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「地の文」の必要性

ハイファンタジーの世界を著す文章の多くは、かなり堅い(難しい)文章が多いです。口語体で気軽に読めるような文章ではなく、しっかりとした世界観を描くため、多くの作品で三人称視点の「三人称書き」で書かれています。

(中には三人称書きの文章に、たびたび一人称で書かれた文章が入ってくる作品もあります)


❇6部のタイトルを変え、追記を新たに加えました❇

「地の文」とは、登場人物の会話以外の、情景描写などの叙述じょじゅつ部分の文章のことです。

「小説家になろう」では、この地の文は極力けずって、キャラクター同士の会話で話を進めるものが多い印象(読みやすさを重視し、難しい表現や描写は極力はぶく)。



 しかしハイファンタジーの魅力とは本来、そこで物語られる登場人物の苦悩や成長だけでなく、世界を描写する「地の文」も必要になります。

 主人公たちは空白の世界で戦ったり、会話しているわけではありません。

 必ずどこかの土地で、世界で行われているのですから。


 くわしい描写を書く必要はないと、多くの読者は思うかもしれません。そんなものを読んでも「つまらない」からだというわけです。

 しかし具体的な描写もなく、ただ「森を歩いている──」と書かれても、それがどんな「森」かは、読者の想像に丸投げされたものになります。



 森には木が生えているでしょう。その木の種類は? あるいは木には実がなっていますか? そうすると季節は秋? 地面には根っこが張り出し、歩きにくくなっているかもしれません。生物はどんなものがいるでしょう? 森の中の匂いや空気感、湿度など。音が聞こえてきたり、生き物の鳴き声だってするでしょう。……考え出すと、たくさん出てくる「世界」についての描写。

「森」とだけ表示された世界を歩く主人公。──それを読んで「描写が優れている」などと言わないでしょう。


 具体的な描写は文芸作品には大切なものです。とくにハイファンタジーでは。

(もちろん情景描写を書きすぎると、わたしの書く小説のように、それだけで忌避するような読者も多いです。

 ですが、そうした描写によって物語に引き込まれる読者もいます。文章から想像力を働かせて読むのに慣れた読者は、必然的に筆力の高い作者の作品を求めるようになります)



 ハイファンタジーの世界を描写する筆力。地の文で読ませる筆力。それは作者にとって大切なものです。

 読者もそうした地の文から「想像する」力が必要になります。

 想像しながら、考えながら本を読むのは苦しいことじゃありません。むしろ楽しい時間です。

 書かれたさまざまな語彙ごいや経験的な知覚を共有することができれば、文章からあらゆることを理解できるようになります。


 ただ主人公が「傷を負って苦しむ」とだけ書かれた文章よりも、痛みの程度を表現する文章のほうが、よりリアリティをもって想像できるはず。

「苦しくてのたうち回る」でもかまいませんが、「ヒロは内臓を刺し貫かれるような痛みを感じ、思わず腹を押さえた」とか、具体的な感覚や仕草などもあると想像力をかき立てやすいでしょう。


 世界観を描写するにも、そこに生活する人間の姿を描写するにも、なんらかの表現が必要です。

 登場人物の心の中で起こる葛藤なども、読ませる工夫がされた文章のほうが読者を引きつけるのは間違いありません。



「まえがき」に書いたとおり、海外のファンタジー作品などを読めばわかりますが、たいてい「三人称書き」で書かれています。それは世界観(場面)を描写するのに適しているからです。

 一人称書きはあくまで主人公の視点や知識で()()()()ため、場合によっては世界観の描写にかたよりが生まれがち。


 難しい言葉ばかり使っている小説は読みづらいでしょうが──しかし、だれもが読める文章では、ハイファンタジーの世界観は(その表現によって)安直なものになる場合もあります。

 ハイファンタジーを彩る世界や文化や人の心理を表現する言葉には、知的な言葉を使用すると雰囲気が付け加えられるでしょう。

(ハイファンタジーの文章には独特の「格式」といった、雰囲気のある言葉が使用されるものが多いです。──「漢語的表現」や「雅語がご的表現」といったもの)


 少なくとも想像力と思考力を持った大人の読むハイファンタジー作品とは、日常的に使う言葉ばかりであることは滅多にありません。



【追記】


(ファンタジー作品の)文章による優れた表現とは、やはり「世界の描写」にあるのではないでしょうか。

 小説を読んでいるときに、あるいは読み終わって時間が経ったあとでも、場面シーンを思い起こすことのできるものは優れた文章に違いありません。


 現実には存在しない怪物などを小説に登場させるとき、それを表現するのは言葉です。

 すっかりイメージの定着したミノタウロスを登場させ、それと戦っています。というだけの文章では無味乾燥です。

 記号化した怪物ではなく、作者がイメージした怪物が臨場感をもって想像できる、生きたモンスターとして現れるような表現。そうした文章を書く作者と、想像力をもって文章を読み解ける読者。そこにはただ文章をなぞるだけのものではない、没入感が生まれるでしょう。


 その物語の「世界」を感じられる内容と文章。

 ハイファンタジーのおもしろさは、そうした未知の世界を見られる(経験できる)部分にあると私は考えます。

ネット小説の多くは気軽に読めるよう、難しい単語は避け、表現も身近なものを利用しがち。ですが、大人の読む物語とは文章から考え、想像するところに愉しさがあるのではないでしょうか。

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