫌気が差し始めているのかもしれにない。男の子同士は知らないけど、ミラから見ても、もどかしさはあるのだから。


「ジャンだって、いーっぱい誘われてるよね。私のには入ってくるくせに、自分のには私は呼ばないの?」


「いや、それは……。今度から呼びます、はい……」


「うんうん、ちゃんと教えてね」


 そうでなければ困る。ジャン王子に変な虫がつかないのか不安なのだ。それに、毎回毎回ニアが割り入ってくるせいで、変な噂が立ち始めている。あいにくと、ニアとどうこうなるつもりはないのに。


 ジャン王子の婚約者だと強調すれば多少は減ってくれるはずだ。


 結局、全員で行くことになり、後輩を驚かせたりしたわけだが――むしろ喜んでいたような気がする――そこで、気になる噂を聞くことになった。


 迷宮試験の途中でモンスタービーストになったこと、ジャン王子含め五人でどうにかしたことだけが伝わっていると思っていた。だが、それ以外に嫌な噂も流れていた。


 自分達のことではない。そもそもモンスタービーストがダンジョンの床に穴を空けることで発生する現象であることは、学園の生徒なら誰でも知っている。噂は、それが誰なのか、ということだった。


 あの場にいた受験生――実力から見て、サディアが下馬評で一番を目しているようだ。


 サディアとは最近話せていない。彼女の方が避けるのでどうしようもないのだ。以前みたいに強引に話すのもいいかもしれないと思いもしたが、今の状況でそういうことするのは余計な詮索を生みかねなかった。


 一応、後輩にはあまりそういうこと言っちゃ駄目だと釘は刺したが――どこまで効果があるのか怪しい。それに名前が挙がっているというだけで、名指しではなかった。


 表面上は普通だが、それとなく流れている不信感。サディア達にしてみれば、いい気はしないだろう。


 結局、ミラはサディア達と話すことは出来なかった。

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