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第13話「ドレス選び」

 ミラ、七歳の誕生日。前世――灯里の記憶を思い出してから一年近く経ったある日。


 子供の誕生日というのは、貴族にとってイベントの一つらしい。さすがに大人の仲間入りを果たす十四歳の時ほどではないらしいが。なんでも、その時には親族に招待状を送り、盛大に開くという。お父様の溺愛ぶりを考えると、はっちゃけすぎないか心配だ。


 それを考えると、今回は招待客なんて親戚の一部以外ほぼいないし、誕生日会自体は開くものの身内で行われるはずではある。


 だが、それなりに準備はする。


 誕生日まで、まだ一箇月以上あるのだが……、ドレス選びにミラは辟易しはじめていた。


 なにしろ今日で二日目だ。おまけに両親に姉と家族が勢揃いし、ミラのことを着せ替え人形のごとく楽しんでいる。昨日は昨日でメイド達に、あーでもない、こーでもないと着せ替えにされており、やっと終わったと思ったのだが、考えが甘かった。


 着せ替え会場になっているのは、ミラのベッドの寝室の隣。普段はミラのクローゼット代わりの部屋で、着替える時にくらいにしか入らない場所だった。


 それが今日――商人も呼んでぎゅうぎゅう詰めである。まあ、昨日も似たようなものではあったが。


 ミラは姿見の前で、真っ白いドレスに身を包んでいた。ドレスの裾が青色に染められ、見ている者を涼やかにさせるデザイン。


「ミラっ、一回転して見せて」


 まるでお姫様のような自分自身に違和感を覚えていると、近くにいたニアから声がかかった。彼女は目をキラキラしており、期待に膨らんでいるようだった。ニア自身の誕生日の時にはドレスを嫌がっていたくせに、ミラが着るのは楽しいらしい。


 それにしても、またか、とミラは思った。着替える度に両親や姉のニアにくるっと回ることを要求されるのだ。何が楽しいのかミラには分からない。綺麗だとは思うのだが、理解できない。


 そろそろお昼も近いのでミラは空腹だった。もう終わりたいのだが――


 ちらっと、ニアの側にいる両親を見れば、満足気にうんうんと頷いている。両親はよほど昨日見られなかったことが嫌だったらしい。今日、やけに張り切っていた。


 ニアの誕生日や今までの誕生日でも、ドレス自体は散々着て見せていたのに。ミラは思わず、はぁ、と溜息をついた。


 まさか、この調子で一日やらないよね? 昨日もやったんだし。


 ミラがニアの言う通りに、とりあえずその場でくるっと一回転すると、ふわふわのドレスが軽く舞った。ミラ自身の目で見ても、鏡に映る自分は可愛いことには違いなかった。しかし、何回も見ていればさすがに飽きてくる。最初こそミラの可愛らしさにドレスの着替えを楽しんでいたが、疲弊してくると話は変わってくる。


「やっぱり、可愛いーっ!」


 ニアが突然抱き付いてきた。熱い頬がうっとおしい程に顔に押し付けられる。まだ買ってもいないので、着ているドレスが皺になりそうな行為は控えて欲しい。


 このドレスを持ってきた商人――男装の麗人で、ニアが成長したら、こんな感じになるだろう――が端正な顔を歪ませている。


「ニア、熱いよ」


「えー、いいんじゃん、いいじゃん。お姉ちゃんの『あいじょう』だよー」


 ぐぐっと手で顔を突っぱねるも、ニアはめげることが無い。それに、またどこかで覚えた言葉を言っているのか、発音が不安定だ。


 ニアに対してうざったそうにしているミアを見て、商人から笑い声が漏れてきた。姉妹揃って商人を見ると、にこりと彼女が微笑む。綺麗、というか、かっこいい。思わず見惚れる。長い金髪を後ろで一房に束ねている彼女は、目鼻立ちがはっきりしながらも中性的な顔を楽しそうにしていた。


「ああ、ごめんなさい。あまりに仲が良かったもので」


「そうでしょっ。ニアとミラは仲、良しっ。……ミラ、なんで顔を押しすのー」


「暑苦しいからでしょ。まったく」


 いい加減諦めて欲しい。商人のお姉さんの笑顔、怒ったら怖いと思う。どうにも最近、姉のスキンシップが増え、困る。婚約破棄を回避のするために、色々と奔走したのが良く無かったのか。ここまで仲良くなることは想定していない。


「ヘレンさん、あなたから見て、ミラが着てみた感想はどう?」


「私も聞きたいな、それは」


 両親が口々にミラのドレス姿の感想を商人――ヘレンに求める。そんなことを訊いても意味ないだろう。ヘレンはいくらでも両親に買ってもらいたいのだから、似合っているとしか言わないはずだ。


「そうですね――」


 すらっとしたスーツ姿の彼女は居住まいを正し、じっとこちらを見てくる。ニアを押し戻すのも忘れて、気恥ずかしい気分になる。暑苦しいニアの存在が薄れる。ミラは縮こまった。


 な、慣れない。


 いくら同性とはいえ、恥ずかしさのほうが勝ってしまう。


「とてもよくお似合いだと思います」


 やっぱり、と思った。どこかほっとするミラだったが――


「王子もきっと喜んで下さると思います」


 ミラは思わず、バッとヘレンを見た。彼女の笑顔は相変わらずそのまま。かあっと顔が熱くなった。その見透かしたような顔に疑問が頭に浮かぶ。


 なんで? どうして?


「ミラ? む、熱い……」


「さ、触んないで。ニア」


「嫌ですー。……やっぱり、お姉ちゃんはこの服よくないと思う」


 ぺたぺた触ってきていたニアが突然そんなことを言い出した。ミラの両頬を掴んで見つめてくる。


「このドレスはやめよう、ね。ミラ」


「な、なんで? さっきは――」


「さっきは、さっき。……ジャン王子を喜ばせることなんてないんだから」


 ぼそっと呟いているのが丸聞こえだった。一体、どうしたのか。前まで、ジャン王子とあんなにひっつけたがっていたというのに。


「ニア。ミアから離れなさい。困っているでしょ」


「はーい」


 お母様の言葉に、あっさりとニアが離れる。


「商人さん。ミアに新しいドレスお願い」


「ふふっ、いいですよ」


 ニアが勝手に新しいドレスを催促してしまう。結構気に入っただけに、少しもったいなく感じる。商人の言葉に、ミラの中でこのドレスの価値が急上昇していたせいもある。


「ヘレンさん。このドレスはキープ出来ますか?」


「いいですよ。ご両親はどうなさいますか」


「買います」


「買いましょう」


 食い気味だった。いい両親である。ミラは内心でガッツポーズした。


 ニアがいない時に、ジャン王子に見せてあげよう。ヘレンの言う通り喜ぶのかは分からないけど。


「分かりました。精算は後程」


 ミラも両親も納得している中、不満そうなのが一人。離れたはずのニアがまた抱き付いてくる。


「ミラはお姉ちゃんのだもん」


 別にこのドレスでどうこうなる訳でもないと思うのだが。


 ミラは苦笑しながら、ニアの頭を撫でた。


 婚約破棄されない限りは、ジャン王子のものになっちゃうんだけどなー、と思いながら。

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