えんぴつ〜恋のおまじない〜
それはある日の放課後の出来事。小学六年生の堤誠が帰ろうとした時、クラスメイトの会話が耳に入ってきた。
「なぁ、知ってる? 鉛筆に好きな子の名前を彫って使い切ると両思いになれるらしいぜ」
「マジで?」
誠には同じクラスに好きな女子がいる。これは良い事を聞いたと、ウキウキな気分で教室を出た。
「それって消しゴムじゃなかった?」
「え、そうなの? なんか文房具に名前書いて使い切るって聞いたから、てっきり鉛筆かと思った」
「うん、消しゴムだね」
「そーなんだー」
家に帰って早速、新品の鉛筆を用意した誠。
いざ、彫ろうとカッターナイフを鉛筆に当てて気付く。
「え、これって漢字で?」
誠の想い人の名前は鳳凰院鷹子。
鉛筆は円柱形。曲面にこの画数の漢字をどう彫ればいいのか悩んだ。
「よし、カタカナにしよう」
誠は指先を震わせながら、なんとかホウオウインタカコと彫る事ができた。
いざ、使う為に鉛筆削りで削る。
鉛筆にはウオウインタカコの文字。
「一文字消えると、なんか切ないな」
目尻がキラリと光る。
誠は鉛筆を使い始めた。学校のノートやプリントはもちろん、鷹子をモデルとしたイラスト、鷹子への想いを綴った詩、鷹子と自分が出てくる自作の漫画など。鉛筆を早く使い切りたい誠はいつも以上に書きまくった。
そして、とうとう鉛筆は持つところが残り一センチをきるところまでいった。
そこで誠は気付く。
「使い切るって、どうやるんだ……」
鉛筆は持つだけで人差し指と親指がプルプルと震える。それをこれ以上、どうやって削るというのか。芯はまだ残されている。
誠は考えた。授業中も食事中もお風呂の中でもトイレ中も歯磨き中も、そして布団の中でも考えた。
徹夜明け、カラスが鳴く中、誠は閃いた。
「縦に半分削ればいいんだ!」
誠は布団から飛び出し、鉛筆を削り出した。半円柱形、いやほぼ半円錐形になった鉛筆。削った面に芯が露わになった。
「よし!」
芯が出ている面をノートに擦って一面を真っ黒に塗り始めた。
カスッカスっと音がして、鉛筆から黒色が無くなった。
「やった、やったー! 使い切ったぞ!」
何日も過ぎるが、何も起こらない。変わらない。
誠は考えた。
「やっぱり、漢字じゃないとダメなのか……」