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婚約破棄されるはずの悪役令嬢は王子の溺愛から逃げられない  作者: 辻田煙
プロローグ「悲劇のマリオネット」
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第2話「忘れていた時間」

 ゲームはスムーズに進んでいった。


 なんの問題もなく正ヒロインである王子を攻略。無事めでたく結婚と出産をしていた。正ヒロインというよりチョロインだった。どうやら『悲劇のマリオネット』には一定のテーマがあるらしく、それが竜らしい。竜教会に、竜巫女。主人公も竜巫女だとかで、未来予知が使えていた。


 悪役令嬢も実に美しかったのだが、王子にあっさり婚約破棄され、いつの間にか死んでいた。誰かに殺害されたらしい。あまりにも軽く殺されたことだけ告げられ、一瞬見逃してしまったほどだ。


 悪役令嬢の姿をもう少し見たかった灯里としては少し残念だった。


「さあ、次、次~」


 灯里は時間の感覚を失くしながら、ひたすらやり込む。ここからはハーレムだ。カーテンを閉め切った部屋でベッド脇の間接照明一つの灯りの中、スマホでネット情報を漁る。


 攻略対象はあと二人いる。王国騎士長の息子とシークレットが一人。公式サイトでもいることだけは仄めかされたが、結局誰だか分からない。


 灯里はいまだに眠気のこない身体にありがたみを感じつつ、ゲームを進めた。


 ――舐めていた。


 灯里は一つ深呼吸する。王国騎士長の息子の攻略難易度がここまで高いとは。王子が割とあっさり攻略でき、どうせ同じ感じの難易度だろうとサクサク進めていたのだが――バッドエンド。攻略出来ないどころかバッドエンドの嵐だった。同じ作品の内容だよね、と疑いたくなる。戦争に行って死んでしまったり、愛憎あいまって殺されたり、しまいには主人公が教会へ幽閉され、結婚されるのを聞かされるという。まるで主人公が悪役令嬢になったみたいなルートまであった。王子のルートがお花畑に見えるようなものばかりだ。


 制作者も趣味が悪い。この場合は制作会社か。でもこれは本当にいい意味だ。灯里としては難易度が高いのは燃える要素と言える。


「やるじゃない……!」


 制作会社に対抗意識を燃やしつつ、灯里は攻略に夢中になっていく。


 しばらくして、どうにか辿り着いたハッピーエンドには泣いてしまった。普通に結婚するだけなのに紆余曲折ありすぎじゃないだろうか。


 悪役令嬢は、このルートでもやっぱり誰かに殺されていた。他のエピソードに紛れてあっさりしていたものだ。彼女も登場人物であるはずなのに随分と雑な扱いだった。


 王国騎士長の息子を攻略した灯里には一仕事終えた達成感に酔いしれた。しかし、『悲劇のマリオネット』はこれで終わりではない。むしろ、これからが本番だろう。


 ――隠しエンド。シークレットの攻略対象。


 灯里はそれが存在することは知っていた。しかし、前情報では誰なのかすら不明だった。


 もっとも一通りプレイした今の灯里には、対象が誰だか予想が付いていた――悪役令嬢である。他のルートでは異様に存在感の薄い扱いを受けていたが、ここにきていきなりヒロインに躍り出るんじゃないだろうか。


 あまりにも気になり過ぎて見た攻略サイトにはそう書き込まれていた。自分だけではいまいち半信半疑だったが、これで確信に変わる。


「乙女ゲーなのに、最終的には百合って……」


 予想外にもほどがあったが、分かればどうということはない。


 彼女に向けて集中すれば、王国騎士長の息子を攻略した自分にできないことはないのだ。


 灯里はそう意気込んだ。


 そしてゲームを進め――


「……だーっ!」


 灯里はベッドの上にSwitchを投げ出した。悪役令嬢の攻略難易度は異様だった。製作者はもはや攻略させる気は無いのではないだろうかと勘繰ってしまう。


 攻略サイトも阿鼻叫喚の有様で、クリアできているらしいのは数人だ。しかも攻略できたことだけ報告し、攻略サイトなのに攻略情報を乗せていない。


 仕方なしに独力で挑んでいたのだが、どうあがいても最終的には殺害される。しまいには主人公が悪役令嬢を殺すという、どこのサスペンスだよ、という展開を見せていた。灯里は溜息をつかざるをえなかった。


 上手くいっていると思った矢先にこれだ。


 途中までちょっと感動するくらいには、ラブラブだったはずなのに。なんで、こんなにやっているのに攻略できないんだろうか。


 ふと、そこで時間が気になった。


 そういえば、どのくらいやってるんだっけ。


 灯里は時間の感覚を忘れたくて、ゲームのプレイ中、時計を一切見ていなかった。ゲームに夢中ですっかり忘れていた。


 さっきはスマホを見た時は――あれ? 何時だったけ? ついさっき見たばかりなのに思い出せない。


 灯里はスマホを点け、時間を見た。


 ――午前零時十分。針はゲームを始めた時間と同じところを指していた。まったく進んでいない。


 困惑が灯里を襲う。


 ……なんで? だって、こんなに。仕事終わって……。そういえば今日は何月何日だろ? 私は今何歳だっけ? 思い、出せない。


 投げ出したSwitchのゲーム画面が目に入った。冒頭に戻った『悲劇のマリオネット』のゲーム画面。オープニングムービーが終わり、ロードを選択すれば、続きが出来る。


 灯里の思考がぐるぐると回る。


 ――『悲劇のマリオネット』。乙女ゲーム。休日。仕事。出勤。……事故。


 唐突に気付く。


 そうだ、これは私が最後にしたゲームだ。どうして気付かなかったのだろう。


 死ぬ前の事故直前まで続きが気になって仕方がなかったゲーム。記憶がどんどん戻ってくる。


 休日明けの出勤で死亡した。『悲劇のマリオネット』をプレイした翌日だ。相手が信号を無視した、追突事故だった。


 車で出勤中、停車した交差点で――なぜか、突っ込んできたのだ。大型のトラック。スローモーションのように感じたあの瞬間。灯里は何も出来なかった。


 轟音と、すぐに起きた火災で灯里は消え去った。苦しかった。


 あの時の身体の感覚を思い出す。


 熱い。熱い。熱い。熱気が喉を焼く。目が痛い。そう思った次の瞬間には意識は消え去っていた――


 今の状況はおかしい。死んでいるはずなのだから。灯里の記憶は今の記憶ではない。




 ――そう、これは夢だ。

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作者が泣いて喜びます。


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