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婚約破棄されるはずの悪役令嬢は王子の溺愛から逃げられない  作者: 辻田煙
第2章「未来はなにも分からない」

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第23話「一階層」

 迷宮内は、洞窟というよりも鍾乳洞に近かった。全体的に薄暗く、じめっとしている。ただ、空間自体はかなり広い。横幅は十数人が横並びできる広さなので、そこを何人もの試験者の生徒達が走っていく。


 全員無言で、走る足音と息遣いだけが聞こえてくる。


 迷宮に入るのは、この試験者全員が初めてだ。ここに慣れているやつは一人もいない。なにしろ、普段は封鎖されて誰も入れないのだから。授業でも使用されることはない。


 さすがに上級生の授業では分からないが、少なくともニアからそんな話を聞いてはいない。迷宮を使用すれば、喜んで話してきそうなので、本当に無いのだろう。


 まあ、迷宮自体は学園だけにあるわけではないから、他で潜るのに慣れている者はいるかもしれない。


 ただ、その構造や性質はみな授業で学んでいる。だから受験者の目的は全員一緒だった。それが、やたらと先に急いでる理由でもある。


 迷宮は基本的に地下に潜っていく構造だ。


 地下一階層、二階層、三階層、どんどん深くなって、最下層が存在する。ただし、学園の迷宮がどこまで存在するかは知らされていない。


 確かなのは主がいることだ。守護神とも呼べる、階層主。侵入者を次の階層に行くのを妨害する、モンスター。一体であることもあれば、複数体の場合もある。


 ここで重要なのは、その階層主から得られる報酬はかなり高額になり、質がいいということだった。雑魚を百匹狩るよりもかなりいい。


 そして、主を倒してしまうと、しばらくは出てこない。時間は決まっていることが多いが――今、この試験の瞬間に確かめている時間はない。


 試験終了までに湧いてこない、なんて可能性もある。


 すなわち、先着必勝。早く階層主に辿り着き、倒し、報酬を得る。それが一番確実に好成績を残せる。深く潜り過ぎれば戻ってくる時間がない以上、浅い階層の主を積極的に狩るのが望ましい。


 マップが誰も分からない以上、ひたすら早く走って、手当たり次第に奥に進んでいくしかない。


 ゆえに、手分けして進んでいく組がほとんどだ。通信系の魔法は別に禁止されていないので、その方が効率はいい。


 ただ、ミラ達のパーティーは違った。三人一組で固まって動いている。大型のモンスターが来た時に一人で対処できるかは怪しい、ということにされた。というか、ジャン王子とジェイが絶対に一人になることを許してくれなかった。


 嬉しいような、弱く見られて複雑なような。


 別に竜巫女の力があるんだから、どうとでもなるんだけどなー。二人も知っているはずなのに。しかし、彼らは頑として譲らなかった。特にジャン王子が。


「次、どっちっ?」


「右っ」


 今までは一本道だったのが、左右に分かれている。今の所はモンスターの襲撃もない。


 指示役のジャン王子に従い、右に進む。


 基本的には、ジャン王子の指示通りに進むことになっている。ジェイはモンスターの警戒を、ミラは――人間の警戒をすることになっている。


 なにもないといいんだけどなー。


 少しだけ後ろを振り返れば、自分達と同じように走っている、受験生達。中には、サディア、ニール、ニコラの三人も含まれている。こちらに気付いているのかいないのか、険しい目つきで前方を睨んでいた。


 ミラは視線を前に戻した。


 バタバタと足音が響く中、受験生は左右に分かれ奥に進んでいく。そうやって何度も分かれ道を進んでいく。当然、モンスターにも遭遇するが雑魚ばかりなので問題はなかった。通り一閃、前を行くものが取りこぼしたものを、バタバタとなぎ倒す。面倒な相手は避けて、先に進むことを優先する。生徒達が通った後にはモンスターの残骸が出来上がっているだろう。


 先を進んでいく中、同じ道を選ぶものはいなくなり、三人だけになった。後方から足音はするため、誰かは一緒らしい。


 だが、いつまでも進めるわけではなかった。


「くそっ、行き止まりだっ」


「戻ろう」


「ああ」


 調子よかったんだけどな。何回か分かれている道を選択して、行き止まりには一回も当たらなかったが、ついに引いてしまった。


 天井は高く、暗くて見えない。奥の方はかろうじて見えた。


 温泉が湧いているのか、ミラ達の目の前には湯気の立っている透明度の高いお湯が溜まっていた。底の方が何かで光っているのか淡く空間を照らしている。


 狭い空間ではないが、見回しても先の道はない。鍾乳洞の柱からポタポタと温泉に水を垂らしている。中には柱になっているものもあった。


 全体的に蒼く、魅入られる光景だった。ここまで走ってきて汗ばんだ身体を流したい衝動に駆られる。


 普段ならゆっくり湯に浸かって観光でもしたいが、今はそれどころではない。


 ジャン王子の言う通り、一旦引き返して、別の道に行かなければ。


 後ろを振り返ると、周りに他の組はいなかった。分かれ道は暗くなっていて見えない。鍾乳洞の白い床と壁が寒々しかった。


 さっきまでは、足音がしていたような気がするが、いつの間にか別れたのだろう。ミラ達だけがここを選んでいた。早くしないと先を越されてしまう。


 元来た道を引き返そうと、三人が走り出した時だった。てっきり、暗いから見えないものだと思っていた一本道の先――何かで埋まっていた。


 近付いて行くほどによく見える。ミラは思わず止まった。ジャン王子とジェイも足を止める。


 白い鍾乳洞に反するような黒い鱗。黄金色の瞳がミラ達を睨む。蛇だ。それも、道の先をほとんど埋めるような大きさ。その周りをサイズダウンした通常の大きさの蛇がうじゃうじゃとひしめき合う。


 そのすべてがこちらへ向かっている。

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作者が泣いて喜びます。


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