ご都合主義の物語はハイファンタジーにあらず ~物語の整合性について~
チートに限らず主人公に都合のよいことばかりの「ご都合主義」のお話は、大人からすれば、子供じみたおとぎ話みたいなものです。
それを(マンガを読むような気持ちで)楽しめることもありますが、極端な作品になると目を通すのも恥ずかしくなるものもあります……
大人の読む物語って、最近ドラマでも少なくなったなぁ。
第1部にも書きましたが「主人公は物語の中心であり、世界の中心ではない」ということです。
主人公が(ほかの登場人物よりも)強大な力を得て行動するのを「俺TUEEE」などと言うらしいですが、そうした(コメディーチックな)主人公のお話はわりと簡単に書けます。なぜなら主人公はなんの苦労もせず強大な力を手に入れ、戦えばどんな強敵でもあっさりと倒せるからです。
それがおもしろく書けるかは別の問題ですが。
主人公の強さがほかの登場人物よりも極端に強いと、物語世界の均衡は崩壊します。──まるで主人公を世界の中心にしたような物語になってしまう──
あるマンガの主人公のごとく、ほかの一般人はまるでゴミのような戦闘力しか持たなくなってしまう(物語の外野となってしまう)。
たとえ1億人が集まったとしても、その主人公に勝つことは不可能なほど主人公力がインフレし、人間だったはずの主人公はいつの間にか、周囲の人間を虫のように小さな存在にしてしまうのです。
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主人公が現実世界から転生して~というのも、はっきり言ってハイファンタジーの要素ではありません。
というか、現代人が異世界に転生して~というほうが、作者が文章を「書きやすい」から、転生設定を盛り込むのだと思っています。
「中世ヨーロッパ風の街並み~」なんて言葉を使う主人公は、現代に生きていた人物でなくては口にしないからです(主人公の価値観や倫理観に共感しやすいというのもあるでしょう)。
転生主人公を扱ったハイファンタジーであるなら、「現代知識」を使って困難な状況を切り抜ける──程度にしておいてほしい。やたらとちやほやされたり、あるいは逆に「こんなのはなんてことない」みたいな態度を取るのも鼻につきます。
まして「チート能力を与えられて」とか論外です。
さらにはなぜか神様がご丁寧に異世界の解説をしたり、異世界での生活案内もしてくださると、もはや「異世界《接待》ファンタジー」とでも呼びたくなります。
そうしたお話がチープでないと言うなら、もはやどんな展開でも驚きません。
それは魔王が仲間になったり、ドラゴンがたいした理由もなく美少女になって主人公を好きになるし、与えられた能力で主人公は空だって飛べるでしょう(ほかの人は飛べないのに)。──そこには別に科学的な根拠もリアリティも必要ない。
「主人公(とその仲間)は万能だから」
理由はそれだけでいい。
そうしたご都合を与えたキャラづけや世界観は、作者がそのつど適当に肉付けした場合も多く、そうした作品はすぐに違和感(矛盾)を生みます。
適当に作ったキャラクターと世界観。
そこにはハイファンタジーの魅力は皆無です。
世界観に疑問符が付くと読者は、その世界に入り込むことはできません。
ギャグだから、コメディーだから、と言って許される作品は、ハイファンタジー(異世界の物語)ではありません。
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何度も言っていますが、リアルさや表現には注意してほしい。
ハイファンタジーに限らず整合性のない話は、本来なら「幼稚な内容」として切り捨てられます。
中には整合性よりもおもしろいかどうかだ、といった意見があることも知っています。そうした意見の人は矛盾や、登場人物の行動のおかしさよりも、勢いのある展開を好んでいるからでしょう(そしてそれは、たいていリアルさを必要としないコメディーチックなものです)。
シリアスな物語は常識的に考えて、あるいは客観的に見て「どうもおかしいな……」と感じさせる内容ではいけません。
映画「ルール」を見たことはあるでしょうか。
あれはスリリングな展開が繰り返し何度も立てつづけに起こり、ハラハラとした緊張感を感じさせる作りになっています。
しかし──冷静に考えてみると、どうもおかしいと感じます。
なぜ犯人はターゲットとなる登場人物を的確に追いかけられるのでしょうか? 見失ったりしないのでしょうか? なぜ犠牲者が車で移動するとき、すぐに車で追いかけることができたのでしょう?(車を何台も配置していた?)次々に襲いかかるとしても、ターゲットとターゲットの距離は離れているんじゃないのかな?
とくに最後まで見て、犯人が誰かわかったあとは、最初の犠牲者の死に方にも疑問が……(車の上に犠牲者を宙づりにしたやつ)
だがそれは演出上のものなので、まだ許されるのかもしれません。「こまけえことはいいんだよ」の精神です。
しかし物語の展開にご都合が感じられる作品は多い。ご都合で物語が動いている(作者の書きたいとおりに動いている)と感じられてしまったら、その物語は現実感を失います。
リアリティを持った物語作品では、そうしたご都合主義は致命的なものになります。読者に不審を感じさせたらアウトです。
「ルール」のような演出上の展開は多いですよね。言い出したら切りがないというか……
でも気になり出すとどうしても不自然に思えてしまう展開って結構あります。