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第14話「誕生日」

 誕生日、当日。誕生日というイベントのせいで、両親と姉に付き合わされてドレス選び、料理選び、招待状やらと忙しない一箇月になっていた。親戚、それも狭い範囲でこれでは、十四歳の誕生日が空恐ろしくてたまらない。かなり忙しかったというのに魔法訓練も、勉学も休むことは叶わなかった。ミラは誕生日当日に際して、もはやくたくた気味だった。


 や、やっと誕生日……。


 朝、目を覚ましてすぐに思ったことは、まずそれだった。去年はここまででは無かったはずだ。ミラは確かに記憶している。


 ベッドの上で体を起こし、目を擦っていると、ドアがコンコンと鳴らされた。返事する間もなく扉が開き、お付きメイドのモナが入ってきた。


「おや、もうお目覚めでしたか」


「ちょっと、最初がそれ?」


「ふふっ、そうですね。お誕生日おめでとうございます。ミラお嬢様」


「ありがとう」


 モナの柔らかい笑顔が眩しい。人に祝われるというのはなんともこそばゆい。だが、温かい気持ちに浸っていられるのもここまでだった。


「ミラお嬢様、後が詰まっておりますので、お早めに朝食を」


「ああ、そうね」


 ほわほわと幸せな気分に包まれていたが、モナの言葉に今日一日予定がぎっしりだったことを思い出す。ぎっしりというか、主にお客様対応だ。祝われるのは嬉しいが、頑張るしかない、とやや後ろ向きな気分にもなる。


 ミラは両親や姉たちよりも早めに朝食を済ませ、メイド達に囲まれながら支度をした。いつも以上に入念で、風呂場では髪や体を丹念に洗われた。これ自体はいつも通りではあるが、ミラは一年経った今でも完全に慣れてはいなかった。表面上はそんな素振りを見せずになんとか乗り越える。


 その後、文字通りメイド達に囲まれながら、ドレスに着替える。ドレスは結局ニアが選んだものになった。白いドレスはまたの機会だ。


「お綺麗ですよ、ミラお嬢様」


 モナが楽しそうに言った。


 自室の姿見の中で、着替えたミラの姿が映る。ふわっふわの紫色のドレスが花の様に開いている。黒いチョーカーは相変わらずだが、いいアクセントになっていた。肩や胸など肌の露出は少なく、精々が腕くらいなものだ。思わず一回転すると、ふわっとドレススカートが広がる。


 可愛く、美しい。元来、前世では引きこもりがちだったので、ここ一箇月間は辟易していたが、ここにきて気分が上がってくる。


 周りのメイド達が「お誕生日おめでとうございます」と口々に言いながら、可愛い、可愛い、と褒めてくれる。おかげでいつになく楽しくなってくる。その一方で、よぎるのはジャン王子の顔。


 ジャン王子も褒めてくれるかな……。いや、もしかすると、褒め殺しにされるかも?


 最近の彼の言動を考えて、ミラは顔が熱くなった。


「ミラーっ!」


 バアンっと、部屋の扉が開かれる。ミラほどではないが、おめかししたニアが走ってくる。そのまま抱き付きそうになるのを、寸前でモナが止めた。


「ニアお嬢様、ドレス姿で走ってはダメです」


「はーい」


「本当に分かっておられますか?」


「はーい」


「はぁ……、ミラお嬢様に抱き付いてもダメです」


「はーい」


 朝から何をやっているのだろう、この二人は。


 モナが少々躊躇いながらも掴まえたニアを離すと、彼女はすぐさまミラの側にやって来た。


「ミラっ、お誕生日おめでとうっ!」


「ありがとう、ニア」


 朝から元気だ。握られた手がぶんぶんと振り回される。


「んふふーっ、ミラ可愛いーっ」


「そう?」


「うんっ」


 迷いない返事に、胸が熱くなる。抱き付きそうになったが、寸前で思い止まる。まだ、ドレスを乱すわけにはいかない。


 この後は招待客を出迎える仕事が待っているのだ。


「あらあら、可愛いわぁ」


「おー、さすが私の娘だな」


 ニアに続いて今度は両親がやってくる。お父様が頭を撫でようとして、お母様に止められた。


「もう、ダメですよ。せっかくセットしているんですから」


「む。そうか、残念だ」


 ミラも少しだけ物足りなく感じる。お父様が撫でる手は温かく安心するのだ。自分の誕生日を盛大に祝われるという慣れないことが控えている身としては、その温かさが欲しかった。


 そう思っていると、お父様に抱き抱えられ、逞しい腕の中で横抱きにされる。


「お誕生日、おめでとう。ミラ」


「誕生日おめでとう、ミラ」


 両親がにっこりと微笑みかけ、誕生日を祝ってくれる。


「ありがとう、お父様、お母様」


 今日はきっと何度も言われるだろう。だが、お父様やお母様、ニア、モナから言われる「おめでとう」は心が蕩けそうだった。



 時間は過ぎ、会場となっている屋敷内へぞくぞくと人が入ってくる。ほんの少しの親戚しか呼んでいないはずなのだが、こうして見ると、ずいぶんと人が多い。


 会場は屋敷の部屋を二つ吹き抜けにしたものだ。二つの部屋の端から端近くまでつく長テーブルが三つ。この屋敷唯一のシャンデリアが眩しく、華やかさを増していた。料理は立食形式で、スイーツも含めてよりどりみどりだった。


 今日の主役でなければ、あちこち食べ回っていただろう。事実、ニアの誕生日の時にはそうしていた。代わりに、今日はニアが早くも料理類に手をつけていた。姉妹で考えることは一緒らしい。


 パーティーの規模はそこまで大きくはしていないはずだが、両親の関係者も多少はいるので、人が多くなるのはしょうがない。やってくる人々の対応に両親ともども追われていると、奥の入口から見慣れた人物が入ってくるのが見えた。


 ミラはお父様の服の裾を軽く引っ張る。


「お父様」


「どうした、ミラ」


 一緒に相手していた女性を前に、お父様に話しかけて目線で訴える。


 女性がミラの視線の先を振り返り、相好を崩した。お父様はどこか複雑そうな顔をしている。


「いいわよ、ミラちゃん。私のことは気にしなくて」


「すみません。失礼します」


 お父様の返事を聞くより前に、ミラはジャン王子とジェイの元に向かった。ドレスなので小走りしか出来ないが、出来る限り早く彼らのもとに辿り着きたかった。


「ジャン王子っ、ジェイっ」


「ああ、ミ、ラ……」


「ジャン王子? どうかしましたか?」


 ジャン王子の前に辿り着いたというのに、彼はミラを見るなり固まってしまった。ミラは首を傾げ、頬に触れようとすると、さっと後ろに引かれてしまう。


「ジャン……」


「あ、いや、これは……」


「ジャン、見惚れるのもいいけど、伝えないとどうしようもないよ」


 ジェイが言うのに被せて、ジャン王子が勢いよく咳き込む。ミラは表に出さずに内心で喜んだ。


 そっか、見惚れちゃったのかー。ふふっ。


 じんわりと身体全体が温かくなる。


「ごほん、ごほんっ」


 ジャン王子は、もう一度咳き込むと、ミラをじっと見る。その圧に後ろに下がりそうになった。ミラは警戒した。ジャン王子が王子モードになっている。


「ミラ、似合ってる」


 次いで出たのは唐突な褒め言葉だった。


「本当に可愛い、美しい。露出が少なく、ミラの気品さが良く出てる。それに髪型も好きだ。何て言うのかは知らないが、ミラによく似合っている――」

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