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第12話「ミラの決意」

 結局、アクセサリーショップでは何も買わなかった。ジャン王子がキープしたものだけだ。


 あとは普通に店を回ることになった。といっても、ミラの気を引くようなものは少なかった。この世界特有の果物や野菜は興味深くはあったが――頭にはずっとさっきのブレスレットがあった。


 ジャン王子はそんなことはないのか、あまり変わった様子はなかった。その方がありがたいし、楽しいからいいのだが、なんだか自分ばかり意識しているようでつまらない部分もある。


 もっと、こっちを見て欲しいんだけどなぁ。


 せめてもの抵抗で腕を組むのは継続する。中身は二十代を超えているのに、こんな小さい子供相手に何やっているんだという感じではある。


 それにしても、子供というのはある意味手ごわい。恋を知る前なのだから、しょうがないけど。


 一通り市場を見回った頃、ミラはもう一つの行きたい場所をジャン王子に告げた。


「ジャン、次は教会に行きたい」


「教会? お祈りでもするのか」


 ジャン王子はあからさまに気乗りしていなさそうだった。お祈りなんてこの歳の子供には退屈なのだろう。それ自体はミラも同じだった。しかし、目的は別にお祈りではない。


「違うよ、ジャン。教会の鐘、行ったことある?」


「あー……。そういえばないな」


「でしょ。行こうよ。いや、行く」


「おいっ、またっ」


 ミラは、またしてもジャン王子を引き摺るように教会の鐘に向かった。


 この国の教会は少し変わっている。もっとも、それは前世の灯里の知識と比べたらの話だ。教会というと、沢山の椅子と、教壇、ステンドグラスからの綺麗な光を思い浮かべる。だが、ここでは違う。


 前世の教会イメージに違わず、そう言った場所もあるのだが、この世界では国の教会の鐘が観光スポットになっているのだ。教会の裏手に鐘があるのだが、展望台にもなっていた。街中にも関わらず、周辺を一望できる高さまである塔。一番上は広場になっており、中央に鐘があった。ミラは使用人達や家庭教師からの授業で知っていた。


「おい、大丈夫か?」


「だ、大丈夫。はぁ、はぁ、ちょっと、んぐっ、舐めてた」


「ったく、しょうがないな、少し休むか」


 ミラはジャン王子に引っ張られ、近くのベンチに座った。休憩場所があって実に助かる。


 鐘までは、教会前の広場から階段で繋がっている。だが、とにかく段数が多い。これだけで修行になりそうだった。前世にも似たような神社があったが、それに近い。


 最初の勢いはどこへやら、ミラは完全にバテていた。それなのにジャン王子は平気そうな顔をしている。息も上がっていない。


「はぁ、ジャン、なんで、そんな平気なの?」


「そりゃあ、騎士団に混ざって訓練もしてるしな。これくらいなら平気だ。魔法だって使ってるし。俺はミラがそんなにバテているのが不思議なんだけど」


「ははっ、すごいね、ジャン」


 ジャン王子からしてみれば、剣術訓練での動きとイメージが合わないのだろう。魔法もあるのに、と。


 だが実際の所、ミラは身体強化の魔法がそこまで得意じゃない。どちらかというと、内側よりも外側に出す方が得意なのだ。


 今は竜巫女の怪力がある。短時間ならそれで無理やり誤魔化せるのだが――いかんせん持久力が無い。


 だから、階段をひたすら上るとかいう芸当は苦手なのだ。事情を分かっていなければチグハグに見えても仕方がない。


「そろそろ行けるか?」


「うんっ」


 ジャン王子が手を差し出してくれる。ミラはそれに飛びつく勢いで抱き付いた。


「……あんまりゆっくりしていると、帰る時間に間に合わなくなるからな」


「分かってますー。でも、いざとなったら、おんぶしてくれる?」


「まあ、ミラは軽いから別にいいけど……」


 つれない返事だ。もう少し喜んでくれてもいいと思うのだが。


 観光客で賑わう中、ジャン王子とともに階段を進む。同年代くらいの子供が目の前を走っていく。おかしい、自分も子供のはずなのだが。竜巫女の力と引き換えに何かを失っている気がしてならない。


「着いたぞ」


「え? あ、本当だ」


 疲労のあまり下ばかりを見ていた。向かった時とは逆に、ジャン王子に引き摺られるように展望台に到着する。


「うわ、人でいっぱい……」


「鐘が隠れているな……」


 疲れている時に人混みは少々きつい。鐘は触れるとご利益があるとかいう、どこかで聞いたことのある噂もある。それゆえに、鐘に人が群がりがちになるのは分からなくもないが、多すぎやしないだろうか。


 景色を見たい。もう人は見飽きた。


「ジャン、街が見える方に行こう……」


「そうだな」


 ジャン王子に縋りつくように、人混みの中を進む。それにしても、家族連れも多いのだが、妙にカップルが多い気がする。パワースポットかなにかなのだろうか?


 そんな中を進み、街の景色が見えるところまで辿り着く。だが、鉄柵が設けられており、柵越しにしか見えない。それでも、普段見る景色とは一線を画している。美しい景色、心なしか空気が澄んでいる気がした。


「はー……。ふー……」


 深呼吸すると多少は気持ちが楽になってくる。今のミラの身体であれば平気なはずなのだが、多少前世の気質を引き摺っているのかもしれない。引きこもりは気質は世界を跨いでも残るのだろうか。


「あっ、王城も見える」


「ああ……」


 ジャンは展望台からの景色をどこか複雑そうに見ていた。今の年齢で分かるとは思えないが、将来、王になるという運命に漠然とした不安を感じているのかもしれない。


「ジャン、大丈夫?」


「ミラに言われたくないな。治ったのか?」


「む。もう元気ですー」


「……ならいいけど」


 ジャン王子はふいっと景色にまた顔を戻す。ミラはどこか遠くに彼を感じ――腕に頭突きした。


「な、なんだよ。ミラ」


「ジャン、私のこと忘れてない?」


「は? なに言ってるんだ?」


「ジャンはね、一人じゃないんだよ。私もいる」


「……そうかよ」


「そうだよ」


 ぐりぐりと頭を擦りつけると、ジャン王子が喚き出した。


「分かった、分かったから。やめろっ」


「本当?」


「一人じゃないってことだろ」


「うんっ」


 ミラはジャン王子を鼓舞するように元気に返事した。彼の目を見て、彼の記憶に焼き付かせるように。今、この時を忘れさせないように。


 その瞬間、ジャン王子がなぜか顔を真っ赤にしていった。それは大変可愛らしいものだが、なぜなのか。


「ジャン、照れてるの?」


「……照れてない」


「うそだー、耳赤いよ」


「赤くない!」


 ジャン王子は必死に弁明するが、どう見ても照れている。顔を逸らそうとしている。まあ、ミラが腕を離さないので限界があるが。


 ふいに、ミラは楽しくて楽しくてしょうがなくなった。ずっと、こうやってジャン王子と一緒に過ごせたらもっと楽しくなれるだろう。だからこそ、と思う。


 ――婚約破棄になど、なりたくない。

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作者が泣いて喜びます。


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