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婚約破棄されるはずの悪役令嬢は王子の溺愛から逃げられない  作者: 辻田煙
第2章「未来はなにも分からない」

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第20話「ドリルちゃん」

 事件は起きなかった。


 結果的には、だが。いつしか王立学園に入学してから一年が経っていた。婚約破棄に関する懸念はないのだが――別の問題が発生していた。


 ミラは、授業中の階段教室の片隅で溜息を吐いた。朗々と話す眠くなりそうな教師の声を聞きながら、考えに耽ってしまう。授業に関することではない。


 上空からぽとっと何かが落ちてきて、ミラはそれに触れる。ハート型に折り畳まれた、白い紙。裏面を見ると開けられる様になっている。


 またか、とミラは思った。どうせと思い教室中央の方を向くと、くすくすと笑っている三人組がいる。


 楽しそうなことで。ミラは呆れながらもその紙を開いた。


 教室では前方の壇上で教師が背を向いてボードに書いた内容をまだ解説している。


 紙があっさりと開いた次の瞬間――ぼんっと小さいピンク色の煙がもくもくと上がった。流れるかに思えたそれが、文字を成す。


『今すぐ、ジャン王子と離れろっ! クソビッチっ!』


 中学生でも、もう少しまともな文面を思いつくんじゃないだろうか。ある種の攻撃性を持った不快なだけの文章。


「えっ……」


 声がした方を向くと、たまたま隣になった生徒が煙に驚いていた。初めて見たのかも知れない。席は自由だから、そういうこともある。


「ごめんね」


「あっ、はい」


 隣の席の子は、慌てて壇上に視線を戻していた。


 まったくなんで自分が謝らなければならないのか。理不尽を感じつつ、魔法で風を起こして、煙を雲散させる。これくらいなら、自分でもできる。


 つまらない、いじめだ。起こり始めたのは、去年の秋ぐらいから。それまでは親しい友人もいたのだが、これのせいで彼らが離れていってしまった。


 当然、思い当たる節はないミラは困惑した。そのことをジャン王子やジェイにも相談した。だが、それが事態を悪化させてしまった。


 彼らに相談したことが気に食わなかったのだろう。それとも男を侍らせているように見えたのか。今となっては分からない。元々の火種もその辺にあるのかもしれない。


 ともかく、そこからあることないこと、ミラの噂が立った。


 曰く、ミラ・シェヴァリエは、男を取っ替え引っ替えしているビッチである、と。ジャン王子とジェイはその被害者であり、ミラは悪女だ。首元の黒いチョーカーは醜い火傷の跡を隠すためのものだ。そんな女がジャン王子の婚約者でいいのか?


 おおむねは噂の内容はこういう感じだった。大小合わせたらキリがないが、要はジャン王子の婚約者なのが気に食わない。ジェイと親しいのも腹が立つ。妬み、嫉妬。そんなところだろう。首謀者は三人。今、教室中央でクスクス笑っている三人だ。三人共ミラと同じくらいの爵位であり、離れていった友人達は、彼女らよりも身分が下の者。


 学園では自分の出所をチラつかせるのは禁止だが、別に罰則があるわけではない。生徒達の自主性によって成り立っている。当然はみ出し者が出てもおかしくはない。だから、しょうがないといえば、しょうがない。


 離れて行った子達は悪くない。自分を守ることは大事だ。婚約破棄からの破滅ルートを必死に回避しようと、自分を守ろうとしているのと似たようなものだ。


 ……ゲームで悪役令嬢であるミラとジャン王子が仲が悪かったのは、これのせいではないだろうか。


 一つの仮定だが、今の所一番可能性がありそうだった。


 仮にジャン王子とそれほど仲の深まらない状態で入学し、姉ともそれほど親しくなかったら……。ミラは一人で抱え込み、ジャン王子と離れるのかもしれない。好きなのに。そして、ジャン王子はちょっと、いや大分チョロいところがあるから、それを噂が本当のことだとして信じてしまうかも。純粋なところがあるし……、傷ついて仲が悪くなる、かもしれない。


 そこにゲームの主人公であるハンナ・ロールがやってくれば。……傷心のジャン王子と明るいお姫様か。ジャン王子がころっといかれるのも無理ないかも知れない。


 今の現状が違うことは救いだった。ジャン王子ともジェイとも、そして姉のニアとも関係は良好だ。少しばかり、ジャン王子とジェイからの矢印が大きすぎるが、その分にはいい。困ることは、……多少あるけど嫌ではない。本人達には絶対に言わないけど。


 それにしても、どうしたものか。正直、三人組に関しては扱いに困っている。イジメ返すのは簡単だ。竜巫女の怪力がある。頬の一発でも殴れば、大人しくはなるだろう、表面上は。


 ただ、今度は陰湿さが増しそうだ。なにより揉め事を起こすのが婚約破棄に関して、どう影響を及ぼすのか分かったものではない。


 あとは自衛するか、仲良くなるかしか方法が思いつかないのだが……。


 仲良くなるのは失敗しちゃったんだよなぁ……。もう一度試してみようかな。


 ミラは教師の様子を窺った。自分が考え込んでいる間にも授業は進んでいる。しかし、教師はまだこちらに背を向け解説をしていた。今日の授業は大体知っている内容、というか予習してあるので問題ない。


 それよりも、とミラは自前のノートの一部を切り取って、魔法を掛けた。簡単なものだ。彼女らと同じことをする。中身はまったく違うが。


 こちらをからかうことに飽きたのか、ミラが反応しなかったのが面白くなかったのか、三人は授業を真面目に聴いているようだった。


 ミラはその中でも首謀者の一人――ミラは内心、ドリルちゃんと呼んでいる――マンガの中でしか見たことのなかった、金髪ドリルツインテールの少女の机にハート型の手紙を落とすことにした。


 彼女の頭上まで手紙を浮遊させ、落下させる。気付いているのか気付いていないのか、彼女の周りは無言のままで手紙はぽとっと彼女に届いた。


 ドリルちゃんは手紙に気付くと、周りを見回し、こちらを見た。ミラが手を振ると、苦々し気な表情に変わる。


 そんなに嫌がらなくても。同じことしただけなのに。両隣に座っている取り巻き二人はドリルちゃんの様子に気付くと、すぐにこちらを睨んできた。


 そんな中、ドリルちゃんが手紙を開く。ミラに送られたのと同様に、ぽんっとピンク色の煙が湧き上がった。そして、小さくだがドリルちゃんの前で『お茶会しない?』と文字が出来上がる。


 しかし、すぐにドリルちゃんの魔法なのか雲散してしまった。消すのが早い。


 さすがにピンク色の煙を見て、周りが一瞬ざわめく。しかし、それに気付いた教師が生徒を振り返り、静かになる。教師はまた後ろを向き、解説を始めた。


 ドリルちゃんは、こちらを見ていた。きっと睨んだあと、前を向いて授業を聞き始める。


 んー、返事はなしか。やっぱり、こないだのが悪かったのかな? ちょっと言い過ぎちゃったから、謝罪もしたいんだけど。


「……ダメか」


 ぽつりと思わず漏らす。仲良くなりたかったんだけどな。


 ミラは先日行われたお茶会を思い返した。どこで間違えてしまったのだろうと。

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